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2012年5月31日 (木)

法曹人口問題、破綻した法曹養成制度、司法の使命について

530日、民主党の法曹養成PTに招かれ、お話しをする機会をいただきました。そのために作成した原稿を以下に公表します。10ないし15分という制約の中だったので、かなり駆け足になっていますが、ご容赦ください。

なお、請求退会者については、京都の白浜徹朗弁護士からデータの提供をいただきました。お礼を申し上げます。

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司法試験合格者年3千人は大学の都合

ご承知の通り、平成14年の閣議決定は、司法試験合格者年3千人を目指すとしています。

3千人の根拠につき、中坊公平もと日弁連会長は、「フランス並みの弁護士人口56万人を10年で達成するため」と説明しました【資料[i]】。

しかし、「フランス並み」は、実は理由になりません。その証拠に、僅か2年前の衆議院法務委員会では、政府委員の山崎判事が「フランス並みの35千人を目指すため、司法試験合格者数年1500人」と答弁しています【資料[ii]】。「フランス並み」とは、国際比較に弱い日本人を説得する方便に過ぎません。

では、3千人の根拠は何か。要は、「偏差値カースト制度」の中で、法科大学院制度を一気に実現するため必要な数字だったという点に尽きます。

簡単な計算をしてみましょう【資料[iii]】。例えば宮澤節生教授は、「1学年20人から50人、50校設立しても2500人」と試算しています【資料[iv]】。これが机上の空論であることは、東大の立場で考えれば明白です。東大が最高学府と呼ばれるのは、国家の枢軸に多数の卒業生を輩出しているからです。その立場からは、最低3百人必要です。同じ計算を当てはめれば上位10校で2千人を超え、上位20校で37百人を、宮澤教授が前提とした50校で4千人を超えます。すなわち、司法試験合格者数2千人では、10校程度しか法科大学院を開校できないため、大学間で熾烈な闘争が発生し、構想そのものが頓挫したことを意味します。司法試験合格者数年3千人なら、合格率7割として定員数4千人です。矢口洪一もと最高裁長官は初めから、法科大学院定員4千人を想定しています【資料[v]】。

3千人の根拠は何かというとき、すぐアメリカの陰謀だと年次要望書を持ち出す人がいます。これは思考停止だと思います。3千人には根拠があるのです。ただその根拠は、大学の都合に過ぎず、国家国民を考えて出された数字ではないのです。

法科大学院の作りすぎが問題だったという意見があります。これは問題の本質をすり替えています。確かに、当初の法科大学院は50校程度を想定していました。しかし、50校でも、現在の破綻状況は等しく訪れていたでしょう。つまり法科大学院の作り過ぎと、現在の混乱状態との間には、因果関係がないのです。

破綻した法曹養成制度

3千に大した根拠がなくても、では何人か、という問題は残ります。

当面の方策として、司法試験合格者数を減らすべきことは明白ですが、問題は、それで何が解決するのかです。

法科大学院の入学者数合計は、昨年度3620人に対し、今年は3千人を下回ると言われています。年2割減のペースなら、法科大学院の定員は3年後に2千人を下回り、いずれ需給が均衡するかに見えます。しかし実際には、現在1万人近くいる滞留受験生が捌けるまで、合格率はさほど上がりません【資料[vi]】。

その間弁護士の就職難は続きます。平成23年度の司法修習生は、当初未登録者が4百人に達しました【資料[vii]】。即独・ノキ弁等、収入を保障されない新人弁護士数は未調査ですが、去年より増えることは確実です。

弁護士の廃業も、今年は3百人、全体の1%に達すると予測され、特に若手の廃業率が高くなります【資料[viii]】。データはないのですが、弁護士になっても食えないため、裁判官の中途退官者が減っているといわれています。

また、裁判所の新受件数が減っています。過払事件数に隠されていますが、過払い以外の事件数は激減しているはずです。事件数の減少は、裁判所予算の減少に直結するので、裁判所も看過できないはずです。是非国政調査権を使ってこの点を調査いただきたいいと思います。

いずれにせよ、弁護士は今や、ハイリスク・高コスト・ローリターン、いや、ノーリターンの職業になってしまいました。

その結果として、今年度の司法試験受験生は初の減少となり、法科大学院適性試験の受験者は16%減少しました。

大学法学部の受験生は、昨年の1割以上減となりました【資料[ix]】。受験予備校の分析によれば、成績上位層での志望者減少が目立ちます【資料[x]】。不況により公務員を志望する法学部受験生が増えていることを勘案すれば、法曹志望者の激減と学力低下は明らかです。

これらの事実から、法曹はすでに、人材の吸引力を失ったことが分かります。法曹養成制度の入口に人材が来ないのに、出口の人数を議論するのは、とても虚しいことです。

司法の使命とは何か

法曹養成とは、法曹を養成することですから、法曹の使命は何かという議論は不可欠です。法曹の使命とは、法曹三者全体の使命であり、司法の使命です。しかし、司法審意見書には、司法の「役割」についての記述こそあれ、「使命」に関する考察は、一つもありません。

「役割」と「使命」は別の概念です。国会議員の役割は立法ですが、使命は立法ではありません。国会議員の使命は、良き日本を作ることです。司法の役割は法的紛争の解決ですが、それは使命ではありません。法的紛争解決が使命なら、司法は行政の下部組織で十分です。

