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2012年5月31日 (木)

法曹人口問題、破綻した法曹養成制度、司法の使命について

530日、民主党の法曹養成PTに招かれ、お話しをする機会をいただきました。そのために作成した原稿を以下に公表します。10ないし15分という制約の中だったので、かなり駆け足になっていますが、ご容赦ください。

なお、請求退会者については、京都の白浜徹朗弁護士からデータの提供をいただきました。お礼を申し上げます。

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司法試験合格者年3千人は大学の都合

ご承知の通り、平成14年の閣議決定は、司法試験合格者年3千人を目指すとしています。

3千人の根拠につき、中坊公平もと日弁連会長は、「フランス並みの弁護士人口56万人を10年で達成するため」と説明しました【資料[i]】。

しかし、「フランス並み」は、実は理由になりません。その証拠に、僅か2年前の衆議院法務委員会では、政府委員の山崎判事が「フランス並みの35千人を目指すため、司法試験合格者数年1500人」と答弁しています【資料[ii]】。「フランス並み」とは、国際比較に弱い日本人を説得する方便に過ぎません。

では、3千人の根拠は何か。要は、「偏差値カースト制度」の中で、法科大学院制度を一気に実現するため必要な数字だったという点に尽きます。

簡単な計算をしてみましょう【資料[iii]】。例えば宮澤節生教授は、「1学年20人から50人、50校設立しても2500人」と試算しています【資料[iv]】。これが机上の空論であることは、東大の立場で考えれば明白です。東大が最高学府と呼ばれるのは、国家の枢軸に多数の卒業生を輩出しているからです。その立場からは、最低3百人必要です。同じ計算を当てはめれば上位10校で2千人を超え、上位20校で37百人を、宮澤教授が前提とした50校で4千人を超えます。すなわち、司法試験合格者数2千人では、10校程度しか法科大学院を開校できないため、大学間で熾烈な闘争が発生し、構想そのものが頓挫したことを意味します。司法試験合格者数年3千人なら、合格率7割として定員数4千人です。矢口洪一もと最高裁長官は初めから、法科大学院定員4千人を想定しています【資料[v]】。

3千人の根拠は何かというとき、すぐアメリカの陰謀だと年次要望書を持ち出す人がいます。これは思考停止だと思います。3千人には根拠があるのです。ただその根拠は、大学の都合に過ぎず、国家国民を考えて出された数字ではないのです。

法科大学院の作りすぎが問題だったという意見があります。これは問題の本質をすり替えています。確かに、当初の法科大学院は50校程度を想定していました。しかし、50校でも、現在の破綻状況は等しく訪れていたでしょう。つまり法科大学院の作り過ぎと、現在の混乱状態との間には、因果関係がないのです。

破綻した法曹養成制度

3千に大した根拠がなくても、では何人か、という問題は残ります。

当面の方策として、司法試験合格者数を減らすべきことは明白ですが、問題は、それで何が解決するのかです。

法科大学院の入学者数合計は、昨年度3620人に対し、今年は3千人を下回ると言われています。年2割減のペースなら、法科大学院の定員は3年後に2千人を下回り、いずれ需給が均衡するかに見えます。しかし実際には、現在1万人近くいる滞留受験生が捌けるまで、合格率はさほど上がりません【資料[vi]】。

その間弁護士の就職難は続きます。平成23年度の司法修習生は、当初未登録者が4百人に達しました【資料[vii]】。即独・ノキ弁等、収入を保障されない新人弁護士数は未調査ですが、去年より増えることは確実です。

弁護士の廃業も、今年は3百人、全体の1%に達すると予測され、特に若手の廃業率が高くなります【資料[viii]】。データはないのですが、弁護士になっても食えないため、裁判官の中途退官者が減っているといわれています。

また、裁判所の新受件数が減っています。過払事件数に隠されていますが、過払い以外の事件数は激減しているはずです。事件数の減少は、裁判所予算の減少に直結するので、裁判所も看過できないはずです。是非国政調査権を使ってこの点を調査いただきたいいと思います。

いずれにせよ、弁護士は今や、ハイリスク・高コスト・ローリターン、いや、ノーリターンの職業になってしまいました。

その結果として、今年度の司法試験受験生は初の減少となり、法科大学院適性試験の受験者は16%減少しました。

大学法学部の受験生は、昨年の1割以上減となりました【資料[ix]】。受験予備校の分析によれば、成績上位層での志望者減少が目立ちます【資料[x]】。不況により公務員を志望する法学部受験生が増えていることを勘案すれば、法曹志望者の激減と学力低下は明らかです。

これらの事実から、法曹はすでに、人材の吸引力を失ったことが分かります。法曹養成制度の入口に人材が来ないのに、出口の人数を議論するのは、とても虚しいことです。

司法の使命とは何か

法曹養成とは、法曹を養成することですから、法曹の使命は何かという議論は不可欠です。法曹の使命とは、法曹三者全体の使命であり、司法の使命です。しかし、司法審意見書には、司法の「役割」についての記述こそあれ、「使命」に関する考察は、一つもありません。

