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2012年4月13日 (金)

プライバシー保護後進国ニッポン

日本経済新聞は411日と12日、「グーグルの個人情報指針を考える」と題して、玉井克哉東京大学教授と新保史生慶應義塾大学准教授の論考を掲載した。どちらも、グーグルのプライバシーポリシー一元化に関する問題提起である。多少重複しているところもあるが、どちらも平明な文章で、問題点を指摘している。

玉井教授は、EU(欧州連合)が本年1月、加盟各国のデータ保護法を一元化し、独立のデータ保護機関が全欧州にわたる一貫した法執行を担うとの新法を提案していることや、EUや米FTA(連邦取引委員会)がグーグルの独占禁止法違反について調査中であることを指摘し、わが国の法整備の遅れを批判した。

新保准教授は、「問題解決のための糸口」として、①新たな利用者保護の仕組み、②個人情報保護方針のあり方の再検討、③国境を越えた個人情報保護と国内における統一的な法執行機関の設置、を挙げている。

「ネットワーク・プライバシー」の問題は、特定のプライバシー情報が漏洩する、というだけにとどまらない。人はパソコン、携帯電話、ATM、街角の監視カメラ、その他あらゆる媒体を通じて、意識的・無意識的にプライバシー情報をネットにばらまきながら生活している。このばらまかれた情報を、いわゆるビッグデータ活用の名の下に、拾い集めて再構成すれば、ネット上にその主体となる人間の人格を造り出すことができる。それは、マーケティング等の分野で、多くのビジネスチャンスを生み出すだろう。

しかし、ネット上における人格の再創造は、その人のプライバシーをあからさまにするものだ。ペルソナ(人格)の語源が「仮面」であることが象徴的に示すとおり、異なる世界で別の顔を使い分けることは、人間が社会生活を営む上で不可欠の行動だから、「別の顔」を暴露されない権利は、その人の基本的人権として保護されなければならない。

さらに恐ろしいのは、プライバシー情報の再構成過程で過誤や情報脱落が発生し、別の人格が創造されてしまうことだ。

このこと自体は、情報法学者によって20年以上前から指摘されていたが、いよいよ現実の問題として浮上してきたわけだ。

欧米では1980年にOECDプライバシー・ガイドラインが制定され、1995年のEUデータ保護指令へと発展した。欧州を初めとする各国には政府から独立した第三者機関としてプライバシー・コミッショナーが設置されたが、日本では、2003年にようやく個人情報保護法が制定されたものの、私人間効力のない行政法規に過ぎず、しかも監督官庁ごとにバラバラで実効性に欠けるもの。この時点ですでに「周回遅れ」の差を付けられていた。

ところが、玉井教授によれば欧州は国際機関を設けて法執行を委ねるという。国際的な情報流通が当たり前になった今日、プライバシー保護制度のあり方としては、当然の進化形といえよう。

しかし日本では、未だ省庁縦割りすら解決できず、グーグルに対する行政指導も、司法判断も、完全に無視される始末。

案外知られていないのは、このプライバシー保護後進国において被害を受けるのは、一般市民ばかりではない、ということだ。本来、「プライバシーを侵害する側」である筈の日本の情報産業の方こそ、被害者とさえいえる。なぜなら、欧米の企業にとって「ルールがない」ことは「何をやっても自由」であることを意味するが(グーグルの振舞がその典型)、日本企業にとって「ルールがない」ことは、「何をやるのも禁止」を意味するからだ。実際、日本の大手情報産業は、総務省に日参し、「規制を作ってくれないと競争に参入できない」と陳情していると聞く。

こうして、日本の法制度が2周遅れになる中、日本の情報産業は3週遅れへの道を歩むのだ。

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