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2012年4月23日 (月)

法曹養成制度に関する総務省提言と未来予想

総務省行政評価局は420日、「法曹人口及び法曹養成制度の改革に関する政策評価」を行い、弁護士は供給過多であり、質の低下が懸念されるとして、「司法試験合格者数年3000人」の閣議決定の見直し、法科大学院の統廃合や定員数削減等を、文科省と法務省宛に勧告した。

総務省行政局は、他省庁の政策評価を行う部局でありながら、政策仕分けの対象になるという赤っ恥をかき、組織存亡を賭けて評価対象に選んだのが、法科大学院制度である。だから、同局が上記提言を行うことは、当初から予想されたことであり、新味はない。

もっとも、予想通りの勧告とはいえ、その影響を見ると、興味深い点もあるので指摘しておきたい。

まず、平野文科省は20日、閣議において上記勧告を「しっかり受け止める」と発言し、法科大学院の教育内容や組織変更に取り組んでいく旨、記者会見で述べた。これは、事前に両省間ですりあわせがあったことを示している。今後文科省は、総務省勧告を追い風に、法科大学院の統廃合に向け積極的に取り組むだろう。

また、地方紙が上記勧告を大きく報じている。知る限りでも、北海道新聞夕刊が1面に793文字、信濃毎日新聞夕刊が1面に586文字と143文字、静岡新聞夕刊が2面に645文字、西日本新聞夕刊が1面に660文字だ。文字数がバラバラなのは、配信記事ではなく、地元記者が執筆したから。地方紙が独自の記事を載せるのは、地元法科大学院の存廃がかかっているからと思われる。

全国紙の取り扱いも大きい。特に日経は、20日夕刊1面トップと社会面に記事を載せた。基本的には事実のみの報道だが、最後に、「安易な合格者数削減」に反発する「都内法科大学院で教員を務める弁護士」の声を紹介している。2面と社会面に二つの記事を載せた読売新聞は、「名誉ある撤退」に言及する中山幸二法科大学院協会事務局長の言葉を紹介した。両紙とも、法科大学院の統廃合に関心を持っていることがわかる。

それでは、上記勧告と、文科省は、法科大学院の総定員数をどの程度まで削減することを考えているのだろう。

持つべき視点は三つである。第一は、法科大学院卒業生の合格率目標「78割」が、司法制度改革審議会意見書(平成13年)当時は「単年度合格率」を意味していたのに、いつの間にか、卒業生1人あたりの合格率(累積合格率)にすり替わり、上記提言も、「累積合格率78割」を目標としている点だ。従って、文科省が目指す法科大学院総定員数は当面、「累積合格率」7割ということになる。

第二は、法科大学院のランク付けと損益分岐点だ。『こん日』151頁以下にも書いたとおり、東大以下の旧帝大と有力公立・私学の法科大学院定員数だけで、総定員数は2000人から2500人となる。ただ、日弁連をはじめ、地方の法科大学院廃止に反対する勢力も強いから、総定員数の削減には様々な障害が予想される。一方、法科大学院を維持するためには、1学年最低30人必要だから、この学生数を確保できない法科大学院は順次消滅するだろう。

第三は、上記2点から、司法試験の合格者数はある程度自動的に割り出される、ということだ。法科大学院の総定員数が2500名で、累積合格率が7割なら、司法試験合格者数は年間1500人前後となろう。但し、これは従前の有資格者数(すでに約15000人はいる)をカウントしていない。また、受験回数制限を3回から5回にした場合、司法試験合格者数を2000人よりさらに増やさなければ、累積合格率7割は達成できない。

すなわち、上記提言に基づき文科省が考える「落としどころ」としては、法科大学院の統廃合と定員数削減を進めるとともに有資格者の退場を待ち、5年後には、総定員数2500人から3000人、累積合格率7割として、司法試験合格者数年1500人から2000人、というところだろう。

以上の推論から導き出される結論は、次の2点である。第1点は、上記勧告は「1500人でも多い」と踏み込んだ表現を用いたにもかかわらず、文科省に勧告した達成目標を「累積合格率78割」としてしまったため、この勧告に従う限り、司法試験合格者数1500名は、ほぼ実現不可能、ということだ。要するに、法科大学院制度を前提にする限り、司法試験合格者数年1500名以下は無理なのである。

