ヤマハ発動機不正輸出事件のまとめ(1)
「ヤマハ発動機不正輸出事件」とは、2005年に、ヤマハ発動機株式会社が中国企業に対し、外為法上輸出許可が必要な無人ヘリコプターを無許可で輸出したとして、社員3人が逮捕され(起訴猶予)、会社は起訴され有罪判決(確定)を受けた事件だ。
不正輸出と報じられているのは、次の3機種。いずれも、全長3.6メートルほどの小型ヘリである。しかし、ただのラジコンヘリではない。農薬散布ができるし、G1タイプに至っては噴火間近の火山火口に近づいてビデオ撮影を行うことができる。もちろん、農薬を毒ガスに詰め替えれば兵器になるし、無人偵察機としても使用可能だ。
RMAX L181(RMAX typeⅡ)
RMAX L175(RMAX typeⅡG)
RMAX G1
このうち、逮捕・起訴の原因となったのは上の2機種のいずれかであり、RMAX G1は、不正輸出が報じられているだけで、後述するとおり、刑事手続の対象にはなっていない。
この事件で適用された法令は、外為法(外国為替及び外国貿易法)48条1項その他だが、実際に解釈が問題になる法令は、同条項に基づく輸出貿易管理令1条1項に定める別表第一の4項1の2の「無人航空機」を定義した貨物省令(輸出貿易管理令別表第1及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令)第3条の、次の規定である。
第三条 輸出令別表第一の四の項の経済産業省令で定める仕様のものは、次のいずれかに該当するものとする。
一の三 エアゾールを噴霧できるように設計した無人航空機であって、燃料の他に粒子又は液体状で二〇リットルを超えるペイロードを運搬することができるもののうち、次のいずれかに該当するもの(前号に該当するもの又は娯楽若しくはスポーツの用に供する模型航空機を除く。)
イ 自律的な飛行制御及び航行能力を有するもの
ロ 視認できる範囲を超えて人が飛行制御できる機能を有するもの
分かりにくいので、分かち書きしてみよう。
まず、本文として、次の要件が必要だ。
①エアゾールを噴霧できるように設計した無人航空機であること
②燃料のほかに粒子又は液体状で20リットルを超えるペイロードを運搬できるもの
前記3機種のうちRMAX G1は、カタログ上ペイロードが10㎏なので、この要件に該当しない。10㎏だろうが5㎏だろうが、サリンでも積めば大量破壊兵器になり得る。しかし法令上は、20リットルを超えない限り、輸出が違法となる余地はない。
さて、①のうち、「エアゾール」を定義する法令はない。広辞苑によると、「缶に入った液体・粉末など内容物を霧状に噴出させるもの」とある。「噴霧」とは「霧状にして噴出すること」と解される。前記三機種はいずれも、農薬散布を目的の一つとして設計されているし、ヘリコプターが航空機でない、という解釈は成立しないと思われるので、①の条件を満たすと考えてよい。
したがって、上記3機種のうち、RMAX G1を除くRMAX L181(RMAX typeⅡ)とRMAX L175(RMAX typeⅡG)は、
イ 自律的な飛行制御及び航行能力を有する
ロ 視認できる範囲を超えて人が飛行制御できる機能を有する
かのいずれかの要件を満たせば、外為法48条1項の定める「特定の種類の貨物」に該当し、「特定の地域を仕向地とする」輸出には、許可が必要となる。ちなみに、「特定の地域」とは、「全世界」と定められている(輸出貿易管理令)ので、要するに、どこに輸出するにも許可が必要となる。許可を得ずに輸出すれば、外為法違反の犯罪行為になる。
そこで問題は、上記イロのいずれかをみたすのか、となる。
ところが、実際の事件では、この点をめぐる混乱があった。
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コメント
事件当時ヤマハはネット上でかなり批判されていましたが、法令に関する詳細な報道はなかったと記憶しています。
輸出者と経済産業省の両サイドの問題点を再確認できればと思っています。次回以降の記事を心待ちにしています。
(説明は解り易かったが、それにしても複雑な法体系だと実感)
投稿: jushuke | 2012年9月13日 (木) 00時19分
こんにちは。業務でドローンを運用する者です。
イ 自律的な飛行制御及び航行能力を有する
ロ 視認できる範囲を超えて人が飛行制御できる機能を有する
二点とも、現在のドローンでは当然の機能とされているのを見るに、当時の大騒ぎがむなしいですね。日本の輸出産業に与えたダメージはとてつもないでしょう。
業界内の「新聞研究」という雑誌に、ドローンに関する論文を書いていて、ここにたどりつきました。とても参考になりました。
投稿: 原田浩司 | 2015年11月13日 (金) 10時55分