TSUTAYAが公立図書館を運営することと貸出履歴の問題について(2)
CCCが公立図書館を具体的にどう運営するのか、報道からはよく分からない。そこで、図書館の建物と蔵書は市の所有だが、図書館員は全員CCCの従業員であり、蔵書のデータ管理はすべてCCCが行うものと仮定する。建物と蔵書が市の所有であること以外は、TSUTAYAとそっくり同じ、ということだ。但し、このエントリでは、Tポイントカードではなく普通の公立図書館と同じ貸出カードを利用すると仮定し、Tポイントカードを利用する場合の問題は次回以降のエントリで述べる。
さて、この「TSUTAYA図書館」は公立図書館だから、誰でも入場できるし、開架の蔵書は自由に読めるが、本を借りるには、住所氏名等の個人情報を登録して貸出カードを発行してもらう必要がある。
こうやって貸出登録を行った人は、住所氏名等の個人情報と、これに紐づけられた貸出履歴をCCCに提供しなければ、本を借りることができない。この点について武雄市長は「貸出履歴は個人情報ではない」と述べたそうだが、本を借り出すとき利用者がCCCに提供する情報は、明らかに個人を特定するものだ。だって、誰がいつ何を借りたか分からなければ、延滞の督促さえできないからね。
そこで第一の問題は、個人を特定する貸出履歴を民間事業者に提供しなければ本が借りられないような公立図書館が許されるのか、という点になる。誤解しないでいただきたいのは、これが純然たる私立図書館だったら何の問題もない、ということだ。実際我々はTSUTAYAに個人情報を提供してDVD等を借りているし、私立図書館の事業主は、図書館と蔵書に対する管理権の一環として、「個人情報や貸出履歴を提供してくれない人には本を貸さない」権利がある。これに対して公立図書館の場合、住民の利用を妨げない義務を負う。とすれば、個人情報や貸出履歴を提供しない限り本を貸さないという対応は、この義務に反するのではないか、という点が、問題の本質となる。
結論から言えば、公立図書館といえども、個人情報と貸出履歴を提供しない人に本を貸す義務はない、と考えて間違いない。そうしなければ、貸出管理(延滞の督促等)が不可能だからだ。いいかえるなら、貸借という行為において、借主の住所氏名等個人情報の開示は必要不可欠の要素である。この点において、地方公共団体と民間事業者を区別する理由はない。個人情報を提供したくないけれども、どうしてもその本が読みたいというなら、借り出さずに、図書館で読めば良い。
以上からいえることは、民間事業者が公立図書館を運営することは許される、言い換えれば、図書の貸し出しをするにあたり、図書の貸出履歴を含む個人情報の提供を受けることは許されるし、これを拒否する人には蔵書の貸出を拒否できる。ただし、公立図書館である以上、館内で自由に本を読みたい住民を拒否することは許されない、ということになる。
さて、以上を踏まえた上で、単なる民間事業者とCCCとの異同に言及していきたい。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
小林先生へ。
その3を早く読みたいです。
お待ちしております。(o^-^o)
投稿: 高嶋孝三 | 2012年5月17日 (木) 23時14分
たまたまパソコンを開けてこの問題を見つけ、ぶつぶつ言いながらいろいろ読みました。元司書です。貸出履歴は個人情報でないと言い切った人の無見識にただあきれましたが、ここで論じられている「履歴」に多少混乱があると思うのでちょっと一言。誰が何を借りているかは、もちろん貸出業務の範囲です。延滞等の対策に必要です。でもそれは本を返した瞬間に消失すべきものです。以前の貸出ーブラウン方式、回数券方式などこれが前提で考えられたもので、今のコンピュータ貸出もその前提のシステムです。しかし、誰が何を借りたかという以前の情報「履歴」は個人の嗜好・志向、生き方そのもので、他者のもとに残しておくべきものではありません。その本についての履歴は別で残せるので、ベストリーダーなどの統計はとることができます。この記事ではそこが混乱しているように思えたので、少し違和感を覚えました。図書館学を知るものでないとちょっとこの問題はわかりにくいかも知れないですね。
投稿: | 2012年5月21日 (月) 03時43分