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2013年1月 5日 (土)

弁護士資格が邪魔になる時代

14日の河北新報によると、宮城県富谷町が弁護士資格を持つ司法修習修了者を職員として採用するという。「採用後は町民の生活相談業務、行政訴訟への対応、条例作成のチェックなど」の予定であり、年収480万円。これは15年程度勤務する大卒職員に相当するという。

これが実現すれば宮城県内の基礎自治体では初めて。「法の支配を社会の隅々に」をスローガンとして掲げ、司法改革を推進する人びとにとっても、朗報だろう。

だが、記事はこう続ける。「弁護士活動に必要な仙台弁護士会への登録をしないのが条件で、町の職務に専念してもらう」。

あの…、弁護士会に登録しないと、「弁護士」とは言えないんですけど。

受験案内を見てみると、「採用後の弁護士登録は必須でありません(町の訴訟代理人には選任しません)」とある。とすると、記者が事実誤認をした可能性は否定できない。だが、受験案内上の該当部分にわざわざ黄色のマーカーが記されていることや、「町の訴訟代理人には選任しません」とあることからすると、富谷町の本音は、記事のとおりなのだろうし、同じ条件なら、弁護士登録を返上する方を採用するだろう。

これは富谷町としては当然の要求だ。訴訟代理人に選任しないなら、弁護士登録をされることは、迷惑でしかない。公益活動だ何だと町の業務をおろそかにされるだけで、何のメリットもないからだ(ただ、弁護士資格を返上した場合、町民の法律相談に応じることについて、弁護士法72条上の問題は、一応ある)。

5年前なら、弁護士は「ふざけるな」と言って、相手にしなかっただろう。だが、今や応募が殺到するだろう。富谷町は田舎だが、東北自動車道を使えば仙台市内と20分程度の距離だし、年収480万なら、現在の若手弁護士の年収としても、厚遇といってよい。

つまりこの記事は、弁護士と採用者の立場が逆転したことを意味している。伝統的な弁護士の論理からすれば、弁護士の使命は「人権擁護と社会正義の実現」(弁護士法1条)だから、公益活動は弁護士の本質的使命であって、組織内弁護士といえども、免れることはできないし、採用側も、公益活動をするなとは(思っていても)言えなかった。だが、弁護士の経済的困窮と社会的地位低下の結果、地方自治体ですら、弁護士資格返上を事実上の採用条件にできるようになったのだ。

20111027日のエントリ『弁護士資格返上者700人。日本ロイヤー協会(JAMILA)誕生』は、書いた時点では冗談だった。だが、2013年には、弁護士資格返上を事実上の募集条件にする自治体があらわれた。「日本ロイヤー協会(略称ジャミラ)」の誕生も近いだろう。

「法の支配を社会の隅々に」の理想に邁進した人びとは、この現象をどう受け止めるのだろうか。

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コメント

この事は、来るべきして起きた現状と認識するべきだと判断するべきと考えます。
生業としての弁護士業が成り立たない現状を産出した弁護士会にその責任はある。
一言申し添えます。立派な弁護士会館(大阪弁護士会館等)は必要ですか?会費納入にアップアップの弁護士さん(懲戒請求される弁護士の多くが経済的理由によると認識しております。)が何人もおられる現状を、各単位会で真摯に検討する時期にきております。上層部弁護士役員のお歴々が「弁護士」の権威に踏ん反り返っていたからですよね!

投稿: れいこ | 2013年1月 6日 (日) 01時43分

記事の内容とはズレますが…
どんな集団でも閉鎖的である上に金があるとどんどん腐っていきますね。金があるから自己保身に手間をかける余裕があり、その結果ますます閉鎖的になるのかもしれませんが。
弁護士会が無駄遣いをしていないかどうか、弁護士会が本当に必要なのかどうか、いったい誰がチェックしてるのでしょうか。
マスコミにおける記者クラブが弁護士業界における弁護士自治だということはないのでしょうか。日本中いたるところにこの種の構造があると思うと、本当にうんざりしてしまいます。

投稿: y | 2013年1月 7日 (月) 01時35分

誤記訂正しました。〇×さん、ありがとうございました。

投稿: 小林正啓 | 2013年1月 9日 (水) 07時29分

弁護士の身分を有したまま住民の法律相談に応じる方が問題が残るような気がしますが(弁護士法第27条)。明石市でもこれが問題になったのは記憶に新しいことです。なお、富谷町の受験案内を見ると、受験資格に「弁護士名簿未登録者を含む」とわざわざ書いてくれていますし、任期満了後の「地元で法律事所開業を支援します」とまで言ってくれていますので、弁護士になりたくてもなれない人を念頭に置いているように思われます。弁護士業界側としてはむしろ歓迎すべきことではないでしょうか。

投稿: | 2013年2月 4日 (月) 00時40分

弁護士法27条は72条違反等の行為を行った者の存在が前提です。
弁護士が住民の法律相談に応じることが27条違反になるのであれば、その弁護士に相談させた自治体が72条違反等を犯していることが前提です。
自治体が住民のために法律相談を開催すること自体が72条違反だと主張されるのであれば一つの見解かもしれませんが、「報酬を得る目的」を認定するのは困難だと思います。

投稿: 大阪の弁護士 | 2013年2月 6日 (水) 11時56分

>「報酬を得る目的」を認定するのは困難だと思います。
その無茶な解釈を押し通しているのが、まさに兵庫県明石市ですね。
職員として採用された弁護士が考えたのでしょう。
さすがに72条違反というのは無茶がありすぎると思うのですが、弁護士も組織内に入ってしまえば何でもするってことですね。
弁護士市長と弁護士職員が一緒になって、黒を白だと言い張るのであれば、何のために自治体に弁護士が進出したのだか。
ちなみに、阿部泰隆弁護士(神戸大学名誉教授)がこの点について論文を書かれているそうです。

投稿: とおりすがりに失礼します | 2013年2月15日 (金) 02時31分

明石市が問題になったのは、任期付公務員として募集した弁護士の弁護士会費を市が負担したことです。任期付公務員に弁護士登録をさせたことではありません。

主として市が当事者の裁判や法律相談を追行させるために雇用するのであれば、弁護士資格を有する者であっても弁護士登録していなければ72条違反となります。
市の仕事をするために弁護士登録が必要なのであれば、その弁護士会費を市が負担するのは当然のことでしょう。

ですので、明石市が弁護士資格を持った任期付公務員に弁護士登録を継続させるのは当然のことですし、会費を市が負担することは、誠に適切な処置だと思います。

しかし、明石市がどんな無茶な解釈をしたというのでしょうか?全く不明です。

投稿: 大阪の弁護士 | 2013年2月18日 (月) 11時16分

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