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2012年10月 3日 (水)

「火薬類」の解釈に関する通達改正について

 

ブログ「輸出管理ナビ」経由で入手した情報だが、平成22年3月5日、輸出貿易管理令の運用に関する通達が改正され、4月1日より施行されている。

改正点のうち輸出貿易管理令別表第一の1の(3)に規定される「火薬類」の解釈について述べたい。

改正の内容は、こうである。

改正前は、「火薬類取締法第2条第1項に掲げる火薬、爆薬又は火工品(輸出令別表第1の1の項(1)および(2)に該当するものを除く。)をいう」となっていたのが、改正により、「火薬類取締法第2条第1項に掲げる火薬、爆薬又は火工品(輸出令別表第1の1の項(1)および(2)に該当するものを除く。)を含む」と変わった。

改正の理由として、経済産業省は、「1の項の対象となる「火薬類」について、通達における解釈として、火薬類取締法の対象であることを規制対象の基準としていたところ、同法の対象ではない軍用火薬も対象に含まれうることを明確化」した(平成21年度政省令等改正の概要)と説明している。

要するに「火薬類」の適用範囲を従来から広げた、ということは分かるが、その理由に誤解がある。

すなわち、上記「改正の理由」は、こういっている。

 従前、軍用火薬は、火薬類取締法の対象ではなかった。

 今回の通達改正によって、軍用火薬も、輸出貿易管理令の定める「火薬類」に含まれることになった。

しかし、軍用火薬が、火薬類取締法の対象でないとは、どこにも書いていない。自衛隊法が、「自衛隊の行う火薬類の製造、貯蔵、運搬、消費その他の取扱については」、火薬類取締法を適用しない、と定めているだけだ。同じ軍用火薬でも、自衛隊が運搬するときには、火薬類取締法は適用されず、出入業者が運搬するときは、火薬類取締法は適用される。つまり、軍用火薬であろうがなかろうが、火薬類取締法の対象である。自衛隊が取り扱うときだけ、その適用が排除されるに過ぎない。だから、①は間違いである。①が間違いである以上、②も間違いである。少なくとも、通達改正の意味がない。

この通達改正の背景は、想像するに、こういうことであろう。

かつては、自衛隊が海外に火薬を持ち出すことはなかった。したがって、自衛隊の取り扱う軍用火薬は、外為法の適用外だった(火薬の性質上適用外なのではなく、海外に持ち出されないから適用外)。ところが、今日、自衛隊の海外派兵がありうるから、派兵部隊が火薬を海外に持ち出せば、外為法が適用される。ところが、従前自衛隊の取り扱う軍用火薬に外為法の適用がなかったことから、海外派兵の際も適用外ではないか?という疑義が生じたため、そうでないことを明確にするために、上記通達改正を行ったのではないだろうか。

だが、自衛隊法が適用を排除しているのは火薬類取締法であって、外為法ではないから、外為法の委任を受けた輸出貿易管理令の適用は排除されない

また、従前の解釈は、「火薬類取締法第2条第1項に掲げる火薬…をいう」と定めているのであって、「火薬類取締法第2条第1項が適用される火薬…をいう」と定めていない。だから、自衛隊法が規定する火薬といえども、火薬類取締法に掲げる火薬には該当するから、輸出貿易管理令が適用され、外為法の規定対象になる。このことは、通達による解釈改正の前後を問わず、同じことだ。したがって、上記通達による解釈改正は、自衛隊法との関係に関する限り、不要な改正だった、ということになる。

立法論的には、自衛隊海外派兵の際、いちいち経産省の輸出許可が必要なんて、ナンセンスじゃないか?という議論は、大いにありうるところだが措いておく。あくまで法解釈上は、自衛隊の海外派兵の際にも、輸出許可は必要であり、軍用火薬でさえ、その例外ではない。

ただし、今回の通達による解釈改正によって、運用上差異が発生した部分もある。

それは、従前、「火薬類取締法第2条第1項に掲げる火薬…をいう」と規定していたものが、「火薬類取締法第2条第1項に掲げる火薬…を含む」と改正したことによって、同条項に定めのない火薬も、輸出許可の対象に含まれうることとなったことだ。すなわち、火薬類取締法第2条第1項は、火薬・爆薬・火工品を列挙するほか、火薬と爆薬については経済産業省令で定めるものを対象としているが、これらのどれにも該当しない火薬・爆薬・火工品についても、輸出貿易管理令が適用されることになる。具体的に何だ、と聞かれると困るが、たとえば、新たに発見、もしくは合成された新種の火薬で、法令の掲げるどれにも当てはまらないものも、輸出規制の対象になりうる。

つまり、軍用火薬に対する誤解を避けるために行った、形式的な変更が、適用範囲の拡大、という実質的変更をもたらしたことになる。

なお、この通達に「含む」というのは、「概念的に含む」という意味であって、「貨物の一部に火薬そのものまたは火薬の成分を物理的または化学的に含有する」ことを意味しない。このような「火薬を含有する貨物」が外為法の規制を受ける火薬に該当するか否かは、要するに、当該貨物それ自身が「火薬」といえるのか否かや、火薬または火薬成分の分離可能性や容易性によって判断されることになる。

 

 

Kayaku_2

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コメント

katsutoshiです。「含む」に関する記事ありがとうございました。最後の図が大変わかりやすかったです。
化学品については、化学物質の名称と閾値で規制して欲しいものです。

投稿: katsutoshi | 2012年10月 3日 (水) 10時27分

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