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2012年12月 5日 (水)

福岡県弁護士会木曜会講演原稿より(7)

1116日、福岡県弁護士会木曜会設立40周年記念講演『弁護士の近未来予想図~弁護士に明日はあるか?』で40分間の基調講演を行う機会を頂きました。実は、この企画は2年前にあったが、私が倒れたためキャンセルされていたものです。折角の機会だったのですが、リベンジということで、気負いが先に立ってしまい、やや盛り込みすぎの内容になってしまいました。そこで、以下数回に分け、原稿に基づき、実際の講演内容に加除修正を加えてブログに記します。

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最後に、弁護士会が向かうべき方向は何かについて、話したいと思います。

戦略論で言うと、最も重要なのは、「弁護士会の次は裁判所」という危機感を裁判所と共有することです。司法の中心は裁判所なのですから、裁判所抜きに、司法の未来は語れません。必要な喧嘩は大いにやるべきですが、重要なのは連携です。だから、裁判所との対決路線を主張する弁護士グループを、私は全く支持できません。

次に、制度論を言いますと、大事なことは民事・行政裁判の大改革です。起こしにくく、勝ちにくく、取りにくい民事・行政裁判制度を、抜本的に改革しなければなりません。過払い事件が多くの弁護士を潤したのは、平成18年の最高裁判所判決以来、裁判を起こしやすく、勝ちやすく、回収しやすくなったからです。同じことを、民事裁判と行政裁判の分野で進めなければなりません。

もっとも、民事・行政裁判改革には、関連実体法と訴訟法の大改正が必要であり、そう簡単にできるとも思えませんし、10年単位の時間がかかるでしょう。

その間やるべきことといえば、弁護士選任率の低い分野、例えば離婚調停や交通事故等への進出に取り組むことでしょうが、既に多くの弁護士が必死の努力をしていますし、ほどなく飽和するでしょう。

では、弁護士会はどの方向に向かうべきでしょうか。

私は、『紛争解決・予防型司法から、紛争創出型司法へ』という提言をしたいと思います。つまり、法的紛争を数多くつくり出すことが、弁護士会の取るべき途だと考えます。

たとえば株主代表訴訟は、わが国で年間200件も提訴されていません。しかも、その多くは親族や共同経営者間に起きた身内の紛争であり、会社法が想定した株主代表訴訟は、年間数十件程度と推定されます。上場会社が4000社以上あるのに、代表訴訟数がその数%もないというのは、立法意図に照らせば、異常に少ないというほかありません。アメリカほどの訴訟社会にする必要はありませんし、制度基盤が違うのでやろうとしてもやれませんが、せめて提訴件数の倍増を目指すべきです。

たとえば労働法の分野では、いわゆるサービス残業や、早朝研修についても、残業代請求権が発生することを広報し、訴訟数を増やすことに、弁護士会は人的物的資源を集中するべきです。

他方、使用者側から見ても、判例による解雇規制が人材の流動化を阻み、経済停滞の一因になっているということは、夙に指摘されているところですし、高度成長を背景とする解雇法理が時代にそぐわないという意見も、多く聞かれます。それならば、弁護士会は、判例変更を目指す裁判の提起を応援するべきです。

つまり弁護士会は、労働事件においては、労働者側弁護士も、使用者側弁護士も、両方応援して、訴訟を増やすべきだ、と私は考えます。

弁護士会が訴訟件数を増やす努力をすることは、司法制度改革はもちろん、憲法理念にも合致することです。すなわち、司法制度改革の理念は「法の支配」であり、「法の支配」は、「裁判所による支配」と同義です。しかし裁判所は、訴訟が提起されなければ「法の支配」を実践できません。したがって、訴訟件数を増やすことは、司法制度改革や憲法理念に合致することなのです。

この10年間、弁護士会は、企業や地方自治体に対して、予防的司法を訴えてきました。コンプライアンスの重要性を説き、訴訟リスクを下げるため弁護士を使ってほしいと、頭を下げてまわっていたのです。私が「狼が来るぞビジネスモデル」と呼んでいる、このやり方は、程なく破綻しました。理由は簡単で、狼など、ちっとも来ないからです。これでは、何のために弁護士を増やしたのか分かりません。まずは狼を育て、村を襲えと励ますことこそ、わが国の弁護士会の使命なのに、まるで逆のことをやっているのです。村の防衛は、その後に取り組めば良いのです。

「訴訟社会化など、国民は望んでいない」という意見もあります。私には信じられません。弁護士を増やして、「法の支配」と言っておきながら、訴訟社会化を望まないことは、矛盾以外の何者でもありません。もちろん、訴訟社会化には程度と健全さが必要です。しかし、今の日本で、訴訟の増えすぎを心配する必要は全くありません。日弁連も政府も、弁護士数の国際比較にはずいぶん熱心ですが、一度、国民1人あたりあるいはGDP比で訴訟件数の国際比較をやってみたら良いと思います。日本は先進国中で断トツ最下位だと予想します。

また、訴訟社会化を危惧する意見を弁護士が言うのも馬鹿げたことです。訴訟社会化を望むかどうかは、その意見の通り、国民ひいては国会が決めることであって、弁護士が身内で決めることではないからです。国民が弁護士を増やし、一定の訴訟社会化を指向した以上、これを国民の負託として応えることが、弁護士会の使命であり、国民自身がこれを撤回しない限り、止めるべきではありません。

その意味では、司法改革の流れを推進し、訴訟社会化を目指す中にのみ、弁護士会の活路はあると、私は考えています。(続)

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コメント

おもしろい意見ですね。
確かになるほどと思わされます。
しかし,訴訟社会を促進するためには,訴訟をすれば儲かるという仕組みが不可欠ではないでしょうか。
アメリカの制度を熟知しているわけではないですが,懲罰的不法行為の理論など,実損額以上の賠償をとれる社会にしないと,訴訟の数も,予防法務も発展しない気がします。
訴訟をやって,弁護士費用を支払って,弁護士費用以外にもすさまじい労力を費やしてやっと勝訴しても,実損額(これすら真の実損額より低いことが多いと思われる。)しか認められない現状を打破すべきとも思います。
もちろん実現したらしたで,変わった依頼者さんが増えるなど,相当問題は多いだろうとは思いますが。

投稿: かず | 2012年12月 9日 (日) 14時34分

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