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2013年4月10日 (水)

アシモフを超えて:ロボット法の制定に向けた議論のいま

下記はWIRED.CO.JPというイギリスの雑誌に、2013年2月18日寄稿された記事を邦訳したものです。一部かなり意訳しているので、必要なら原典にあたってください。

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EUは、新興ロボット技術を管理するために必要な法と規制に関して、ロボット技術者や法律家、哲学者のチームに提言をさせるため、150万ユーロを用意した。

グーグルのロボットカーを作れば、世界を驚かせることは簡単だ。だが、イタリア・セントアンナ大学教授であるペリクル・サルビーニ博士の仕事は、ロボット技術の哲学的・法的意味について、問題提起をすることにある。それは、例えばこういうことだ。もしロボットカーが事故を起こしたら、誰が責任を負うのか。ドライバーか、グーグルか、それとも、ロボットカーそのものだろうか。

サルビーニ博士は言う。「ロボットはもはや、SFではありません。工場を出て、家庭に到着しているのですから。このロボットを適切に取り扱うためには、アシモフのロボット三原則は、もはや十分ではありません。」

サルビーニ博士は、このユニークなプロジェクトの一環として、ロボット技術者、法律家そして哲学者を欧州(オランダ、ベルリン、イタリア)の大学から招聘している。彼らは1年後に、欧州委員会に対して、ロボットの技術管理に必要な法律や規制に関する提言を行うべく、議論を重ねている。

イタリア・セントアンナ大学のベルトリーニ博士は言う。「グーグルカーは、冷蔵庫やワープロと大差ない工業製品なのか、それとも、所有者が責任を負うペットのような存在なのだろうか?あるいは、子どものやったことについて、親が多少の責任を負うような関係なのだろうか。ロボット法の研究は、このような問題に取り組むことになります。」

サルビーニ博士は、「誰が責任を負うか決めるのは、難しいことですが、これこそ、このプロジェクトが取り組もうとしていることです。車の中にいる人も外にいる人も、全ての人の安全を保証するためには、この問題を解決しなければなりません」と言う。

このプロジェクトが直面する最初の問題は、ロボットとは何か?という点だ。

ロボット工学の父と言われるジョセフ・エンゲバーガー博士は、「私はロボットとは何かを定義することはできない。だが、『これはロボットだ』と言うことはできる」という。つまり、ロボットは定義ができないほど、千差万別ということだ。そこで、プロジェクトは設立当初より、あらゆる種類のロボットを対象としている。サルビーニ博士によれば、プロジェクトが対象とするロボットは、脳とコンピューターを直接接続したロボットから、家庭や都市、公共空間で操作されるサービスロボットを含む、ということだ。

プロジェクトの次の仕事は、ロボット技術に適用される既存の規制は何か、国家間で異なる状況は何か、そして、他の分野で何が起こりつつあるかを調査することにあった。その結果は、ロボット技術者、法律家と哲学者によって、将来起こりうる問題に対するケーススタディとしてまとめられている。現在、その内容は秘密とされているが、1年後の欧州委員会において、結論が提示されるだろう。

いくつかのロボット技術はすでに、既存規制との関係が問われている。サルビーニ博士がピサ近くの小さな町でテストしているDustBotプロジェクトがそうだ。これは、ゴミを自動的に収集するロボットのシステムである。

「われわれは、イタリアの小さな町で実験を行いましたが、たった二ヶ月で気づいたことには、保険会社から町役場から地元の人びとに至るまで、誰も対処する方法を知らなかった、ということです。つまりロボット工学は、実験室を一歩出たとたん、社会的法的にどう扱えば良いか、分からなくなってしまうのです」(サルビーニ博士)

一方、ベルトリーニ博士にとって大きな問題の一つはプライバシーだ。「ロボットが家庭に入り、機能するためには、ロボットが私たちのプライバシー情報を受け取り、私たちが誰であるか、何をしているかを知る必要があります」。

ベルトリーニ博士が指摘するもう一つ問題は、「ロボットが従うべきルールをどうやって作ったらよいか」ということだ。「ロボットは人間と同等の権利を保障されるべきだという学説もあります。あなたはロボットをどう扱いますか?ペットと同じといっても良いですが、あなたのペットが他人に損害を与えたら、責任を負うのはあなたなのですよ」と、ベルトリーニ博士は言う。

