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2012年4月28日 (土)

日弁連会長再選挙の分析

平成24427日、日弁連会長再選挙の投票が行われ、山岸憲司候補が現職の宇都宮健児候補を破り当選した。

例によって開票仮結果を分析してみよう。

まず投票率は51.1%で、再投票時より0.24%上昇した。得票数は、85467673で、票差は873。これは、再投票時の投票差1067票に比べ、宇都宮候補が194票を詰めたことになる。

前回は、「投票率の下がった方が宇都宮候補に有利」と書いたので、この結果は、矛盾するように見える。

しかし単位会ごとに見ると、投票総数を85票減らした東弁が、山岸候補獲得数-103.73票に対し、宇都宮候補獲得数が+19.73票となっているのを筆頭に、投票総数を減らしたベスト5単位会(東京、二弁、埼玉、一弁、和歌山)では、二弁を除き、宇都宮候補に票が流れている。これは、東弁と一弁では、3回目の投票となって派閥の締め付けが及ばず、投票率が低下する一方、宇都宮陣営による浮動票へのアピールが、ある程度奏功したことを示しており、ここでは、「投票率の下がった方が宇都宮候補に有利」のセオリーが妥当している。

他方、総投票数の増えた5単位会のうち、仙台を除く4単位会(横浜、千葉、福岡県、大阪)では、いずれも、宇都宮候補に票が流れている。これらの単位会では、派閥の締め付け力の低下(=投票率の低下要素)に比べ、新たに投票した浮動票(=投票率の上昇要素)の影響力が大きかったことになる。興味深いのは、選挙人数500人以上の大・中単位会(東京三会、大阪、愛知、横浜、福岡、兵庫、札幌、埼玉、京都、千葉)では、二弁を除き、再選挙の方が宇都宮候補に票が流れていることだ。これは、以前指摘したとおり、地方単位会の方が派閥の拘束力が強く、都市圏の方が弱いことを示している。地方で強い宇都宮候補は、地方の派閥票に支えられているのだ。

全体としては宇都宮候補が票を伸ばしているが、それでも敗北したのは、山岸候補が総得票数で逃げ切った上に、19地方単位会を獲得し、当選要件を満たしたからである。山岸候補は、前回獲得単位会14のうち、3単位会(山口、旭川、函館)を落としたが、8単位会(仙台、広島、沖縄、新潟、三重、愛媛、釧路、鳥取)を獲り、差引5単位会上乗せして、19単位会を獲得した。もっとも、票差3票以内が8単位会(旭川-2、函館-2、仙台1、愛媛1、釧路1、鳥取2、沖縄3、宮崎3)もあり、血を血で洗う一票獲得競争の繰り広げられたことが分かる。獲得単位会の帰趨に変化がなくても、投票率上昇の著しい単位会のうち、岡山(2)、滋賀(3)、山梨(6)、宮崎(3)、長崎(9)、秋田(6)、高知(10)、大分(0)でも一桁の票差が見られる。これらの事実は、山岸陣営が18単位会獲得という当選要件充足に戦力を集中し、これを阻止しようとする宇都宮陣営との間で激戦になったことを示している。

まとめると、山岸候補は、総得票数での差を詰められたものの、単位会要件を満たしたため当選し、宇都宮候補は、山岸候補の単位会獲得を阻止できなかった上に、総得票数で逆転できなかったため落選した、ということになる。

山岸陣営は、総得票数で逆転されるおそれは少なかったのだから、単位会要件獲得に注力するのは戦略として当然だった。18単位会を獲得できるかについて、私は五分五分と予想し、実際その通りだったが、仙台から事務総長を選任するという人事作戦が奏功(仙台では山岸獲得票が70票伸び、これに対して宇都宮獲得票が20票減った)し、かろうじて単位会要件を満たした、ということになる。

実は、山岸候補勝利にもう一つ貢献したと思われる単位会は広島であり、山岸獲得票が27票伸びたのに対して、宇都宮獲得票が8票減り、逆転して山岸陣営が獲得した。何があったか知らないが、たぶん、地元の有力者が数人動いたのだろう。

これに対して宇都宮陣営は、山岸候補に2030単位会をくれてやってもいいから、総得票数で山岸候補を逆転しなければならなかったのに、地方での戦いに戦力を分散し、大都市会での集票が伸びず敗北した、ということになる。子細に見ていくと、選挙人数500人以上の12単位会のうち、二弁を除く11単位会(東京、一弁、大阪、愛知、横浜、福岡、兵庫、埼玉、札幌、京都、千葉)ではすべて票差を伸ばし、合計353.76票差を稼いでいるが、最大の票田であった筈の二弁では山岸陣営より票を減らしているし、一弁、二弁、埼玉では3割台の投票率しかない。宇都宮陣営は、最初から最後まで、大都市会の浮動票にアピールできなかった。

その原因の一つは、「地方の力で日弁連を変えよう」(327日はがき)等と主張し、「都会対地方」という対立軸をつくった宇都宮陣営の作戦ミスだろう。大都市の弁護士としては、旧主流派批判層といえども、都市に対する反感をむき出しにする宇都宮候補に投票する気にはならない人が多いだろうから。

「派閥か無派閥か」という対立軸も、大都市会の浮動票を感銘させることはなかった。当の本人や、有力な支持弁護士が「消費者族」という派閥の領袖だったりするので、説得力がないと受け取られたのかもしれない。あるいは、「無派閥」とか「市民派」を標榜する人に限って、決してニュートラルではないことが、すでに常識となっているのかもしれない。