「役割」と「使命」は別の概念です。国会議員の役割は立法ですが、使命は立法ではありません。国会議員の使命は、良き日本を作ることです。司法の役割は法的紛争の解決ですが、それは使命ではありません。法的紛争解決が使命なら、司法は行政の下部組織で十分です。

ならば司法の使命とは何でしょうか。

【資料[xi]】は、昭和18315日付「法律新報」が掲載した座談会です。その11頁には、「裁判所は時の政府の便宜に協力することに正義を見いだすべきではない。正義が地に落ちて国家の栄えることはない」という藤江忠二郎裁判官の発言があります。これは、前年の翼賛選挙に対する無効訴訟を念頭に置いた発言です。この訴訟の原告代理人は、粛軍演説を行い、衆議院を追われた齋藤隆夫弁護士です。議会が軍部に蹂躙されているときに、戦時下でさえ敢然と抵抗することこそ、裁判所の使命であるというのが、この命がけの発言の趣旨です。

時代が違うという批判があるかもしれません。しかし、軍部を官僚に置き換えれば、現代にも通じると考えます。

最後にご紹介したいのは、この座談会にも参加した内藤頼博判事【資料[xii]】です。戦後の司法制度改革に参加し、現行裁判所法を起草して、統一修習や給費制を創設したのが、内藤判事であることは、給費制運動を展開した日弁連幹部でさえ、誰も知りません。しかし、内藤判事は、大蔵省の反対に対し、「弁護士の地位も、国家機関的なものであり、弁護士も判事や検事と同様、国家事務を行うものだ」から、給費制は当然と押し切りました【資料[xiii]】【資料[xiv]】。法曹三者は、同じ国家事務を行い、同じ使命を共有するのだという確信が、この主張の背後にあります。

私はここで、給費制を復活しろと言いたいのではありません。戦後に法曹養成制度を設計した日本人は、法曹養成制度を設計するにあたり、司法の使命を明確に見定めていた、ということを申し上げたいのです。

ニーズがあるから法曹を増やせとか、ニーズがないから減らせとか、予算がないから給費制をやるとかやらないとか、その種の薄っぺらな議論をしたのでは、この20年間の失敗を繰り返すことになります。法曹養成・法曹人口問題については、司法の使命は何かという、骨太の議論をしていただきたいと思います。

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[i] 平成12年(2千年)87日の司法制度改革審議会議事録(抜粋)

[ii] 平成10年(1998年)48日衆議院法務委員会議事録(抜粋)

[iii] 法科大学院定員数予測と実際の比較

[iv] 21世紀司法への提言』15

[v] 自由と正義19987月号「『法曹一元』の制度と心」(矢口洪一)

[vi] 司法試験合格者数シミュレーション(作成;小林正啓)

[vii] 新64期弁護士登録者数等資料 (任検・任官確定後)(日弁連)

[viii] 請求退会者数推移表(白浜徹朗弁護士作成)

[ix] 請求退会者数推移表(白浜徹朗弁護士作成)

[x] 2011年度入試の展望③~法学系の志望動向(河合塾)

[xi] 戦時下の裁判道を語る座談会(法律新報)

[xii] 内藤頼博(司法大観より)

[xiii] 終戦後の司法制度改革の経緯

[xiv] 法の支配19982月号 戦後50年想い出すまま(畔上英治)

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2012年5月28日 (月)

大阪弁護士会でストライキ

大阪弁護士会では、明日午前9時より、全職員によるストライキが行われる。電話番は会長が、受付や緊急対応は副会長が分担して行うが、法律相談をはじめとする各種業務は停止される。弁護士会職員がストライキを行うのは、「戦前は分からないが、戦後は間違いなく初めて」(同会幹部)という。

発端は、日弁連と大阪弁護士会が公表した職員のリストラ策。給与の平均3%カットと、早期退職の勧奨により、職員数25%削減を目指すという。これに職員組合が反発し、団体交渉でも決着がつかず、今回のストライキとなった。

大阪を含む全国の弁護士会では、毎年赤字決算が続いている。理由は、会員の収入減と、職員人件費割合の増加だ。特に大阪弁護士会では、職員の半数が法律相談事業に従事しているが、この事業が年間数億円の赤字を出して、会財政を圧迫していた。

「大阪弁護士会職員の年収は平均500万円。自分の収入よりずっと多い。なぜ年間50万円もの会費を払って、自分より給料の高い従業員を雇わないといけないんだ」と、ある若手会員は怒りをぶちまけた。今回のリストラ策は、若手会員による突き上げの結果でもある。あるベテラン弁護士は、「弁護士会事務職員の給料は、日弁連、東京三会、大阪、各地方単位会の順番で傾斜がつけられている。だから、大阪弁護士会職員の給料を下げるためには、日弁連職員から順に下げないといけない。だが、前日弁連会長は、労組と近いため、日弁連職員給与問題に手をつけなかった。」と解説する。