2点は、翻って司法試験界の実情を見ると、今年度の法科大学院入学者総数がおそらく3000名を下回った事実が示すとおり、政府の対応より現実の方が早く進行している、ということである。このまま進めば、政府の提案する法曹養成制度が実現されるより早く、制度そのものが自壊することになるだろう。

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コメント

 論旨に異論を唱えるものではありませんが、
司法制度改革審議会意見書の7~8割も、累積合格率だと思います。
「法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が後述する新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきである。」
http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/report/ikensyo/iken-3.html

 ちなみに、単年度7割だとすると、3回受けて一度も合格できない人
(1-0.7)×(1-0.7)×(1-0.7)=2.7%
なので、単純計算だと、修了者の97.3%が合格することになっちゃいます。

投稿: なしゅ@東京 | 2012年4月24日 (火) 21時25分

ご指摘ありがとうございます。ですが、当初から、「累積合格率」との明示はあったのでしょうか?私は、「合格率」というのは、特に断らない限り、「合格者数÷受験者数」で算出するものと理解しています。司法制度改革は、旧試験の「弊害」克服が一つの目的だったところ、旧試験の合格率は累積合格率ではないのだから、新制度の合格率も、特に断らない限り、累積合格率ではない、と理解されるべきです。ちなみに審議会意見書も、文言上は両方の読み方が可能と思われますし、両方可能であるときは、特に断らない限り、「合格者数÷受験者数」を意味すると解されます。医師国家試験脳合格率だって、累積合格率では無いですよね?

投稿: 小林正啓 | 2012年4月24日 (火) 22時56分

 この点については多くのマスコミが「7~8割」を単年度合格率であるかのような報道をしてきたという経緯があります。これに関して第12回司法試験委員会会議で上谷清委員長は「7~8割」が単年度合格率であるかのような報道を誤りだとしています。この第12回司法試験委員会会議が開かれたのは平成16年11月ですから、まだ法科大学院1期生の修了前で、当然1回目の新司法試験の実施前です。したがって、司法試験の実施機関である司法試験委員会も当初から「7~8割」を累積合格率だと解釈していたと見るべきではないでしょうか。

 マスコミの中にはこの点についてその後も訂正することなく、「7~8割」が単年度合格率であると誤解を招くような報道を続けているところもあります。「7~8割」が単年度合格率だと誤解している人が少なくないのはマスコミの報道にも原因があると考えます。このような誤解を招く報道は半ば意図的なものではないかと私は考えています。

投稿: ぷるぷる | 2012年4月24日 (火) 23時50分

・「前回の委員会の審議が終わった直後に,朝日新聞に合格者数に関する記事が出て,それを切っ掛けにして,こういう新聞記事とか,記事を基にした意見が出ている。この朝日新聞の記事には事実と異なる記述がある。(中略)もう一つは,新司法試験は3回受験することができるので,その間にどの程度合格するかということで考えなければいけないにもかかわらず,1回だけの受験で20パーセント台や30何パーセントといった数字が出ているとして,いかにもそれで司法試験の全体の合格率がそれと同じ数字になってしまっているというような議論をしている点。この点はちょっと確率の計算をすればすぐ分かる誤解だが,3回受験することができるわけだから,例えば1回の試験で仮に4割くらいの合格率になるとすると,3回受ければ80何パーセントが合格するという数になると思う。しかも,これは抽選ですらそうなる数字である。」
(司法試験委員会会議(第12回)(平成16年11月9日)http://www.moj.go.jp/content/000006735.pdf)

・誤解を招く報道の具体例
「新司法試験の合格率は当初、7~8割が目安とされたが、今年の合格率は33%だった。新試験導入からまだ3年目とはいえ、実態は当初の狙いとかけ離れている。」
(「法科大学院 乱立解消は避けて通れない」(2008年10月6日読売新聞社説)

「関西地方の法科大学院に通う弁護士志望の女性(26)は「構想段階で7割程度と言われた合格率が現実は2割強。国にだまされたという感じが強い。新司法試験の可能性を信じ、一念発起して法科大学院に入ったのに今は不安でいっぱい」と話す。」
(「学生「不安でいっぱい」新司法試験、合格率最低に」(2010年9月10日朝日新聞大阪本社版))