ならば司法の使命とは何でしょうか。

【資料[xi]】は、昭和18315日付「法律新報」が掲載した座談会です。その11頁には、「裁判所は時の政府の便宜に協力することに正義を見いだすべきではない。正義が地に落ちて国家の栄えることはない」という藤江忠二郎裁判官の発言があります。これは、前年の翼賛選挙に対する無効訴訟を念頭に置いた発言です。この訴訟の原告代理人は、粛軍演説を行い、衆議院を追われた齋藤隆夫弁護士です。議会が軍部に蹂躙されているときに、戦時下でさえ敢然と抵抗することこそ、裁判所の使命であるというのが、この命がけの発言の趣旨です。

時代が違うという批判があるかもしれません。しかし、軍部を官僚に置き換えれば、現代にも通じると考えます。

最後にご紹介したいのは、この座談会にも参加した内藤頼博判事【資料[xii]】です。戦後の司法制度改革に参加し、現行裁判所法を起草して、統一修習や給費制を創設したのが、内藤判事であることは、給費制運動を展開した日弁連幹部でさえ、誰も知りません。しかし、内藤判事は、大蔵省の反対に対し、「弁護士の地位も、国家機関的なものであり、弁護士も判事や検事と同様、国家事務を行うものだ」から、給費制は当然と押し切りました【資料[xiii]】【資料[xiv]】。法曹三者は、同じ国家事務を行い、同じ使命を共有するのだという確信が、この主張の背後にあります。

私はここで、給費制を復活しろと言いたいのではありません。戦後に法曹養成制度を設計した日本人は、法曹養成制度を設計するにあたり、司法の使命を明確に見定めていた、ということを申し上げたいのです。

ニーズがあるから法曹を増やせとか、ニーズがないから減らせとか、予算がないから給費制をやるとかやらないとか、その種の薄っぺらな議論をしたのでは、この20年間の失敗を繰り返すことになります。法曹養成・法曹人口問題については、司法の使命は何かという、骨太の議論をしていただきたいと思います。

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[i] 平成12年(2千年)87日の司法制度改革審議会議事録(抜粋)

[ii] 平成10年(1998年)48日衆議院法務委員会議事録(抜粋)

[iii] 法科大学院定員数予測と実際の比較

[iv] 21世紀司法への提言』15

[v] 自由と正義19987月号「『法曹一元』の制度と心」(矢口洪一)

[vi] 司法試験合格者数シミュレーション(作成;小林正啓)

[vii] 新64期弁護士登録者数等資料 (任検・任官確定後)(日弁連)

[viii] 請求退会者数推移表(白浜徹朗弁護士作成)

[ix] 請求退会者数推移表(白浜徹朗弁護士作成)

[x] 2011年度入試の展望③~法学系の志望動向(河合塾)

[xi] 戦時下の裁判道を語る座談会(法律新報)

[xii] 内藤頼博(司法大観より)

[xiii] 終戦後の司法制度改革の経緯

[xiv] 法の支配19982月号 戦後50年想い出すまま(畔上英治)

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コメント

1 「こん日」でも、東大の立場からは最低300人の定員が必要であることを前提としてた上で、結論として合格者3000人という議論を展開しておられますが、東大3000人という前提についての根拠が分かりません。
 合格者1000人時代に東大の合格者は約100人であったことからすると、合格者3000人を前提とすれば東大として定員300人は欲しいという立論なら分かります。そうだとすると、どの大学にも合格者1000人時代の合格者数の3倍の定員を割り振れば十分だし、もし合格者1500人を前提とすれば東大には定員150人で納得してもらうべきでしょう。
 そう考えると、やはり、法科大学院定員から司法試験合格者数を導くのではなく、司法試験合格者数から法科大学院定員は導かれるべきだし、そのような定員の統制をしなかったことが大きな失敗であったと考えます。
 
2 法科大学院の作りすぎが問題であるかどうかについてですが、確かに、74校を50校に削減したところでうまくいかないと思います。
 しかし「作りすぎと混乱には因果関係がない。」とまで言ってしまうと「だから統廃合は無益である」という法科大学院を甘やかす根拠に利用されることになりかねません。
 法科大学院が20校30校だったならどうでしょうか。
 それだけが原因ではないとしても、やはり作りすぎは、大きな問題であると思います。

3 したがって、今後の司法試験合格者数が、500人ならともかく、1000人であったとしても、1500人であったとしても、それに応じた法科大学院制度は構築できるし、構築してもらわなければならないと思うのです。

投稿: なしゅ@東京 | 2012年6月 1日 (金) 15時31分

「東大3000人」とありますが「東大300人」でしょうか?
理由は、『こん日』にも書いたとおり、東大の偏差値が高いからです。ごく単純に、最下位の東大生が、最上位の京大生より偏差値が高いとすれば、東大に割り当てられるべき法科大学院の定員数は、300よりもっと増える筈です。実際はここまで単純ではなく、大学間でダブりがあるので、300くらいが適切な数となるでしょう。「べき論」はさておき、これが「偏差値カースト制度」の現実です。その他のご指摘については、改めて述べたいと思います。

投稿: 小林正啓 | 2012年6月 1日 (金) 21時41分

 東大は300人です。お恥ずかしい限りです。
 いずれにしても、大変お疲れ様でした。
 上述した異論はあるものの、司法の使命については全く同感です。
 さらに言えば、司法の使命についての理解を得て、司法修習の給費制の復活することも求めていきたいと思っていますが。

投稿: なしゅ@東京 | 2012年6月 5日 (火) 13時24分

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