とはいえ、「雇い主」である弁護士側も一枚岩ではない。弁護士会労組を支援する、労働問題専門の弁護士グループは、「労働者の味方であるべき弁護士会が、会職員のリストラをするなど言語道断。弁護士会が譲歩しないなら、提訴も辞さない」と、気勢を上げている。

注;このエントリは完全なフィクションであり、実在するいかなる個人又は団体とも無関係です。

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2012年5月23日 (水)

TSUTAYAが公立図書館を運営することと貸出履歴の問題について(5)

いよいよTポイントカード特有の問題に進むが、その前に、簡単におさらいをしておこう。

佐賀県武雄市が、TSUTAYAで有名なCCC社に市立図書館の運営を委託する方向で検討に入ったという。報道によれば、貸出にはTポイントカードを使用する。これに対して、高木浩氏らが懸念を表明している。

具体的にどのような業務委託を想定しているのか不明だから以下は想像だが、プライバシー保護法上問題の少ない方から並べると、次のとおりだ。

第一に、誰がいつ何を借りたかという情報(貸出履歴)が個人情報であることに争いはない。この情報がなければ貸出業務は不可能だから、図書館の運営主体に貸出履歴を保持することが許されることは間違いない。この運営主体は地方公共団体であっても民間事業者であっても差し支えないから、公立図書館の運営を丸ごと民間事業者に委託することも、プライバシー保護法上は許される。

この点について、もと図書館司書の方より、貸出履歴は返却後直ちに削除されるべきものとのご指摘があった。図書館学上の通説はその通りなのだろうが、貸出履歴の削除を義務づける法律が無い限り、削除しなくても、法的には問題ないといわざるを得ない。もし、「貸出履歴は個人の嗜好・志向、生き方そのもので、他者のもとに残しておくべきものではない」というだけの理由で貸出履歴の削除が法的に義務づけられるなら、TSUTAYAAMAZONは業態自体が違法になってしまう。

貸出履歴の保持が認められるなら、それを利用した図書館内でのサービス(口コミやレコメンド)なども、法的には可能だ。

第二に、CCC特有の問題として、公立図書館で得た貸出履歴と、TSUTAYAでの貸出履歴を紐づけしてよいか、という問題がある。この点については異論もあろうが、利用者にオプトアウトの機会が保障されれば、紐づけは許されると考える。

ところで、この問題は、「公立図書館」と「TSUTAYA」という「営業所」こそ異なるが、運営主体はCCCで同一、という場合だ。では、営業所が異なるうえに、運営主体も異なる場合はどうか。CCCは、Tポイントの参加企業との間で、顧客情報を共同利用しているが、公立図書館における貸出履歴も、共有する顧客情報に含めてよいか。これが第三の問題であり、Tポイントカード特有の問題である。

T会員規約」(←なんで字が薄いんだ?)によると、T会員の「氏名、性別、生年月日、住所、電話番号、電子メールアドレス等」と「ポイントプログラム参加企業における利用の履歴」等の個人情報は、「会員のライフスタイル分析」等の目的のため、「ポイントプログラム参加企業」との間で、「共同して利用」されるとある。したがって、CCCが運営受託する公立図書館において、Tポイントカードを使って本を借りれば、その貸出履歴は分析・統合され、Tポイントプログラム参加企業と共有されることになる。

これについて、利用者の事前かつ明示の承諾が必要なことについては、異論のないところだろう。貸出履歴の提供を望まない利用者には、公立図書館である以上は、Tポイントカード以外のカードによる貸出が認められなければならない。なお、現在の報道によれば、武雄市としてはTポイントカードを利用しても貸出履歴が外部に提供されることはないし、懸念を持つ利用者にはTポイントカード以外のカードを利用させるとしている。

逆に、利用者が明示の承諾を行えば、貸出履歴の他事業者との共有は許されてよいと考える。それは利用者に一定の便益を与えてくれるだろうし、「ポイントがたまるだけで十分」という利用者もいるだろう。

以上で、CCCが公立図書館の運営を受託する場合と貸出履歴の問題についての考察を終わる。繰り返すが、上記の設問はすべて、運営形態の想像に基づいている。この問題は、報道が先行しているが、記者会見から推定する限り、武雄市の実務者レベルが実際に想定しているのは、CCCが職員を派遣して管理業務を行う程度のものであり、CCC自身が貸出履歴を保持するとか、TSUTAYAの貸出履歴と統合するとか、まして他事業者と貸出履歴を統合するとかは、今のところ、念頭にない可能性がある。

しかし他方、単なる人材派遣業としてのみ図書館運営に関与する意図しかないなら、TSUTAYAを運営するCCCが参画する動機は薄い。少なくとも将来的には、本稿で検討したような貸出履歴の「活用」を企図しているのだと思う。

そうだとするなら、本件は、ネットワーク・データベース社会におけるライフログ流通・統合の功罪に関して、格好の教材を提供してくれたことになる。

なお、本稿は、以前のエントリ「ライフログとプライバシー問題の法的切り分け(1(2(3(4」を応用したものなので、興味のある方は、そちらもご覧下さい。

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2012年5月21日 (月)

TSUTAYAが公立図書館を運営することと貸出履歴の問題について(4)

