« コスト競争のため安全を犠牲にすることと、法律との関係 | トップページ | たった一人の卒業式 »

2012年5月 9日 (水)

司法の役割

総務省は、平成244月に「法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価書」を公表した。内容について不満だったのは、「司法の役割」とは何か、について言及のないことだ。

この政策評価書は、その名のとおり、政策を評価している。その政策とは、平成14319日閣議決定「司法制度改革推進計画」だ。この計画には、「グローバル化が進む世界の中で、司法の役割を強化し、その国際的対応力を強めることが一層重要となっている」と「司法の役割の重要性が増大する中にあって、これに的確に対応し、各種の紛争を公正かつ透明な法的ルールの下で適正かつ迅速に解決していくためには、裁判官の果たすべき役割がより一層重要」と、二箇所に「司法の役割」という語が見られるけれども、「司法の役割」とは何か、についての言及はない。

そこで、閣議決定のもととなった「司法制度改革審議会意見書」(平成13612日)を見てみると、「1.司法の役割」という一節を割いている。

同意見書は、「法の支配」の重要性を説く前文の後、「21世紀のわが国社会の姿」は、①日本国民が政治の客体から統治の主体へと進化し、②その独創性と活力を国際社会に発信する、開かれた社会であるべきとし、そこで期待される「司法の役割」は、国会・内閣(政治部門)と並んで、「公共性の空間」を支える柱として、政治部門に対するチェック機能を強化すること、具体的には、行政訴訟制度と違憲立法審査制度の見直しが必要と指摘し、最後に、「21世紀社会の司法は、紛争の解決を通じて、予測可能で透明性が高く公正なルールを設定し、ルール違反を的確にチェックするとともに、権利・自由を侵害された者に対し適切かつ迅速な救済をもたらすものでなければならない。このことは、我が国の社会の足腰を鍛え、グローバル化への対応力の強化にも通じよう」と結んでいる。

佐藤幸治座長が起草したと推測されるこの序文は、とても格調が高い。ただ、「法の支配」と「グローバル化」の関係は説明不足なので、他人の手が入ったと思われる。一番の問題は、この格調高い序文のうち、「国民を統治の客体から主体に進化させる」という、最も肝心な部分が受け継がれず、比較的どうでも良い「グローバル化」の方だけが、上記閣議決定の中核となっていることだ。その結果として、「司法制度改革推進計画」における「司法の役割」は文脈上、グローバル化と紛争多発社会に対応する公共サービスに堕してしまっている。要するに、ニーズがあるから法曹を増やせ、というだけの話になっているのだ。

「司法の役割」という視点から司法制度改革審議会意見書をみると、佐藤幸治座長の掲げた理念が骨抜きにされ、まるで道路や電力のような公共インフラとしての司法の役割のみが、政策決定に受け継がれたことが窺われる。

その意味で、佐藤幸治座長は、ニッポンの政治過程に利用されただけ、とも言えるし、理念先行しがちな学者先生の限界、とも言えるかもしれない。

|

« コスト競争のため安全を犠牲にすることと、法律との関係 | トップページ | たった一人の卒業式 »

コメント

  今回の政策評価は、あくまで、司法制度改革推進計画で閣議決定したことを法務省と文科省が適切に行っていないという観点からの評価に留まってよく、もし仮に、総務省政策評価書が「司法はこうあるべき」と論じたら、司法界は、こぞって反発したであろうと思います。
 その意味で、小林先生の不満は、司法制度改革審議会意見書の理念を骨抜きにしたという評価を前提として、司法制度改革推進計画に向けられるべきなのではないでしょうか。

投稿: なしゅ@東京 | 2012年5月 9日 (水) 21時19分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/192469/54643706

この記事へのトラックバック一覧です: 司法の役割:

« コスト競争のため安全を犠牲にすることと、法律との関係 | トップページ | たった一人の卒業式 »