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2012年11月19日 (月)

福岡県弁護士会木曜会講演原稿より(1)

1116日、福岡県弁護士会木曜会設立40周年記念講演『弁護士の近未来予想図~弁護士に明日はあるか?』で40分間の基調講演を行う機会を頂きました。実は、この企画は2年前にあったが、私が倒れたためキャンセルされていたものです。折角の機会だったのですが、リベンジということで、気負いが先に立ってしまい、やや盛り込みすぎの内容になってしまいました。そこで、以下数回に分け、原稿に基づき、実際の講演内容に加除修正を加えてブログに記します。

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福岡県弁護士会木曜会は、登録10年目までの若手会とのことですが、若手の皆様は法科大学院や司法研修所、弁護士会などで、司法改革の理念理想を聞いたことがあると思います。しかし、今この会場にいらしているということは、その理念と現実とのギャップに戸惑っておられるのだと思います。

その思いは、2008年の私も同じでした。ご縁があって日弁連会長選挙のお手伝いをすることになった私は、日弁連のいわゆる主流派の唱える司法改革の理想が、現実と余りに違うことに戸惑いました。もちろん、当時既に、司法改革と法曹増員に反対する人たちはいました。しかし彼らの主張は、「政府は戦争を準備するため、弁護士を攻撃している」というもので、およそ信じがたいものでした。わが国に戦争を起こしたがっている人のいることは否定しませんが、もし本気で戦争をやりたいなら、弁護士を攻撃するよりほかに大事なことが、たくさんあるはずです。そこで、自分で調べてみることにしました。その結果、書いたのが『こんな日弁連に誰がした?』です。

私の疑問は単純でした。弁護士会は業界団体でもある以上、過当競争をもたらすような増員には反対するのが、団体としての本能なのに、なぜ大幅増員を必死で実現しようとしているか、というものです。調べてみると案の定、日弁連は司法試験合格者数の増加に反対し続けていました。1961(昭和36)から1990(平成2)までの30年間、司法試験合格者数は年500人です。この期間のGDPは名目で40倍になりましたが、弁護士数はたった2倍になっただけです。このギャップが弁護士の希少価値を高め、先輩はこれを謳歌したわけです。

このとき日弁連が司法試験合格者数増に反対した理屈は、「弁護士の経済的自立論」というものでした。これは、「弁護士は経済的に自立していないと、弱者や少数者の人権擁護活動ができなくなる」という理屈です。しかし1980年代に入り、グローバル化が進むと、先進国に比べ余りに少ない弁護士数に危機感が高まります。ところが日弁連は抵抗を続け、1994年(平成6年)の土屋公献会長の時には、司法試験合格者数をそれまでの年700人から800人に増やして5年間様子を見る、という決議を圧倒的多数で可決しました。これは、当時既に1000人か、1500人か、という議論をしていた政府から見れば、まるで問題外の内容であり、日弁連は、物凄いバッシングにさらされることになります。ある弁護士が、私に直接言ったところによれば、自民党の大物政治家が、土屋公献会長に直接、弁護士自治と弁護士法72条の廃止を告げたそうです。これに対して、日弁連が土下座させられるに等しい目に遭ったことは、その後の土屋公献執行部の迷走、800人→1000人→1500人と、ずるずる敗北していった歴史を見れば、明らかだと思います。

しかし他方、政府も頑強な日弁連の抵抗には手を焼いていました。そこで、日弁連に対して、法曹一元をはじめ、日弁連が提唱するいくつかの司法改革の実現を約束するかわり、司法試験合格者数の大幅増員に応じよと迫ります。日弁連はこれに飛びつき、それまでの抵抗が嘘のように、法曹人口増員に突き進みます。しかし、司法試験合格者数を年3000人にすることが事実上決まった数日後、法曹一元は実施されないことが決まります。

2000(平成12)121日の日弁連臨時総会の決議は、日弁連として2010年からの司法試験合格者数年3000人を受け入れたものですが、その決議文には、実に42回も「法曹一元」と書いてあります。しかし、この時点で法曹実現の夢が露と消えたことは、ほぼすべての弁護士には分かっていたことでした。しかし、「それなら年3000人にも応じない」と「ちゃぶ台返し」をする選択肢は、もはやありませんでした。この総会は、反対派が議長席を実力で占拠して採決を妨害するなど、大荒れに荒れた総会ですが、評決ではダブルスコアで、法曹人口大増員を受け入れたのです。

なぜ「ちゃぶ台返し」の選択肢をとれなかったのかについては、私は次のように考えています。

第一に、日弁連総会決議には、もはや司法試験合格者数を決定する法的権限がないこと。1998年までは、日弁連は司法試験合格者数を決定する法的権限を3分の1だけ有していたが、翌1999年以降、この権限を失っていたこと。従って、仮に3000人に反対しても、法的意味が無かった。

第二に、1994年の土屋公献執行部の間違いを繰り返せないこと。当時、司法試験合格者数5000人や7000人という勢力もあった中で、日弁連が再び世論の総バッシングを浴びたときは、本当に5000人や7000人が実現しかねなかったこと。