投稿: ぷるぷる | 2012年4月24日 (火) 23時52分

 一人で何度も書き込んで恐縮です。<(_ _)>

 平成16年(2004年)の段階で司法試験委員会の上谷委員長が朝日新聞の報道を名指しして誤りだとした上で、「7~8割」は単年度合格率ではなく累積合格率のことだと司法試験委員会という公式の場で指摘しています。

 司法試験委員会は法務省所管の委員会であり、司法試験委員会の見解は法務省の見解、すなわち政府見解です。したがって遅くとも第1回新司法試験が実施される2年前の平成16年の時点で「7~8割」は単年度合格率ではなく累積合格率であるというのが政府見解であることは明らかです。

 にもかかわらず、一部新聞はその後の報道でもこの点について訂正せずに単年度合格率の事だと誤解を招く報道を続けています。さすがに新聞記者が司法試験委員会の取材を全くしていないとは思えないので、この点については意図的な報道ではないかと考えた次第です。(この辺りも「司法改革」を巡る「せめぎ合い」というか駆け引きの一側面なのかもしれません。)

投稿: ぷるぷる | 2012年4月25日 (水) 00時32分

ぷるぷるさん、コメントありがとうございます。ですが、「当初」というのは当然、制度設計段階ということです。また、司法試験を離れても結構ですから、合格率が当然に(特に断らなくても)累積合格率を意味する試験が、他にあったらご指摘ください。

投稿: 小林正啓 | 2012年4月25日 (水) 20時35分

長くなるので2つに分けます。<(_ _)>

「合格率が当然に(特に断らなくても)累積合格率を意味する試験」は私の知る限り見あたりません。ただ、司法制度改革審議会での議論(例えば第57回司法制度改革審議会では累積合格率を前提にした議論が委員の間でなされています。)及び改革審での議論を踏まえて作成された意見書を読む限り、「その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格」というのは、単年度合格率ではなく、累積合格率を指すと読むのが妥当な解釈だと考えます。改革審意見書が出された平成13年の時点で、「その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格」は、「累積」という表現を使わなくとも累積合格率のことだと、この場合は意見書で特に断っているということです。平成16年11月の第12回司法試験委員会での上谷委員長の発言もこれが累積合格率を意味することをあらためて確認したものです。(改革審の意見書を基に一連の司法改革法案が閣議決定されて、国会で法案が成立し、その改正法に基づいて司法試験委員会が新司法試験を運営しています。司法試験委員会が平成13年改革審意見書に基づく閣議決定を運用するにあたって、平成16年になって突然「単年度合格率→累積合格率」にすり替えたわけではないでしょう。司法試験委員会にそのような権限はありませんし。)

 司法制度改革審議会意見書では「法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきである。」とあります。分母は新司法試験受験者ではなく「その課程を修了した者」すなわち法科大学院修了者です。分母が受験者ではなく修了者なのは、本意見書が法科大学院の教育目標を示したものだからです。

 新司法試験の受験回数制限の趣旨の一つは、法科大学院における教育効果が薄れないうちに司法試験を受けさせる必要があるというものですが、逆に言うと、修了後5年3回の期間内なら法科大学院における教育効果が維持されていると考えられていることになります。このような受験回数制限が設けられた趣旨に照らせば、意見書の「7~8割」を単年度合格率ではなく累積合格率のことだと理解して、法科大学院における教育効果が維持されている5年3回の期間内に修了生が新司法試験に合格するように、法科大学院は充実した教育を行うべきであると読むのが素直な解釈ではないでしょうか。文言上も合格する年度の限定はありませんし。仮に単年度で「7~8割」なら、3回の受験機会を使えば、単年度7割なら累積合格率は97.3%、8割なら累積合格率99.2%となり、合格者数も「3000人」という意見書の数字からかけ離れた結果となります。司法制度改革審議会では、法科大学院の総定員を4000人程度と想定して議論がなされています。(例えば司法制度改革審議会集中審議(第1日)での議論)法科大学院の総定員が4000人で合格者数が3000人なら、「合格率」は累積合格率と理解しないと辻褄があいません。

