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2012年9月26日 (水)

ヤマハ発動機不正輸出事件のまとめ(4)

しかし実際には、逮捕されたヤマハ発動機の従業員3名は不起訴ではなく起訴猶予となり、会社は起訴されて有罪判決を受けた。2007317日付朝日新聞によれば、捜査本部は、「機体に簡単な改造を加えれば」「ロ」の要件を充たすとして、起訴に踏み切ったという。

この点については、経産省の公表する該非判定のマトリックスにも、「解釈」として、「容易に入手可能な通信装置を容易に装着することにより実際にその機能が発現する場合を含む」とあり、当時の捜査当局と同じ見解が記載されている。

しかし、外為法は刑法であり、罪刑法定主義に服するところ、「改造」して初めて当該貨物に該当する場合も含むという解釈は、「容易な改造」に限定したところで、罪刑法定主義に違反することは明らかである。刑罰規定の運用でそのような例はないと思う。例えば銃刀法で処罰の対象になる模造拳銃とは、拳銃ではないが、改造すれば拳銃に該当しうる物、すなわち改造前の物そのものを処罰の対象にしているのであり、その是非は別にして、罪刑法定主義上は何の問題もない。これに対して、改造すれば外為法の定める貨物に該当するとして処罰対象にすることは、たとえるなら、模造拳銃所持を処罰する規定がないにもかかわらず、殺傷力のない模造拳銃を拳銃と強弁して処罰するようなものだ。

「経産省が『解釈』として公表しているではないか」とのご指摘もあろうが、法律を解釈する権限があるのは裁判所であり、裁判所を拘束するのは、法律と政省令までであって、行政官庁の「解釈」が裁判所を拘束することは、三権分立の建前上、あり得ない。いうまでもなく、法律でも何でもない経産省の「解釈」は、国民を拘束しない。それが民主主義であり、法治主義だからである。

また、私自身は未確認だが、ヤマハ発動機事件の当時、この「解釈」は存在せず、その後公開されたものだ、という指摘がある。しかし、前述の通り、そもそも、解釈には法的拘束力がないのだから、公開前だろうが後だろうが、関係ない。

輸出先が中国軍の関連企業だったという報道もあるし、中国軍が関心を示しているのに輸出するのはけしからん、という意見もあるが、これらはいずれもモラルないし企業倫理の問題であり、刑事罰則が適用されるか否かとは別問題だ。

以上により、本件で問題となった3機種は、いずれも貨物等省令3条の定めに該当しないから、逮捕された3人の従業員も、起訴されたヤマハ発動機も、本来、嫌疑なし及び無罪、ということになる。

それにもかかわらず、実際には3人の従業員は起訴猶予となり、会社が有罪となったのは、おそらく、振り上げた手の下ろしどころを探る捜査当局と、従業員を早く解放したい会社側との「手打ち」があったのだろう。

なお、上記3機種の「輸出」については、輸出貿易管理令11項に定める別表第一の412の「無人航空機」に該当するか否か、という論点の外に、同別表第一の16項による「キャッチオール規制」によって輸出規制を受けるのではないか、という論点がある。しかし、本件刑事手続では、一切この論点に触れられていないので、本エントリでも言及しない。

以上により、ヤマハ発動機事件は、法的には、法治主義及び罪刑法定主義の見地からは、わが国の刑事司法に重大な汚点を残した恥ずべき事件であるとともに、経済的には、先端工業製品の製造企業に重大な萎縮効果を与え、わが国の輸出産業に多大な損失を及ぼしたものと総括されるであろう。

追記;このエントリを作成するにあたっては「きすか」さんのブログ「Spiritと一緒」を参考にさせていただいた。きすかさんの法解釈力は、弁護士顔負けである。この場を借りて御礼を申し上げたい。

