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2012年7月 2日 (月)

桜と牛レバ

牛レバ刺しの飲食店での提供が71日から禁止されるため、630日の焼き肉店は、「食べ納め」の客で賑わったという。「もう食べられないのは悲しい」。新聞に載る客のコメントには、悲痛なものが多い。

だが、テレビで見る客の顔はどれも笑顔だ。最後の1枚を写メに撮って愛おしみ、名残惜しそうな笑顔で口に運ぶ。笑顔といっても、歓喜とは違う、一種独特の表情だ。どこかで見たような気がする。

何だろう、と考えてみて気がついた。これは、花見の顔だ。人びとは、散る桜を惜しむように、食えなくなるレバ刺しを惜しんでいるのだ。その意味で、これは極めて日本的な風景かもしれない。だが、桜は来年見られるけれど、レバ刺しにはたぶん、日本では一生お目にかかれない。

ところで、法律家としては、「レバ刺し禁止令」の合憲性について、検討しなければならない。そのためには、「レバ刺しを食べる自由は憲法上保障されているか」を論じる必要がある。この論点に類似する判例としては、「喫煙の自由が憲法上保障されているか」に関する最高裁判所大法昭和45年9月16判決がある。未決拘禁者の喫煙禁止が問題となったこの事件で、最高裁は、必要かつ合理的な制限と判断した。だが、店舗で牛レバ刺しを食する自由が、拘置所で喫煙する自由より強く制限されて良い理屈はない。それならば、我々はレバ刺しを食する自由を求めて裁判に訴えるべきではないのか。それこそ、民主主義のあるべき姿、法の支配のあるべき姿ではないのか。笑ってレバ刺しを食べている場合だろうか。

「逮捕・起訴されておいて、拘置所でタバコを吸う権利を保障しろだと?ふざけるな」と思うかもしれない。だが、この一見馬鹿げた主張に、最高裁が大法廷判決で応えた事実は軽視されてはならない。この事実は、現代より、昭和45年の裁判所の方が、人権感覚に敏感だったことを示している。

「レバ刺し禁止令」を是非もないと諦め、せめて散る桜のように惜しむ感覚は、日本人が備える美徳の一つかもしれない。だが、納得できないとき、しっかり異議を述べることと、異議を述べる人を、きちんと受け止めることとも、大事な「美徳」だと思う。そして、日本と日本人は、こちらの「美徳」をも、かつては、持っていたのだ。

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コメント

小林先生へ

たしかに、憲法上の論点は、ご指摘のとおりだと思います。
でも、健康保険レベルの問題があると思うのです。

「自己責任」で生レバを食べるのであれば、O157だろうが、もっともっと強烈なウイルスだろうが、食中毒になろうと、健保を使って欲しくないという考え方もありうるわけです。

そこまで考えているのであれば、どうぞお食べくださいと私は言って差し上げたいと思います。

投稿: 高嶋孝三 | 2012年7月 2日 (月) 23時34分

レバ刺しが禁止されることに違和感を覚え、ここまできました。

まだまだ詳細は分かっておりませんが、他の植物(餅など)と比較される方もおられるようです。

論理的な根拠がはっきりとしないのに強行的に禁止がなされたこと自体がおかしいと、このブログを読んだ後に思いました。

レバ刺し禁止令の合憲性については非常に興味を覚えますので、何もできませんが、どうぞ宜しくお願い致します。

失礼します。

投稿: ショウノ | 2012年7月 2日 (月) 23時41分

生レバー禁止に対する反論に対しO157の感染リスクがあり他人に迷惑をかけ得るという主張が散見されますがリスク0といった社会は本来あり得ません。それこそ自動車事故が多いので自動車を一律禁止するのかと言う話と同じです。要は規制方法が極端なのです。
小林先生も書いておられますが人権制約は必要最小限でなければいけないというのが我が国の憲法の基本的な考え方です。
憲法といえば9条ばかり問題にされますが自由権を保障してくれているかけがえのない規範であることを規制好きの日本人には改めて考えてもらいたい一例だと思います。
小林先生はお嫌いかも知れませんが右を向けと言えば一斉に右を向いてしまう日本人の習性こそが大戦に突入したりした最大の要因だったと思います。

投稿: YK | 2012年7月 6日 (金) 14時55分

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