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2012年5月18日 (金)

TSUTAYAが公立図書館を運営することと貸出履歴の問題について(3)

民間事業者が公立図書館を運営し、利用者の住所氏名や貸出履歴などの個人情報を入手・管理すること自体については、プライバシー保護法上の問題はない。本エントリでは、このことから派生しうる問題について、少し触れておきたい。

貸出履歴を一定期間経過後に削除する義務を負わせるべきかという問題がありうる。結論としては、負わせる必要はないと考える。なぜなら、過去のデータにも一定の有用性があるからだ。図書館利用状況の統計データを作成する必要もあろうし、延滞常習者等を把握する必要もある。それでも、何年か経ったら削除すべしという議論もあろうが、法的にはどちらでもよいと思う。もちろん、保存データが万一漏洩したら、その責任はきっちり取ってもらうことになる。

口コミやレコメンドはどうだろう。この問題は、二つに分けて考える必要がある。一つは、自分の情報が自分に戻ってくるパターンであり、具体的には、「その本は○年○月○日に借りていますが、また借りますか?」というサジェスチョンをするような場合で、TSUTAYA DISCASにはこの機能がある。もう一つは、他人の情報が自分に提供され、自分の情報が他人に提供されるパターンであり、具体的には、「この本を借りた人は、この本も借りています」「この本の評価は『面白かった』が65%です」などの情報を提供する場合であって、AMAZONにこの機能がある。

まず、自分の情報が自分に戻ってくることについて、法的な問題が無いことは疑いない。ただ、「うるさい」「余計なお世話だ」と思う人はいるだろうし、そういう人がレコメンドを聞かずにすむ機能は要求されるかもしれない。

次に、自分の情報や口コミが他人にレコメンドされることについては、一応、個人情報の第三者提供になり得るから注意が必要だ。だが、AMAZONなどのレコメンド機能は、個人特定性を一切取り払った抽象的・統計的な情報を第三者に提供しているだけだから、このようなやり方であるかぎり、プライバシー保護法上の問題はない。

そして、個人特定性を一切取り払った抽象的な情報である限りにおいては、これを図書館内の売店で使用したり、図書館のサーバーから持ち出して、TSUTAYAの書店で使用(「これは、武雄市図書館で一番人気。予約待ち3ヶ月の本です!」)したとしても、プライバシー保護法上の問題はない。図書館が取得したデータをCCCが私的利益のために利用できるかという議論はありうるが、これはプライバシー保護法上の問題ではない。

利用者による、読書感想文様の「つぶやき」を、POP等の形式で表示することについては、客観的な個人特定性はないとしても、書いた本人には自分の文章だと分かる情報なので、事前の承諾無くして第三者に公開することには問題がある(基本的にはプライバシー保護法上の問題と言うより、著作権法上の問題かもしれない)が、承諾があれば、公開してよい。但し、その「つぶやき」中に、別人の個人情報が混入していないかの注意は必要だ。

このようなデータの利用を前向きに考えれば、民間事業者による図書館運営は、市税の節約や開館日・開館時間の延長以外の「利便性」や「楽しさ」を市民に提供できると期待できる。

とはいえ、貸出履歴の統計を取った結果、人気新刊だからといって公立図書館が大量購入することは、一般出版社や書店の利益を害し、著作権法上の問題を生むことになるし、公立図書館の使命が、経済的利益を度外視した蔵書の確保にあることも、一面の真実だ。したがって、上記のようなデータベースを駆使した市民サービスは、人気新刊への集中ではなく、図書館の隅に眠る傑作や良書を掘り起こし、市民に提供するという「ロングテールの顕在化」にこそ、求められるべきだと思う。

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