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2012年8月10日 (金)

ニュースを読む視点(5)

8月5日の時事通信は、「政府は5日、司法試験合格者数の目標を現行の年間3000人から2000人に引き下げる方針を固めた」と報じた。「弁護士の過剰が問題」となったためで、今後は「法相を中心とする関係閣僚会議と下部組織の有識者会議を設置」して、「法科大学院の統廃合の是非についても協議」するという。

年間3000人の政府目標は閣議決定だから、これを覆すには再度の閣議決定が必要だ。したがって、「政府は…方針を固めた」と報じたところで、決まったわけではない[i]。だが、時事通信は昨年84日、第4回法曹養成フォーラム開催直後の午後1229分に、給費制打ち切り決定を報じた実績がある。時事通信は、法務省幹部と強いパイプを持っている、と考えられるから、この報道の確度は高いと思う。

ところで、この記事は表向き、「政府」を主語にしているが、実質的な主語は「法務省」である。「法相を中心とする関係閣僚会議」という書きぶりや、「法科大学院の統廃合」を協議するのに、監督官庁である文科省の「も」の字すら出てこないことからも、法務省発の記事であることは明白だ。

つまり、この報道には、法務省の意思が強く反映されている。

そこで中身を見ると、「司法試験合格者数の目標を年2000人に引き下げる」理由は、「弁護士の過剰が問題」となったためだという。だが、司法試験の合格者数はすでに、ここ数年2000人前後であり、この数が、深刻な就職難を初めとする過剰問題を引き起こしている。したがって、目標値を2000人に引き下げたからと言って、「弁護士の過剰問題」が緩和される筈がない。

次に、「法相を中心とする関係閣僚会議」と下部組織とで「法科大学院の統廃合の是非」を協議するという。「是非」とあるのは、文科相の顔を立てたにすぎず、方向性は「是」しかない。統廃合の目的は、法科大学院生数(=受験資格者数)を減らすことによって、司法試験の合格率を上げることにある。

だがこの作戦には、致命的な欠点が二つもある。一つは、既に1万人以上存在する法科大学院卒業生、すなわち滞留受験資格者がいるために、法科大学院生数を減らしても、直ちには合格率上昇の効果が得られない点だ。もう一つは、法科大学院の統廃合、すなわち下位校の退場によって上がる合格率は、見かけ上の合格率に過ぎない、という点だ。すなわち、およそ合格可能性のない受験生が退場するだけであって、一定以上の実力者にとって、環境は何ら改善しないのである(『こん日』231頁)。彼らにとって重要なのは、全体の合格率ではない。所属校の合格率なのだ。所属校の合格率、特に、上位校の合格率が格段に上昇しない限り、司法試験界から人材は流出し続けるだろう。

司法試験合格者数2000人では弁護士過剰問題は解決しないことと、法科大学院の統廃合を進めても見かけ上の合格率が上がりうるに過ぎないこととは、法務官僚も当然分かっていることだ。それでも、法務官僚が時事通信の記者を通じ、冒頭の報道をさせる趣旨は、「われわれも努力していますよ」というアピールでしかない。この度の報道は、「現時点では打つ手はない、だが、将来のため、法曹養成問題の主導権は確保しておきたい」という法務省の意思のあらわれと読むべきだと思う。


[i] 87日の法務大臣記者会見では、次の問答がなされている。

法曹養成制度に関する質疑について

【記者】

 法曹養成の問題に関係して,一部報道では司法試験合格者の数について,政府の方で2000人を目標にするという案を示し,法務省の方も今度の法曹養成の新組織では2000人とする案を提示するとありましたが,その点の事実関係はいかがでしょうか。

【大臣】

 まだまだそういう具体的な数字を検討しているという段階ではありません。現状では,この2,3年が2000人台で行きつ戻りつしていることは事実として当然押さえておかなければいけませんけれども。

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