民間事業者が委託を受けて、公立図書館の運営をすること、いいかえれば、当該民間事業者に住所氏名及び貸出履歴という個人情報を提供しなければ蔵書の借り出しができない、という制度は、プライバシー保護法制度上は許される。

また、図書館内で貸出履歴を統合したレコメンドを行ったり、個人情報を取り払った抽象的な情報(口コミなど)を第三者に提供したりすることも可能だ。

では、民間事業者の中でも、CCCが公立図書館の運営をすることについては、どのような問題があるのだろうか((1)で指摘した『第二の問題』)。

CCCはレンタルビデオ業や書籍販売業を行っているから、TSUTAYA会員のDVD貸出履歴を把握している。そのCCCが公立図書館を運営して、利用者の蔵書貸出履歴を把握すれば、住所氏名などの個人情報を媒介して、DVDと書籍の貸出履歴の紐づけが可能になる(このことは、Tポイントカードを利用させることで簡単に実現できるけれども、技術的には、Tポイントカードがなくても、実現可能だ。ちなみに、Tポイントカードには、CCC以外の事業者による紐づけを可能にする機能があるが、この点については後述し、本エントリではCCC内部での紐づけのみ検討する)。

たとえば、図書館でトルーキンの小説を借りた人が、TSUTAYAで『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズを借りたことが分かるし、図書館でバーネット作の『秘密の花園』を借りた人が、TSUTAYAで『女子高生 秘密の花園』というアダルトDVDを借りたことが分かる。このマッチングデータを統計的手法で分析すれば、TSUTAYA会員に対して、図書貸出履歴をもとに、「あなたにお勧めのDVD」を広告することができる。たとえば、(A)ある恋愛小説を借りた女性に、映画化されたDVDを告知できるし、(B)経済小説好きの男性にバイオレンス映画好きが多いという統計データがあれば、それをもとに、経済小説を借りた男性に、バイオレンス映画を薦めることができる。

この手法は、CCCに大きな利益をもたらすだろう。問題は、それが法的に許されるか、許される条件は何か、という点だ。前提として、図書館の運営委託者である市の許諾が条件となるが、この条件は充たされているものとする。

結論からいうと、このようなデータマッチングは許されると考える。ただし、公立図書館の利用者には、これを拒否する(オプトアウト)権利が認められるべきだ。なぜなら、データマッチングは、現代デジタル・ネットワーク社会において一般的に禁止することは不可能だし、社会的経済的にも、利用者自身にも、大きな利益をもたらすことがあるし、この利益を享受したいという利用者の要求は実現されて然るべきだからである。

他方、公立図書館の利用者には、可能な限り自由に、蔵書を借り出す権利が保障されるべきであるし、データマッチングは、貸出管理に必要不可欠な本質的要素ではない。データマッチングを拒否したい市民に対して、借り出さず、図書館内で読めばよい、と言うことは許されない。

オプトアウトかオプトインかは悩ましい問題だが、オプトアウトで足りると考える。公立図書館における貸出履歴とCCCの持つたの情報とのデータマッチングに、いちいち事前承諾を求めなければならないほどのリスクがあるとは思われないからである。

お詫び;エントリにあたり、旧エントリ(3)を新エントリ(4)と同じ題名で重複公開する不手際がありました。お詫びします。

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2012年5月18日 (金)

TSUTAYAが公立図書館を運営することと貸出履歴の問題について(3)

民間事業者が公立図書館を運営し、利用者の住所氏名や貸出履歴などの個人情報を入手・管理すること自体については、プライバシー保護法上の問題はない。本エントリでは、このことから派生しうる問題について、少し触れておきたい。

貸出履歴を一定期間経過後に削除する義務を負わせるべきかという問題がありうる。結論としては、負わせる必要はないと考える。なぜなら、過去のデータにも一定の有用性があるからだ。図書館利用状況の統計データを作成する必要もあろうし、延滞常習者等を把握する必要もある。それでも、何年か経ったら削除すべしという議論もあろうが、法的にはどちらでもよいと思う。もちろん、保存データが万一漏洩したら、その責任はきっちり取ってもらうことになる。

口コミやレコメンドはどうだろう。この問題は、二つに分けて考える必要がある。一つは、自分の情報が自分に戻ってくるパターンであり、具体的には、「その本は○年○月○日に借りていますが、また借りますか?」というサジェスチョンをするような場合で、TSUTAYA DISCASにはこの機能がある。もう一つは、他人の情報が自分に提供され、自分の情報が他人に提供されるパターンであり、具体的には、「この本を借りた人は、この本も借りています」「この本の評価は『面白かった』が65%です」などの情報を提供する場合であって、AMAZONにこの機能がある。

まず、自分の情報が自分に戻ってくることについて、法的な問題が無いことは疑いない。ただ、「うるさい」「余計なお世話だ」と思う人はいるだろうし、そういう人がレコメンドを聞かずにすむ機能は要求されるかもしれない。

