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2013年3月11日 (月)

原発事故による損害賠償請求訴訟とADRと日弁連

以前に書いたことの繰り返しなのだが、しつこく書いておく。

福島第一原発がメルトダウンを起こした後、多分4月か5月頃、私は、日弁連で唯一所属していた弁護士業務改革委員会のメーリングリストにこう書いた。「日弁連は、原発事故について東電と国を相手に損害賠償請求訴訟を起こす準備に入るべきであり、そのためまず、1億円くらいのコンピューターを購入すべし」と。

その趣旨はこうだ。原発事故の被害者は、数万人から数十万人(個人のほか法人も含めて)及ぶ。当時は関東一円の停電も検討されていたから、停電の被害者も含めると一千万人を超える。これらの人びとは、東電と国に対して損害賠償請求訴訟を起こす権利があるが、バラバラに起こしたのでは、東京地裁の建物をもう一つ建てても対応できないし、何より力が分散されてしまう。そこで日弁連が音頭を取って、数万人から数百万人の原告を属性に応じて分類し、原告団にまとめて訴訟を提起するのだ。そのためには膨大な数の原告と事件資料を整理する、高性能のコンピューターが必要である。費用など、当時なら、いくらでも調達できた。宇都宮健児会長(当時)以下、日弁連幹部が全国で募金活動を行えば、数億円を超える金を集められただろう。当時はそれほど、東電に対する怒りが沸騰していたと思う。この資金をもとに、最高の学者と、最高の技術者と、最高の弁護士を結集して、日弁連主導の訴訟を起こすのだ。

だが、私のメールは完全に無視された。1通だけ、「国民の支持を得ないから止めた方がよい」という、大手渉外事務所の女性弁護士から直メールが来ただけで、それ以外には何の反応もなかった。あとから聞こえてきたところによれば、日弁連業務改革委員会の内部では、私のメールはそれなりに話題になったらしい。だが、表だって返信するという選択は、なぜか誰一人、取らなかったということになる。

東電に対する賠償請求訴訟と国家賠償請求訴訟を起こすべきである、と主張したのは、当時、私一人ではなかったようだ。大阪弁護士会もと会長の某弁護士も、訴訟提起を主張したそうだ。だが、この主張は、日弁連中枢によって退けられた。その背後には、民主党の大物議員がいたとも聞く。彼らは、ADRの設置による被害者救済を主張し、この主張に基づいて、原子力損害賠償紛争解決センターが設立された。ADRとは、要するに話し合いの場である。ADR設置を進めた弁護士たちは、東電との話し合いで、被害者は救済されると考えたことになる。

しかし、事故から2年経った今日、ADRでの和解成立は、申立5659件に対して和解成立が1770件にすぎず、全体の3分の1弱にしかなっていない(福島民報)。さらに注目すべきは申立件数の「少なさ」であり、これは、このADRが被害者救済機関として、ほとんど期待されていないことを示している。

報道では、東電が素直に賠償に応じないことを非難するものが多い。しかし東電だって営利を追求する民間企業なのであり、その立場からすれば抵抗して当たり前だ。愚かなのは、東電が「私が悪うございました。被害を100%賠償いたします」と頭を下げ、被害者救済のためにはいくらでも身銭を切るという前提で、ADR設置を推進した日弁連幹部である。彼らは今まで弁護士として、社会のいったい何を見てきたのだろう。

「訴訟を起こすと言ったって、もし負けたらどうするんだ」という声もあろう。実際のところ、最高裁が日弁連と政府に対して非公式に、「訴訟を起こしても、被害者救済判決が出るとは限りませんよ」とのメッセージを送った、という噂もある。だが私は、2011年中に東電に対する数万人規模の訴訟を起こせば、裁判所は東電勝訴の判決を書けなかったと思う。書けば暴動が起こるからだ。

いま、東電との賠償交渉の埒が明かないことから、三々五々訴訟が提起されていると聞く。だが、バラバラで訴訟を起こしても、裁判所は通常の訴訟として淡々と対応するだけだし、東電勝訴の判決が出ても、暴動は起きない。

私は、日本の民主主義と日弁連は、原発事故を契機に遭遇した、大きなチャンスを逃したと思う。特に、日弁連は、おそらく最後のチャンスを逃したのだろう。

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