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2012年5月14日 (月)

TSUTAYAが公立図書館を運営することと貸出履歴の問題について(1)

ちゃんとフォローしていないので、不正確なところがあるかもしれないが、佐賀県武雄市が、市立図書館の運営をTSUTAYAで知られるカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下CCC)に委託することになったそうだ。ところが、「本の貸出履歴情報はCCCに提供するのか」との質問に対して、「何を借りたのかという情報は個人情報ではない」と市長が声を荒げたことを皮切りに、産業技術総合研究所情報セキュリティ主任研究員である高木浩光氏と樋渡啓祐武雄市長との間に論争になっているらしい。

論争の具体的内容は双方のブログを見ていただきたいが、要するに、武雄市長は「樋渡啓祐が『深夜特急』『下町ロケット』『善の研究』を5月6日に借りた。」この情報が外部に出るとこれは個人情報の関係法令の適用に当たるが、「5月6日20時40分、42歳の市内在住の男性が、『深夜特急』『下町ロケット』『善の研究』を借りた。」ということそのものについては、個人が特定できないし、仮にこれが外部に出ても法令に照らし、全く問題がない(中略)、これをもとに、(何を借りたのかという情報は)個人情報に当たらないって言っている」と述べており、これに対して高木氏は、「個人情報に関する武雄市条例の定義が、行政機関個人情報保護法よりもさらに狭く、民間よりもフリーダムなものになっている」ことが問題だと主張したところ、樋渡市長は、「(高木氏が)国の機関に属しておきながら、特定の自治体を陥れるような発言は、僕は許せない」と怒りを露わにして、武雄市条例の定義は「国が扱う範囲と同一」であって、書かなくても当然の部分(他の情報と照合することによる特定性)をあえて書かなかっただけ、と反論している。

だが、この議論は、ピントがずれてしまっていると思う。

報道を見ても具体的な運営形態はよく分からないが、「Tポイントカードで貸出が受けられる」ということからすると、「樋渡啓祐が『深夜特急』『下町ロケット』『善の研究』を56日に借りた」という情報は、直接、CCCが取得することになるのだろう。この情報のうち、「樋渡啓祐」の部分が「42歳の市内在住の男性」と匿名化されて、市からCCCに渡されるわけではない。その前提で見る限り、CCCが取得する情報は、市長の言葉に従っても明白に個人情報であるし、どの法律、どの条例から見ても個人情報だ。

CCCから見れば、「深夜特急」「下町ロケット」「善の研究」を、どこの誰が借りたのか分からなければ、図書館の運営などできない。だから、CCCが入手する情報は、疑いなく個人情報であって、匿名化された情報ではない。樋渡市長が、「貸出履歴は個人情報に当たらない」と言ったのは、この意味において間違いだと思う。

一方、高木氏も、「『個人情報』定義の弊害、とうとう地方公共団体にまで」という標題が示すように、問題の所在を「個人情報の定義」に求めてしまった点で間違っている。そもそもこの問題は、「個人情報に当たるから違法、当たらないから適法」という関係にはないから、「貸出履歴が個人情報に当たるか否か」という論争をしても無意味なのだ。

それなら、TSUTAYA図書館問題の本質は何か。

第一の問題点は、「貸出履歴(それが個人情報に当たるか否かを問わず)をCCCという民間事業者に知らせなければ本が借りられないという公立図書館が許されるか」という点である。

これが許されるとして、第二の問題点は、「CCCが、特定個人の貸出履歴を、同業者が持つ同一人の他の情報(たとえばTUTAYAでレンタルしたDVDの履歴)と紐づけすることは許されるか」という問題である。

第三の問題は、「Tポイントカードのシステムに加入しているCCC以外の事業者が、特定人の貸出履歴と、当該事業者のもつ当該特定人の情報とを紐づけすることは許されるか」という問題である。

この三つの問題点を論理的順番に従って整理しないと、ピントのずれた論争になってしまうので、注意が必要だ。(たぶん続く)

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