次に、自分の情報や口コミが他人にレコメンドされることについては、一応、個人情報の第三者提供になり得るから注意が必要だ。だが、AMAZONなどのレコメンド機能は、個人特定性を一切取り払った抽象的・統計的な情報を第三者に提供しているだけだから、このようなやり方であるかぎり、プライバシー保護法上の問題はない。

そして、個人特定性を一切取り払った抽象的な情報である限りにおいては、これを図書館内の売店で使用したり、図書館のサーバーから持ち出して、TSUTAYAの書店で使用(「これは、武雄市図書館で一番人気。予約待ち3ヶ月の本です!」)したとしても、プライバシー保護法上の問題はない。図書館が取得したデータをCCCが私的利益のために利用できるかという議論はありうるが、これはプライバシー保護法上の問題ではない。

利用者による、読書感想文様の「つぶやき」を、POP等の形式で表示することについては、客観的な個人特定性はないとしても、書いた本人には自分の文章だと分かる情報なので、事前の承諾無くして第三者に公開することには問題がある(基本的にはプライバシー保護法上の問題と言うより、著作権法上の問題かもしれない)が、承諾があれば、公開してよい。但し、その「つぶやき」中に、別人の個人情報が混入していないかの注意は必要だ。

このようなデータの利用を前向きに考えれば、民間事業者による図書館運営は、市税の節約や開館日・開館時間の延長以外の「利便性」や「楽しさ」を市民に提供できると期待できる。

とはいえ、貸出履歴の統計を取った結果、人気新刊だからといって公立図書館が大量購入することは、一般出版社や書店の利益を害し、著作権法上の問題を生むことになるし、公立図書館の使命が、経済的利益を度外視した蔵書の確保にあることも、一面の真実だ。したがって、上記のようなデータベースを駆使した市民サービスは、人気新刊への集中ではなく、図書館の隅に眠る傑作や良書を掘り起こし、市民に提供するという「ロングテールの顕在化」にこそ、求められるべきだと思う。

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2012年5月16日 (水)

TSUTAYAが公立図書館を運営することと貸出履歴の問題について(2)

CCCが公立図書館を具体的にどう運営するのか、報道からはよく分からない。そこで、図書館の建物と蔵書は市の所有だが、図書館員は全員CCCの従業員であり、蔵書のデータ管理はすべてCCCが行うものと仮定する。建物と蔵書が市の所有であること以外は、TSUTAYAとそっくり同じ、ということだ。但し、このエントリでは、Tポイントカードではなく普通の公立図書館と同じ貸出カードを利用すると仮定し、Tポイントカードを利用する場合の問題は次回以降のエントリで述べる。

さて、この「TSUTAYA図書館」は公立図書館だから、誰でも入場できるし、開架の蔵書は自由に読めるが、本を借りるには、住所氏名等の個人情報を登録して貸出カードを発行してもらう必要がある。

こうやって貸出登録を行った人は、住所氏名等の個人情報と、これに紐づけられた貸出履歴をCCCに提供しなければ、本を借りることができない。この点について武雄市長は「貸出履歴は個人情報ではない」と述べたそうだが、本を借り出すとき利用者がCCCに提供する情報は、明らかに個人を特定するものだ。だって、誰がいつ何を借りたか分からなければ、延滞の督促さえできないからね。

そこで第一の問題は、個人を特定する貸出履歴を民間事業者に提供しなければ本が借りられないような公立図書館が許されるのか、という点になる。誤解しないでいただきたいのは、これが純然たる私立図書館だったら何の問題もない、ということだ。実際我々はTSUTAYAに個人情報を提供してDVD等を借りているし、私立図書館の事業主は、図書館と蔵書に対する管理権の一環として、「個人情報や貸出履歴を提供してくれない人には本を貸さない」権利がある。これに対して公立図書館の場合、住民の利用を妨げない義務を負う。とすれば、個人情報や貸出履歴を提供しない限り本を貸さないという対応は、この義務に反するのではないか、という点が、問題の本質となる。

結論から言えば、公立図書館といえども、個人情報と貸出履歴を提供しない人に本を貸す義務はない、と考えて間違いない。そうしなければ、貸出管理(延滞の督促等)が不可能だからだ。いいかえるなら、貸借という行為において、借主の住所氏名等個人情報の開示は必要不可欠の要素である。この点において、地方公共団体と民間事業者を区別する理由はない。個人情報を提供したくないけれども、どうしてもその本が読みたいというなら、借り出さずに、図書館で読めば良い。

以上からいえることは、民間事業者が公立図書館を運営することは許される、言い換えれば、図書の貸し出しをするにあたり、図書の貸出履歴を含む個人情報の提供を受けることは許されるし、これを拒否する人には蔵書の貸出を拒否できる。ただし、公立図書館である以上、館内で自由に本を読みたい住民を拒否することは許されない、ということになる。

さて、以上を踏まえた上で、単なる民間事業者とCCCとの異同に言及していきたい。

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2012年5月14日 (月)

TSUTAYAが公立図書館を運営することと貸出履歴の問題について(1)