給費制運動が、64期の投票行動に全く影響しなかったことは、私自身予想外だったし、宇都宮陣営も読み違えたのだろう。宇都宮会長が当選していなければ、64期が給費を受けることはなかったのに、彼らは、300万円をもらった「恩返し」をしなかった。その理由を探求することは、今後の給費制復活運動はもちろん、日弁連の進路を検討する上でも、重要な宿題であると思う。

宇都宮候補が二弁の票を失った理由は分からない。ただ、再投票での得票数630が、第1回目投票での宇都宮票(410)と森川票(109)の合計とほぼ一致することから想像をたくましくすれば、再選挙の際、森川陣営との政策協議が決裂するなどして、森川陣営の組織票を失った可能性はあると思う。もしそうだとすれば、「脱派閥」を掲げた宇都宮陣営が組織票を失って負けるという皮肉な結果となる。

いずれにせよ、再選挙が決まった際、宇都宮候補が勝利するためには若手浮動票にアピールする新公約が必要であり、手ぶらでの出馬は許されないと書いたにもかかわらず、宇都宮候補は新公約を打ち出すことなく出馬し、予想通り敗退した。これは無駄に日弁連を混乱させたという意味において、無責任のそしりを免れない。

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コメント

新64期は給費してもらっても雇用してもらえなかったから、失望したのかも。突き詰めれば、東京の二弁票、特に尾崎票をうまく利用出来れば勝機はあった。おじゃましました。

投稿: たま | 2012年4月29日 (日) 21時55分

山岸陣営として選挙活動をされていたという立場を明確にされない上での論評は中立性を欠くように思うのですが。
もちろん、それを狙っていらっしゃるのであれば何も申し上げることはございません。

投稿: しんたく | 2012年4月30日 (月) 15時32分

 私は、宇都宮陣営を支持していた(それほど、熱心な活動はしていませんでしたが)、中規模単位会の弁護士です。

 宇都宮氏の最大の敗因は、会長職にあった際、特に任期の前半でかなり、前回選挙の公約とのブレが激しかったことではないでしょうか。特に、前半では予備試験の充実も撤回していましたし、前半に出た総務省の意見に対しても、批判的な声明を出しています。

 仮に、副会長含め自らの閣僚が従来の路線踏襲の意見だったとしても会長個人の意見として、世論を喚起し、従来路線との決別を打ち出すべきではなかったのでしょうか。今回の総務省意見のとおり、ようやく法曹人口増大路線に歯止めがかかる要素が出てきましたが、それも任期終了(正確には任期切れの選挙中)で遅すぎたというのが正確なところでしょう。

 坂野先生や猪野先生がいわれているとおり、確かに日弁連が何をやっているかは一般会員は分かりにくかったです(私は給費制をやっていたので舞台裏は知っていましたが)。

 個人的には宇都宮前会長の功罪として、日弁連のパンドラの箱すなわち、法曹人口について中央部と地方(正確には街弁)で相当の温度差があることが明らかになってしまいました。これは、地方の有力者を口説き落としても統制の効かない横浜や千葉や埼玉で宇都宮候補の圧勝が続いたことが物語っています。
 今後はよほど山岸会長が舵取りをうまくやらないと2年後は今回宇都宮候補に流れた票がおそらく高山派に流れるのではと思います。ただ、高山派が勢力を増した場合、例えば法テラスとの関係をどうするか等、問題は山積みになります。
 山岸会長がよほどうまく舵取りをするか、出来ないといよいよ日弁連は分裂崩壊の始まりが来るような気がします。
 なお、地方では概ね会員はロースクール制度に対して冷ややかです(ローの教員ですら制度自体には反対という人のほうが多いです)。

投稿: 某弁 | 2012年4月30日 (月) 20時59分

 中立性を欠くとの指摘がありますが、「個人ブログを開設する弁護士は、ブログ上で支持を明確にしていなければ、棄権しないといけない。」ということはなく、そうである以上、どちらかを支持するのは当然でしょう。
 小林正啓弁護士が宇都宮候補でなく山岸候補を支持するであろうことは、支援の度合いはともかく、「こんな日弁連に誰がした?」または当ブログの過去ログを読んでいる読者には、容易に推測できると思いますが。

投稿: なしゅ@東京 | 2012年5月 1日 (火) 01時29分

その後、ブログ主が旗色を鮮明にされていますので、この時点では既に時機に遅れていますが、一応。
お読みいただければ判ると思いますが、上記のコメントは、投票行動ではなく、このエントリの「論評」に対するものです。

本エントリは、1.投票行動の分析、2.両陣営の選挙戦略・戦術、3.宇都宮候補の立候補に対する批判からなります。
1.については、いつもながらさすがだなぁ、と感服しています。分析の正確性について検証しているわけではないのですが。

問題だと思ったのは、2と3でした。
まず、2.については、山岸陣営の一員として正確な戦略・戦術をご存じ(だと思う。違ったらすみません。)の中、これと同列に宇都宮陣営のそれを断定的に述べられるのは、見てきたように…という批判を避けられないでしょう。
また、3.については、一方陣営から他方陣営への批判であるわけですから、立場を明示しない上でのご発言はアンフェアだと思った次第です。

投稿: しんたく | 2012年5月 7日 (月) 14時38分

しんたくさん、なしゅさん、コメントありがとうございます。
ご批判は甘受しますが、事実関係について1点だけ。今回の選挙では、補佐人演説前の打ち合わせを除き、山岸陣営の打ち合わせには事実上1回も参加していませんし、選挙事務所に行ったことも、電話かけをしたこともありません。その理由についてはまた別の機会があれば述べますが、めんどくさかったんだろうと言われれば、当たらずといえども遠からず、です。

投稿: 小林正啓 | 2012年5月 7日 (月) 18時55分

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