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2012年12月27日 (木)

健康問題で自殺する若い女性が増えている

警察庁の最新の統計によると、平成2411月までの全国の自殺者は25754人と前年同期比を2800人下回った。このペースだと、今年の自殺者数は27851人となり、14年ぶりに3万人を下回る。

日本の自殺者数は、平成10年(1998年)、前年を約8500人上回って32863人となり、以来14年間、3万人超えを続けてきた。しかし、自殺者数はここ数年横ばいを続け、平成22年(2010年)以降、減少に転じたことになる。

私は昨年、自殺者減少の兆候を指摘した。昨年は兆しに過ぎなかったが、予測は当たり、自殺者の減少傾向は、トレンド化したといえる。

では、自殺者はなぜ減ったのだろう。

まず、そもそも論として「総人口も減少しているのだから、本当に減ったのか?」という疑問がある。そこで、予測される自殺者数27851人を総人口127530万人(但し平成2410月現在)で割ってみると2.18人(1万人あたり。以下同じ)となる。これは、平成21年の2.58人以来一貫して減っており、平成22年の2.47人、平成23年の2.39人に照らしても減少は明らかだ。

次に、年代別人数(表1)を見てみると、60歳以上の高齢者の自殺者数の多い(但し、他の年代は10歳区切りであることに注意)ことが分かる。但し、平成15年以降、50歳代の自殺が急減しており、これが、全体の自殺者数を押し下げていることが分かる。他の世代の自殺者数はほぼ横ばいだ。

平成10年に自殺者数を急増させたのは当時50歳以上の世代だが、現在、50歳代の自殺者数のみが、急増前の水準に落ちていることは、とても興味深い。

但し、現在の日本は、少子高齢化が急速に進行しているから、世代間の人口比が大きく変動している。そこで、各世代の自殺者数を人口で割り、世代毎の自殺率を算出してみると、さらに興味深いことが分かる。

それは、「40歳以降の自殺率は減少、30歳代は微減、30歳未満は増加」という現象だ(表2)。

絶対数で見ると、横ばいに見えた60歳以上の自殺者数だが、高齢化により母数が増えているので、自殺率としては減少を示している。これに対して、30歳未満の自殺者数は横ばいだったが、少子化による人口減を勘案すると、自殺率としては、平成10年以来、ほぼ一貫して増加しているのだ。平成23年の20歳代の自殺率(2.43)は、平成9年(1.34)の倍近い。また、平成23年の10歳代の自殺率(0.52)も、平成9年(0.32)の1.5倍を超えている。

平成23年は初めて、全体の自殺率(2.39人)を、20歳代の自殺率(2.43)が上回った。このペースで進めば、5年後には、20歳代の自殺率が、60歳以降の自殺率を上回ることになる。

日本は、「年寄りが自殺する社会」から「若者が自殺する社会」に替わりつつあるのだ。

では、若者はなぜ自殺するのだろう。自殺の動機を見てみることにする。

まず平成9年と平成23年の世代別自殺者数を性別比で見てみる(表3)と、平成9年の女性は60歳代以上の比率が高い(44.59%対37.57%)に対して、平成23年の女性は20歳代の比率が高い(29.87%対36.25%)。もちろん自殺者数としては、平成23年の方がどの年代も多いので、20歳代女性の自殺者数の増加が、20歳代の自殺率を押し上げている主要因と推測できる。

では、20歳代の女性が自殺する動機は何か。

内閣府による、平成23年自殺者の年齢別・性別動機別のクロ集計6頁)を見てみると、20歳代女性の動機のトップは「健康問題」の624人で、男性の560人を上回っている。一般に男性と女性の自殺比率は73だから、自殺する女性が数にして男性を上回るというのは、かなり異常だ。ちなみに、男女問題を動機とする20歳代男女の自殺者数は、男性206対女性177で、他の世代に比べ女性の比率が高いとはいえ、数では男性より少ない。「その他」を除けば、女性の自殺者数が男性を上回っているのは、「20歳代女性の健康問題」だけである。

健康問題を動機とする若い女性の自殺が増えている。若い女性にとって、自ら命を絶つほどの健康問題とは何なのか、見当もつかない。さらに分析が必要だ。

中高齢者の自殺率が減っていることはよいことだ。だが、健康問題で命を絶つ若い女性が増えている社会に未来があるとは、とても思えない。

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コメント

 健康問題とは、こころの病、とくに うつ病 ですよね!?

投稿: なしゅ@東京 | 2012年12月29日 (土) 01時32分

内閣府の資料によると、動機の分類は遺書等から3つまで抽出したというものであり、分析者の主観が入っている上に、「健康問題」の定義がはっきりしません。「うつ」である可能性は否定できませんが、かりに「うつ」であるとすると、自殺の原因が「うつ」であるのはある意味当たり前のことであって、病気で死亡する原因が「心不全」であるのと同じであり、自殺の動機として指摘するのは適切でないように思います。

投稿: 小林正啓 | 2012年12月29日 (土) 08時12分

 まず、貸金業法の改正により、負債など経済問題を理由とする自殺、特に男性の自殺が減少傾向にあることが、相対的に、健康問題を理由とする自殺、特に女性の割合を増やしているとみることはできると思います。
 それはそれとして、たしかに、うつが理由ではなく、なぜうつになるのか、が重要ですね。うつそのものが理由なら、うつ病患者における若い女性の割合だけが増加している傾向がつかめるはずですが、きっとそのような事実はないのだろうと思います。

投稿: なしゅ@東京 | 2013年1月 4日 (金) 17時46分

少し前のデータですが、男女別のうつ病患者の比率は女性が断トツのようです。

しかも増加率をパーセンテージで見ると、若い世代(20代・30代)の女性が1999年~2008年の期間で3倍以上、と一番増加しています。

2008年以降も同様に増加し続けたと仮定すれば、昨年の数字も合点いくのではないでしょうか。

投稿: 通りすがり | 2013年3月15日 (金) 19時41分

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