ちゃんとフォローしていないので、不正確なところがあるかもしれないが、佐賀県武雄市が、市立図書館の運営をTSUTAYAで知られるカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下CCC)に委託することになったそうだ。ところが、「本の貸出履歴情報はCCCに提供するのか」との質問に対して、「何を借りたのかという情報は個人情報ではない」と市長が声を荒げたことを皮切りに、産業技術総合研究所情報セキュリティ主任研究員である高木浩光氏と樋渡啓祐武雄市長との間に論争になっているらしい。

論争の具体的内容は双方のブログを見ていただきたいが、要するに、武雄市長は「樋渡啓祐が『深夜特急』『下町ロケット』『善の研究』を5月6日に借りた。」この情報が外部に出るとこれは個人情報の関係法令の適用に当たるが、「5月6日20時40分、42歳の市内在住の男性が、『深夜特急』『下町ロケット』『善の研究』を借りた。」ということそのものについては、個人が特定できないし、仮にこれが外部に出ても法令に照らし、全く問題がない(中略)、これをもとに、(何を借りたのかという情報は)個人情報に当たらないって言っている」と述べており、これに対して高木氏は、「個人情報に関する武雄市条例の定義が、行政機関個人情報保護法よりもさらに狭く、民間よりもフリーダムなものになっている」ことが問題だと主張したところ、樋渡市長は、「(高木氏が)国の機関に属しておきながら、特定の自治体を陥れるような発言は、僕は許せない」と怒りを露わにして、武雄市条例の定義は「国が扱う範囲と同一」であって、書かなくても当然の部分(他の情報と照合することによる特定性)をあえて書かなかっただけ、と反論している。

だが、この議論は、ピントがずれてしまっていると思う。

報道を見ても具体的な運営形態はよく分からないが、「Tポイントカードで貸出が受けられる」ということからすると、「樋渡啓祐が『深夜特急』『下町ロケット』『善の研究』を56日に借りた」という情報は、直接、CCCが取得することになるのだろう。この情報のうち、「樋渡啓祐」の部分が「42歳の市内在住の男性」と匿名化されて、市からCCCに渡されるわけではない。その前提で見る限り、CCCが取得する情報は、市長の言葉に従っても明白に個人情報であるし、どの法律、どの条例から見ても個人情報だ。

CCCから見れば、「深夜特急」「下町ロケット」「善の研究」を、どこの誰が借りたのか分からなければ、図書館の運営などできない。だから、CCCが入手する情報は、疑いなく個人情報であって、匿名化された情報ではない。樋渡市長が、「貸出履歴は個人情報に当たらない」と言ったのは、この意味において間違いだと思う。

一方、高木氏も、「『個人情報』定義の弊害、とうとう地方公共団体にまで」という標題が示すように、問題の所在を「個人情報の定義」に求めてしまった点で間違っている。そもそもこの問題は、「個人情報に当たるから違法、当たらないから適法」という関係にはないから、「貸出履歴が個人情報に当たるか否か」という論争をしても無意味なのだ。

それなら、TSUTAYA図書館問題の本質は何か。

第一の問題点は、「貸出履歴(それが個人情報に当たるか否かを問わず)をCCCという民間事業者に知らせなければ本が借りられないという公立図書館が許されるか」という点である。

これが許されるとして、第二の問題点は、「CCCが、特定個人の貸出履歴を、同業者が持つ同一人の他の情報(たとえばTUTAYAでレンタルしたDVDの履歴)と紐づけすることは許されるか」という問題である。

第三の問題は、「Tポイントカードのシステムに加入しているCCC以外の事業者が、特定人の貸出履歴と、当該事業者のもつ当該特定人の情報とを紐づけすることは許されるか」という問題である。

この三つの問題点を論理的順番に従って整理しないと、ピントのずれた論争になってしまうので、注意が必要だ。(たぶん続く)

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2012年5月11日 (金)

たった一人の卒業式

「丼上正仁(仮名)君。貴殿は当学院の全課程を修了したことを証します」

居並ぶ教員と来賓の前で、修了証書を受け取る卒業生は丼上君ただ一人。とはいえ、ここは過疎地ではない。東京都郊外にある法科大学院だ。

この法科大学院は2004年(平成16年)開校した。定員は1学年30人だが、2007年(平成19年)には定員割れとなり、丼上君の学年の入学者は5名。そのうち4名も次々と退学し、修了式を迎えたのは丼上君ただ一人となった。

その丼上君、この法科大学院を卒業するのは実は2回目。1回目の卒業後、司法試験を3回受験したが合格できず、受験資格を失ったため、再度入学した。「僕ももう33歳だし、受験資格は大事に使いたい。今年の司法試験は受けません。受験予備校に通って実力の底上げをしたい」という。ちなみに、この法科大学院の修了生で司法試験に合格したのは、修了生184人(延べ人数)のうち、3人。