投稿: ぷるぷる | 2012年4月26日 (木) 20時39分

 一般に資格試験で「合格率」といえば単年度合格率を指すのが通常です。しかし新司法試験の場合、原則的に法科大学院修了者という受験資格制限があり、しかも修了後5年以内に3回までという受験回数制限があります。受験回数制限の期間内に新司法試験に合格できなければ受験資格を喪失することになります。このような受験資格制限及び受験回数制限があるからこそ、法科大学院というプロセスを経た者のうち、どの程度の者が司法試験に合格して法曹資格を取得できたかということで、累積合格率が特に問題になるのだと思います。他の資格試験で累積合格率を特に問題にしないのは、他の資格試験では受験資格制限と受験回数制限の両方を課してるわけではないので、理論上は合格するまでいつまでも受験をすることが可能だからでしょう。(受験資格制限と受験回数制限の両方を課すことによって、分母が固定されて累積合格率が決まる。)

 以上の理由により、本ブログ中の「第一は、法科大学院卒業生の合格率目標「7~8割」が、司法制度改革審議会意見書(平成13年)当時は「単年度合格率」を意味していたのに、いつの間にか、卒業生1人あたりの合格率(累積合格率)にすり替わり」というのは事実と異なるのではないかというのが私の意見です。

 ただ、「7~8割」の解釈を巡って見解の相違が出てくるのは、法曹人口増員あるいは増員のペースについて思惑の違いがあるからだと思われます。合格者数を出来るだけ多くすべきとする勢力(例えばマスコミ)は意見書の「7~8割」を敢えて単年度合格率だと「解釈」(私に言わせれば曲解)しているのだと考えます。特に平成16年に司法試験委員会で委員長が「7~8割」を累積合格率のことだと表明した後も、マスコミではそのことについて特に訂正することなく単年度合格率を前提にした報道が相変わらず続いています。司法試験委員会が単年度合格率から累積合格率にすり替えたのではなく、逆にマスコミの側が累積合格率を単年度合格率にすり替えた報道しているというのが私の見方です。ここはまさに「せめぎ合い」であって、この「せめぎ合い」は現在までまだ続いているのだと思います。

投稿: ぷるぷる | 2012年4月26日 (木) 20時40分

 繰り返しになりますが、司改審意見書は「累積合格率」のみならず「合格率」という言葉は一切使っていません。

 「司法試験合格率」というわかりやすい言葉を使わずに、あえて、「修了した人の7割から8割の者が合格できるような教育」という表現を使っているのは、
 その前後の文脈を通じて、(1)司法試験の合格率を規律することはせず、法科大学院にそのような充実した教育を求めているに過ぎない、司法試験合格率については一切約束も提言もしていないとの「言い逃れ」は当初から想定されていたこと(=想定合格率7~8割という表現自体当初からミスリードであったこと)、(2)理想の教育のもとでも、「3回程度の受験回数制限」のもとで修了者の2割から3割は司法試験に合格できない者が現れること、すなわち合格率という言葉で表現するならば、単年度ではなく累計であること、
の2つを意味していたと考えます。

 誤解されやすい表現であったとは思いますし、一部法科大学院(さらにはマスコミ)が学生誘引のために誤解を助長したのではないかとすら感じますが。

投稿: なしゅ@東京 | 2012年4月26日 (木) 21時30分

こういうことではないでしょうか?
すなわち、「確かに、累積合格率を想定していたが、1回目の合格率が7、8割と想定した」ということです。
つまり、ごく単純に、「法科大学院でマトモに勉強すれば、受験1回目で8割合格する。そこで落ちるアホは、何回受験しても合格しない」と想定すれば、「累積合格率は8割、単年度合格率も8割」で推移することになります。もちろん、現実には計算通りにならないので、「受験1回目で7割合格、何かの間違いで落第した1割も、2回目で合格。事故や急病で2回目も落第した0.1割も、3回目のチャンスがある」と想定した、ということです。これなら、累積合格率と単年度合格率はほぼイコールになりますので、特に断る必要はありません。

投稿: 小林正啓 | 2012年4月26日 (木) 22時05分

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