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コメント

今ごろですが、こちらのブログに気づきました。きすかです。
お誉めいただき恐縮です。
該非判定の解釈が追加されていたのは初めて知りました。全く。。。

キヨシローファンなのも含めて、とても親近感を感じますw。
この先、弁護士さんを頼る状況がきたら、お世話になりたいと思いましたw。遠いですけど。

投稿: きすか | 2013年3月 8日 (金) 12時49分

 第一輸出管理事務所の米満と申します。
 先般の無人航空機ブームの中で、無人ヘリ事件についての先生のまとめを思い出して読み返しました。自律飛行能力については御説の通り、当局の解釈に強引さを感じました。(たとえて言うなら、「成人;一晩たてば成年に達する者を含む」のような印象でした) これだけ飛躍のある内容であるならば、省令そのものを改正するのが常道かと思います。
 また問題とされる「解釈」が事件当時に存在しなかったらしいという指摘は衝撃的でした。もし事実であれば、それは事後法による処罰を意味しているからです。ここは是非掘り下げていただきたいところです。(但し「解釈自体には法的拘束力ない…従ってどうでもよい」という御見解には違和感を覚えました。なぜなら著しく合理性を欠く「解釈」でない限り、法廷でも採用される可能性が高く、結局は拘束力を持つでしょうから。それに先生ご自身でも別の記事で、火薬類の「解釈」を論じておられます。「解釈」に「それなりの法的効力」を認めてのことだと思うのですが、この辺はいかがでしょうか?))
 それはともかく、先生がもっぱら貨物等省令3条に焦点を当て、12条に言及なさらなかったのは、法廷での争点が3条にあったからかと思います。しかし御存知の通り、自律飛行能力か視界外制御飛行能力があれば12条十号の二に照らし、運搬可能なペイロードの多寡によらず規制対象になります。「法令上は、20リットルを超えない限り、輸出が違法となる余地はない」という(まとめ(1)の)記述は誤解を招きかねません。一言でも12条に触れておられたらよかったのに、と残念に思います。

投稿: 米満 啓 | 2015年4月 9日 (木) 09時43分

米満様、コメントありがとうございます。
執筆当時の記憶が薄れているところもありますが、まず「解釈」について、法律家は、「法律の文言には解釈の限界があり、その限界を超えた解釈は裁判所が採用するはずがないし、法的効力もない」という共通理解をもっています。本件でGPSを積めば云々という経産省の「解釈」は、明らかに解釈として許される限界を超えており、ご指摘の通り一種の事後罰であり、尊重に値しないという趣旨で書いたものと思いますが、やや筆が滑った感があります。また、12条10号についても、ご指摘の通りながら、本件ヘリが慣性航法による自律飛行をしたり、テレビモニタによる遠隔操縦が可能なタイプでないことは明白なので、触れなかったものと思われます。ただ、ペイロードの条件を満たさなくても、輸出禁止になるものがあり得る点はご指摘のとおりであり、この点も、筆が滑った感は否めません。ご指摘ありがとうございました。

投稿: 小林正啓 | 2015年4月13日 (月) 14時54分

久しぶりにヤマハ発動機不正輸出事件をネット検索し、このブログを見つけました。僭越ながら、記念にコメントさせて頂きます。

当時、mixiニュース引用の日記で同事件の捜査に対する疑念を書いたところ、きすか氏よりコメントを頂戴した記憶があります。

また、逮捕者が起訴猶予になった頃、国会会議録検索で公明党の田端正広議員の発言を見つけましたが、捜査中に有罪と決めつけたかのような表現でした。公明党のHPからメールで問い合わせましたが、未だに回答なしですね。

ところで、国会会議録検索で「ヤマハ発動機 ヘリ」で検索すると四件ヒットします。
ですが、このブログの記事を基準に考えますと、かなり嘘くさい発言というか、正しくない内容が既成事実化しているように感じます。

ウソで固めた国会会議録、法で裁かれないならば、せめて彼の者たちに呪いあれ!

投稿: 藤本九一郎 | 2016年12月25日 (日) 22時16分

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