卒業式では、修了証書授与のあと、全員で国歌を斉唱した。今年から文科省の通達により、法科大学院の修了式でも国歌斉唱の際の起立と斉唱が義務づけられたため。教員らは互いの口を指さして唇の動きを確認し、お互いに耳を近づけあって「口パク」でないことを確かめ合っていた。ある教員は匿名を条件に、「大幅な定員割れが続く当院が文科省から補助金を受けるための涙ぐましい努力」と解説する。文科省の資料によると、今年度、卒業生ゼロの法科大学院は、全国に10校以上あるが、「法科大学院の適正配置」を訴える日弁連の反対などもあり、統廃合はなかなか進まない。

最後に佐藤幸司院長が祝辞を述べて丼上君を激励し、「必ず合格してください。今度三振しても、そのとき当院はあるか分かりません」と述べた。会場には、乾いた笑いが広がった。

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2012年5月 9日 (水)

司法の役割

総務省は、平成244月に「法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価書」を公表した。内容について不満だったのは、「司法の役割」とは何か、について言及のないことだ。

この政策評価書は、その名のとおり、政策を評価している。その政策とは、平成14319日閣議決定「司法制度改革推進計画」だ。この計画には、「グローバル化が進む世界の中で、司法の役割を強化し、その国際的対応力を強めることが一層重要となっている」と「司法の役割の重要性が増大する中にあって、これに的確に対応し、各種の紛争を公正かつ透明な法的ルールの下で適正かつ迅速に解決していくためには、裁判官の果たすべき役割がより一層重要」と、二箇所に「司法の役割」という語が見られるけれども、「司法の役割」とは何か、についての言及はない。

そこで、閣議決定のもととなった「司法制度改革審議会意見書」(平成13612日)を見てみると、「1.司法の役割」という一節を割いている。

同意見書は、「法の支配」の重要性を説く前文の後、「21世紀のわが国社会の姿」は、①日本国民が政治の客体から統治の主体へと進化し、②その独創性と活力を国際社会に発信する、開かれた社会であるべきとし、そこで期待される「司法の役割」は、国会・内閣(政治部門)と並んで、「公共性の空間」を支える柱として、政治部門に対するチェック機能を強化すること、具体的には、行政訴訟制度と違憲立法審査制度の見直しが必要と指摘し、最後に、「21世紀社会の司法は、紛争の解決を通じて、予測可能で透明性が高く公正なルールを設定し、ルール違反を的確にチェックするとともに、権利・自由を侵害された者に対し適切かつ迅速な救済をもたらすものでなければならない。このことは、我が国の社会の足腰を鍛え、グローバル化への対応力の強化にも通じよう」と結んでいる。

佐藤幸治座長が起草したと推測されるこの序文は、とても格調が高い。ただ、「法の支配」と「グローバル化」の関係は説明不足なので、他人の手が入ったと思われる。一番の問題は、この格調高い序文のうち、「国民を統治の客体から主体に進化させる」という、最も肝心な部分が受け継がれず、比較的どうでも良い「グローバル化」の方だけが、上記閣議決定の中核となっていることだ。その結果として、「司法制度改革推進計画」における「司法の役割」は文脈上、グローバル化と紛争多発社会に対応する公共サービスに堕してしまっている。要するに、ニーズがあるから法曹を増やせ、というだけの話になっているのだ。

「司法の役割」という視点から司法制度改革審議会意見書をみると、佐藤幸治座長の掲げた理念が骨抜きにされ、まるで道路や電力のような公共インフラとしての司法の役割のみが、政策決定に受け継がれたことが窺われる。

その意味で、佐藤幸治座長は、ニッポンの政治過程に利用されただけ、とも言えるし、理念先行しがちな学者先生の限界、とも言えるかもしれない。

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2012年5月 7日 (月)

コスト競争のため安全を犠牲にすることと、法律との関係

安価が売り物の焼き肉チェーン店でユッケ死亡事故が起きた直後、焼き肉屋であえてユッケを注文し、「あの事件、どう思う?」と店員に聞いたら、「生肉なんだから、安いものを食べちゃだめ!」と答えた。だが、体力はあるがお金がない(ようにみえる)その若い店員は、東京ディズニーランドに遊びに行くときには、高速バスを使うかもしれない。

安全工学の分野では、「リスクとベネフィット」という考え方がある。たとえば包丁には、怪我をするというリスクと、物を切れるというベネフィットがある。このリスクとベネフィットは表裏一体だから、リスクが現実化しても、包丁メーカーが法的責任を問われることは、原則ない。また、自動車は、日本だけで年間数千人を殺すが、高速移動・長距離輸送のベネフィットと表裏一体のものとして社会に受け入れられているから、その危険が現実化しても、自動車メーカーが法的責任を問われることは、原則ない。ユーザーは機能のベネフィットを享受する代わり、安全に配慮する義務を負うから、リスクが現実化して怪我を負っても、自己責任が基本だ。

つまり、製品が本質的に持つ安全リスクは、機能の持つベネフィットが社会に受けいれられる限りは、ユーザーに転嫁される。この場合、リスクが現実化しても、メーカーが責任を問われることはないし、仮に問われることがあったとしても、使い方が悪かったのだ、と過失相殺を主張できる。