「これは大変微妙な問題です」と彼はいう。「これらの議論の中から出てきた規律は、今後、新しい技術が採用され拡散する領域に、さまざまな影響を与えるでしょう。」

ベルトリーニ博士は、リスクに対処する各国法制度の違いについても言及した。「未知のリスクに直面するとき、欧州では伝統的に予防原則を採用し、しかも、その技術が害を及ぼすか否かについて科学的裏付けに乏しい場合、より厳しい規制を課す傾向にあります。他方、米国は異なる原則、事後救済としてよく知られた原則を採用しており、特に大企業に対する訴訟の場合には、多数の個別訴訟またはクラスアクションが起こされ、陪審による極めて高額の損害賠償が命じられることになります」という。

ベルトリーニ博士はこう付け加えた「ロボット技術は、訴訟の頻発を招きかねない未知のリスク問題を提起することは間違いありません。だからこそ、RoboLawプロジェクトの取組が正当であり、必要なのです。」

いずれにせよ、グーグルカーのような自律走行車に撮って最大の問題は、他のドライバー全てについて、その挙動を予測することが不可能である以上、完全な安全保障はあり得ない、ということだ。

ヴュルツブルク大学ロボット権利研究所のスザンヌ・ベック博士によると、ロボットによって惹き起こされるいくつかの問題は、既存の法律で解決可能だが、速やかに立法措置を講ずべき部分もあるという。たとえば、病院や老人宅で収集された個人データをどう扱うべきかという問題や、自律走行車が事故を起こした場合の法的責任に関する法規定は存在しない。

鍵となる問題は、これらの問題に対する国民的関心や議論がないことだ。「多くの国民が、私たちの仕事をSFの世界のことだと考えているが、実際にはわれわれの社会が今直面していることなのです」とベック博士は説明する。「現在、多くは密室で進行中の研究と、ロボット技術の持つ潜在的能力を社会に対して説明する必要があります。」

「結局のところ、法律家は社会に代わって決定することは出来ません。どのロボットを受け入れるか、どのリスクを取るか、ロボットがもたらした損害について、誰が責任を取るのかを最初に決定するのは、社会それ自身であるべきだからです」と彼女は警告する。

RoboLawプロジェクトは、新興ロボット技術に対する先制的な関わりとして、非常に意義があります」と、シェフィールド大学のノエル・シャーキー教授はいう。「インターネットが急激に発展したとき、私たちは不意を突かれた。インターネットは、余りにも急激に普及したので、われわれはその意味を考える時間すらなかった」

シャーキー教授によると、ロボットに対する規制は、既存の法律の解釈・運用の問題としての側面が強く、新しい法律の制定はできる限り避けるべきだという。彼は、自律走行車を規制する拙速な立法には批判的だ。

しかし、彼が考える最大の問題は、「このプロジェクトの限界を超えたところにある」。軍事や国家安全保障に関わるロボット技術の急速な発展だ。民生用ロボットに関する問題は、子どもと高齢者をケアするロボットについて生じるが、法制度はこれらの問題に対応していない。

「確かにプライバシーや法的責任論も重要ですが、個人の自由や人間の尊厳や精神的存在価値について、より検討されるべきです」と彼はいう。「規制は人間を保護や時に脆弱性のため必要だが、技術革新を妨げないよう注意しなければならない」

最後に、と彼は付け加え、「最新技術やその応用技術に対抗する規制を将来に亘って確立することは困難です。WWWで経験したように」

ベルトリーニ博士も、従来の規制はもはや適切ではないだろうということに同意しつつ、「イタリアの法律は1940年台に出来たのに、今日の問題を解決できる」と指摘した。

しかし、サルビーニ博士は、技術が先行して、その結果を前提に法律を作るという怠惰な態度で良いのかと心配している。

インターネットが発明されたわずか20年の間に、著作権や名誉毀損などに関して、多くの法律を適用してきたことを考えるなら、怠惰と非難されるべきは、少なくともロボット技術者ではないように思われる。

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