第三に、2000年当時は、弁護士にとってはまだ「倒産バブル」の時代であり、「これから10年の間に業域開拓を行えば、何とかなる」という意識があったこと。

そして私は、最も大事だと思うのですが、第四に、司法改革を推進することによって、司法における主導権と発言力を取り戻そうという、執行部の悲壮な決意があったこと。これは、当番弁護士の推進により刑事司法での発言力強化を勝ち取った福岡県弁護士会の取組を知っておられる皆様であれば、ご理解いただけることと思います。それまでの10年間、世論の批判を浴び続け、ついに司法試験合格者数の決定権限を奪われてしまった日弁連が、司法あるいは国政での発言力を取り戻すための、起死回生の賭だったのが、司法改革の推進だったのです。いわゆる日弁連主流派が、なぜ司法改革の推進に固執するのか、その動機は、この点にあると、私は考えています。

さて、それから10年が過ぎました。司法制度改革は、もちろん、すべてが失敗だったというわけではありません。しかし、全体としてみれば、失敗だったと思います。何より、法科大学院制度を初めとする法曹養成制度は、大失敗です。そのことは、法科大学院志望者数の激減が、明白に示しているところです。

つまり、日弁連は、司法試験合格者数の決定権限を失い、その代わりに得ようとした司法制度改革にも失敗した、ということになります。その結果、日弁連は、戦後得たすべての価値を失うことになるでしょう。第二日弁連などという話もありますが、そのようなドラスティックな動きは起きないと思います。日弁連と弁護士は、滅びに向けた長い黄昏の時を迎えた、というのが、『こんな日弁連に誰がした?』に書いた、私の考えです。(続)

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コメント

ちゃぶ台返しができなかった理由の第三ですが、当時はまだ「倒産バブル」はなかったのではないでしょうか。
平成12年12月は登録直後の総会でした。

平成12年と昨年平成23年の大阪地裁本庁の倒産事件件数を比較すると、次のとおりです。
         破産    うち管財  民事再生 会社更生
平成12年 10,259件 1,524件  69件  3件
平成23年  8,873件 2,508件  27件  3件

破産事件の件数は減っていますが、個人再生(平成13年4月施行)が昨年度は1,105件ありますので、これを加えると総数としてはほぼ横ばいです。
また、管財事件の事件数は1.7倍に増加しています。もっとも、事件の規模は小さくなったように思いますが(事件規模は負担金会費をみれば分かるのでしょうけれど、総会資料は捨ててしまっており…)。

民事再生の件数は激減していますが、もっとも多い平成13年ですら133件ですから、これをもって平成12年が「バブル」だったとはいいにくいように思われます。

個人の債務整理でも、このころはどちらかというと敬遠する弁護士が多かったように思います。ほかにいくらでも事件があったからでしょう。
取引履歴の開示にも一苦労で、過払金返還請求などは一部の消費者系の方々がされているだけでした。

ちなみに、大阪地裁で破産事件が最も多かったのは、平成16年の16,436件、管財の件数がもっとも多かったのは、平成21年の3,123件です。

投稿: しんたく | 2012年11月19日 (月) 10時54分

しんたくさん、詳細なデータをありがとうございます。いまは多忙に付きデータを提示できませんが、平成10年前後からは大型倒産事件が相次ぎ、中堅以上の弁護士はその処理に奔走していたはずです。私自身平成13年からマイカルの民事再生に関わり、寝食なしで処理に当たりました。この時点では倒産事件はもっと増える見通しであり、実際民事再生チームは「ダ○エーで会おう」と誓って解散しました。しかしその後企業再生支援法ができたため弁護士主導の大型倒産は激減し、その代わり少額管財事件が台頭していって、数は増えたが実入りが少ない状態になっていったのは、ご案内の通りです。

投稿: 小林正啓 | 2012年11月19日 (月) 12時09分

とても面白いです。
冷静で客観的な分析だと思います。
感情に任せて怒り狂い、右往左往している人達とはだいぶ違うという印象です。
このシリーズを楽しみにしてます。

投稿: | 2012年11月21日 (水) 09時23分

「日弁連と弁護士は、滅びに向けた長い黄昏の時を迎えた」

これは、国の参入規制政策に守られていたかつての弁護士のようには、今後は殿様商売ができなくなるということを、文学的に表現されたものなのでしょうか?

そうでないなら、「滅び」とは何を意味しているのかご教示いただければ幸いです。

投稿: | 2012年11月21日 (水) 11時15分

すいません、講演ということもあり、散文的な表現を用いている箇所がいくつかあります。何が滅びか、という点については、追って触れていく予定ですので、よろしくお願いします。

投稿: 小林正啓 | 2012年11月21日 (水) 11時55分

弁護士会は強制加入から任意加入になって滅びるような気がします。特に貸与制によって弁護士になった弁護士が貸与の返還を迫られるころにそうなると予測します。
それまでの間に、弁護士会が懲戒権限以外の部分の弁護士会の費用を大幅に削減して弁護士会費を半分以下に下げることができれば、強制加入を保つことができるかもしれません。

投稿: | 2012年11月23日 (金) 06時46分

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