「リスクとベネフィット」という考え方は、次世代ロボットの安全基準策定にも反映されている。その背景には、事故が起きたときの法的責任を恐れるメーカーの事情があるし、この分野を整理しない限り次世代ロボット市場は発展しないと言われている。

この考え方は、長距離バスというサービスにも当てはまるのだろうか。

金沢から東京まで、飛行機なら18000円、鉄道なら13000円だが、高速バスなら5000円以下。時間は倍以上だが、費用は3分の1以下だ。だが、高速バスのユーザーは、時間以外に安全も犠牲にしている。自覚はないかもしれないが、事故発生の確率が鉄道や飛行機より高いことは、少し考えれば分かることだ。つまり、長距離バスは本質的に、安全を犠牲にして価格的な便益を提供しているのである。そして、安価な長距離バスほど、犠牲にされる安全の程度は高い。

コスト競争が、本質的に安全を犠牲にしていることは、高速バスに限られない。私の職場がある大阪北浜の路上で売る弁当は、最近400円台の競争に突入した。800円前後の定食屋に比べ安価で、待ち時間がないというベネフィットを提供するが、特にこれからの季節、食中毒のリスクは高まる。「安物買いの銭失い」という諺が示すとおり、安価というベネフィットを享受しようとするあまり、より重大な価値を失うリスクがあることは、古来常識だった。

しかし法的には、コスト競争のため安全を犠牲にしたという事実が、責任を免除・減少させる主張として認められることはない。「安いユッケを食べた方も悪いから3割の過失相殺」という判決は、少なくとも日本では出ていない。法律上は、「コスト競争のため安全が犠牲になっていることは、被害者も承知の上で、安価という便益を享受したはずです。だから、損害賠償金も相応の減価がなされるべきです」という主張は許されない、ということになる。

注意するべきは、許されないのは「主張すること」であって、「コスト競争のため安全を犠牲にすること」ではない。平たく言い換えると、コスト競争のため安全を犠牲にすることそれ自体は許されているが、それをおおっぴらに主張することは許されない、ということだ。つまり、価格競争によるリスクをユーザーに転嫁することは、法的には許されないのである。

「機能を享受するために、安全を犠牲にする」ことによるリスクは、ユーザーに転嫁することが許されるが、「安価さを享受するために、安全を犠牲にする」ことによるリスクを転嫁することは許されない。この違いを理解することは、とても難しいように思われる。

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2012年5月 1日 (火)

1月25日大阪公聴会での補佐人としての演説原稿

日弁連会長選挙もようやく決着したので、125日の大阪での公聴会に山岸候補の補佐人として行った演説原稿を掲載します。本番では多少アドリブも入れましたが、ほぼこの通りに話したつもりです。裏表にわたり、いろいろな思いを込めましたが、読み取っていただけますかどうか。

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44期の小林です。本日は、山岸候補の補佐人として、この場所におります。

私を知る人の中には、なぜ小林がそこにいるのだ、と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。なぜ私に白羽の矢が立ったのか、私にも分かりません。ですが、補佐人をお引き受けするなら、提灯演説はやらない、と申し上げました。それでもやれ、とおっしゃって下さった山岸候補の寛大さに、まずは御礼を申し上げます。

さて、高山俊吉弁護士は、かつてこの場所で、日弁連は沈みゆく船だと言いました。今、この予言は当たったと言わざるを得ません。

この二年間、加速度的に増え400人に達した未登録者。ノキ弁を足せば司法研修所卒業生の半分が収入を保障されない異常事態。多くの法科大学院は定員割れ。大学法学部受験生断トツの減少。弁護士はもはや、若者の目指す職業ではなくなりました。仮に今年、給費制を復活させ、司法試験合格者数を1000人にしても、弁護士志望者は増えません。人数調整で何とかなった時期は過ぎたのです。

本質的な問題は、業域の拡大です。仕事が増える仕組みを作ることです。もちろん、ペイする事件です。震災も結構、可視化も結構ですが、ボランティアや赤字事件を指さして「需要がある」という与太話は聞きたくありません。

起こしにくく勝ちにくく回収しにくい民事訴訟制度の改革。弁護士費用保険制度や、証拠開示・財産開示制度の改革、行政不服審判制度改革など、課題は山積です。大事なことは、制度改革は、政府や裁判所との協働なくして実現しないということです。

これは実現力の問題です。宇都宮候補は、政府や最高裁と緊張関係を作らずに日弁連の政策は実現できない、といいます。確かに、給費制の一年延長は、対決路線の成果かもしれません。しかし、その結果、法曹養成フォーラムでの孤立と袋だたきにあい、他の改革が停滞したとの見方もできます。緊張関係の中でも、政府や最高裁とのパイプを維持できる人物こそ、日弁連会長の適格があると考えます。

本質的な論点を把握し、具体的な解決策を提示し、その実現力を持つ候補に、投票したいと思います。日弁連事務総長、東弁会長を経験され、敗訴者負担制度やゲートキーパー法案で活躍した実績を持つ山岸候補が、これに応えてくれると期待します。

それでは山岸候補、よろしくお願いします。

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