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2012年4月 4日 (水)

社会正義のため会員に身銭を切らせる日弁連

323日、「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」、通称「法テラス震災特例法案」が参議院を通過し、4月から施行された。

この法律により、法テラスでは、被災者の資力要件が3年間、原則撤廃され、刑事を除いたすべての法律相談が無料になるほか、東日本大震災に起因する裁判はもちろん、ADR(裁判外紛争解決手続)や東京電力との交渉についても、資力にかかわらず、弁護士費用の立替払いが受けられる。しかも返済開始は、一般の法テラス案件と異なり、事件解決まで猶予される(以上法テラスのHPより)。

ここに「被災者」とは、災害救助法が適用された地域に居住する個人をいう。適用地域の一覧はこの通り。宮城県全域も適用されているから、県民230万人(但し子どもも含む)は、どんな大金持ちであっても、法テラスの援助を受けられる。

これに対し、地元の弁護士から、早くも異議の声が上がっている。法律相談の一律無料は、個々の弁護士や弁護士会による有料法律相談否定であるとか、法テラスが弁護士報酬の独占価格を形成することになる、という批判だ。

弁護士報酬に関する法テラス基準は、平均的な弁護士報酬よりかなり安い。弁護士にとって赤字事件も多い。弁護士側も、法テラス利用者は経済的困窮者だから半分ボランティアと思って処理しているが、全部が全部法テラス基準になってしまったら、経営が立ち行かなくなる事務所が出てくるかもしれない。たとえるなら、田舎の個人商店街に国営のスーパーマーケットが進出して、安値攻勢をかけるようなものである。

とはいえ、この特例法の適用対象は個人に限られ、法人は含まない。また、弁護士と親密な人は、あえて法テラスの援助を受けないだろう。だから、企業や富裕層を顧客に持つ老舗法律事務所は、特例法の影響をさほど受けない。モロに受けるのは、弁護士会の法律相談やホームページを経由した「一見さん」を主な顧客とする個人事務所で、世代としては若手・中堅が多いのだろう。弁護士報酬を安くせざるを得なくなるなら、特例法は、彼らに身銭を切らせたことになる。単価は下がっても震災関連事件が増えるから売上は減らない、という楽観的予測もありうるが、その保障はない(関東大震災後は訴訟が頻発したが、阪神大震災後はむしろ減ったと言われている)から、不安な気持ちはよく理解できる。仙台で開業するある弁護士は、特例法は議員の人気取り等に過ぎないとして、公正取引委員会に対する申立を準備しているとも聞く。

だが、この特例法はもともと、日弁連の強い要望があって成立したものだ。被災者が法テラスの援助を受けようとしても、義援金や生命保険金を受け取っていたり、家賃免除の仮設住宅に住んでいたりして、援助基準を満たさないケースがあり、これはいかにも不当だと、日弁連が議員への陳情を強力に行った。公明党や、給費制では冷淡な民主党も賛成に回ったし、マスコミも総じて法制定を支持した。財務省は消極であり、法務省内にも法制定は不要、運用改善で対応すればよいとの意見もあったが、法制定が必要と押し切ったのは、日弁連と、これを支持した議員である。

この経緯に照らせば、特例法の実施に対して、地元弁護士が異議を申し立てることは、外部の目には、とても奇妙に映ると思われる。日弁連なり地元弁護士会なりが、適切な内部意思決定手続を踏んでいるなら、異議は今更ということになるし、踏んでいないなら、日弁連・地元弁護士会の組織としての一体性・信用性が疑われることになろう。ただ、内部意思決定手続きを踏んでいるとしても、被災地弁護士会の弁護士は、今までも収入を犠牲にして被災者支援に駆け回っていたはずであり、その収入をさらに減らす措置を弁護士会が推進して顧みないというのは、いかがなものか、という気がする。現地の空気感が、大阪からはつかめないところであるが。

付言すると、特例法の制定に対して、宇都宮執行部が積極的に活動したことは上記のとおりであり、同会長は特例法の制定を歓迎する声明を発表している。だが、仮に旧主流派の会長であったとしても、同じことになっただろうと思う。

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