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2013年7月19日 (金)

法曹養成関連閣僚会議の決定について

7月16日の時事通信は、「『合格3000人』撤回を決定=司法試験見直し-閣僚会議」と題する記事で、次のように報じた。

「政府の「『法曹養成制度関係閣僚会議』(議長・菅義偉官房長官)は16日午前、首相官邸で会合を開き、司法試験や法科大学院の在り方に関して先に下部組織がまとめた最終報告の内容を、政府の改革方針として決定した。司法試験合格者を年間3000人程度とする政府目標を撤回し、実績が乏しい法科大学院に定員削減や統廃合を促すことが柱だ。…改革方針を具体化するため、政府は8月に内閣官房に担当室を設置する。日本社会にふさわしい法曹人口を提言するための調査や、統廃合などが進まない法科大学院に対する強制的な『法的措置』の検討を2年かけて行う。」

この記事には、正しいところと間違ったところがある、と思う。

まず、正しいところは、司法試験合格者数年3000人を目指すとした閣議決定の撤回を報じた点だ。この閣議決定は2001年だから、撤回まで12年かかったことになる。

間違っている点は、「実績が乏しい法科大学院に定員削減や統廃合を促すことが柱」でもなければ、「強制的な『法的措置』の検討を2年かけて行う」点も、重要な点ではないことだ。大事なことはほかにある。

確かに、「法曹養成制度改革の推進について(案)」は官僚型作文の典型であり、分かりにくいこと甚だしい。そこで、この文章を読み解くため、「組織」と「タイムスケジュール」の観点から分かち書きして、表にしてみたのが添付のPDFファイルだ。

すると、この閣僚会議決定の柱が、「①5年後、②文科省による③『共通到達度確認試験』の試行」であること、他の施策は、この「共通到達度確認試験」実施のための布石であることが分かる。報道を早とちりして、「2年間の問題先送り」と受け取った人も多いが、これは誤解だ。閣僚会議は、現状の5年維持を決定したのである。

5年後までに試行される「共通到達度確認試験」とは、文科省が実施し、合格者には短答式試験の免除が予定されている。つまり、戦後70年近く、法務省が実施してきた司法試験のうち短答式試験を、事実上、文科省の管轄に移す、ということだ。その意味するところは、法科大学院教育内容に合わせた試験問題を作成することにある。

もっとも、法務省から短答式試験実施権限を事実上剥奪し、文科省実施の「共通到達度確認試験」に置き換えたところで、合格者の大半が法務省実施の論文式試験に落第してしまうのでは、意味がない。そこで、これは想像だが、文科省としては、共通到達度確認試験合格者の5割ないし7割は論文式試験に合格(=最終合格)するものとして、制度設計を行うつもりだろう。そのためには、論文式試験合格者(=司法試験最終合格者)の人数を見極めると同時に、共通到達度確認試験の受験者(=法科大学院の定員数)を調整する必要がある。調整とはすなわち、下位法科大学院に退場してもらうことを意味する。

その調整に要する期間、すなわち、法科大学院数が適正な数にまで減少するための期間として、最低5年を要する、と政府は考えたのだ。

そして、これは現役受験生に対する不利な制度変更になりうるから、受験チャンスを55回に緩和して、「合格できるものならこの5年のうちに受かりなさい」と告知した。

また、5年経ってもまだ潰れない、しぶとい下位法科大学院については、5年後から強制排除措置を取る、と脅しておく。

文科省の考えとしては、これから5年間、法科大学院の総定員数減少によって、司法試験受験者数も減るから、合格率は上昇する。この「受験者数減少曲線」と「司法試験合格率上昇曲線」のクロスしたところが、適正な司法試験合格者数であり、法科大学院の総定員数である。従って、年2000人という合格者数は、当面(おそらくこの5年間)は減少しないことが前提となる。なぜなら、合格者数を減らすことは、合格率を低下させるので、いつまで経っても、適正な人数が分からなくなる(=二つの曲線がクロスしない)からである。法科大学院総定員数の減少程度によっては、4年目ないし5年目に、多少減るかもしれないが、その程度と予想される。

以上をまとめると、第一に、試補試験合格者数年3000人という政府目標は撤回されたとはいえ、年2000人という現状は、当面(おそらく5年間)、変更されない。第二に、政府は、法科大学院数の減少を望んでいるものの、法科大学院制度そのものを廃止する意思は全く無い。第三に、司法試験の管轄が、事実上、法務省から文科省に移動していく。というより、法曹養成制度改革の重心が、明らかに文科省にシフトしている。もっとも、法務省と裁判所が、この体たらくを甘受するとは思えないので、今後波乱があるかもしれない。これも想像だが、波乱があるとすれば、予備試験枠の拡大ではなかろうか。この部分は、法務省と最高裁判所の管轄であり、文科省は手出しできないからである。

その他気づいた点を付け加えると、第一に、財政措置に関する文言が全く見られない点からして、この閣僚会議決定には、財務省の厳しいチェックが入ったことが分かる。第二に、第一の点とも関わるが、最高裁判所の財政出動が極めて限定的であることからして、給費制の復活など、夢のまた夢である。

一生懸命パブコメを書いた弁護士諸氏には大変気の毒だが、給費制復活、司法試験合格者数大幅減などを主張したパブコメは、予想通り、一顧だにされなかった、ということになる。

これから5年間も2000人を維持して、弁護士会はどうなるかって?政府は、そんなことを知っちゃいないのである。政府は、日弁連に対して、「必要な取組を積極的に行うことを期待する」だけなのだ。

これが、法曹人口決定権限を失った日弁連の末路なのである。

「Book1.pdf」をダウンロード

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コメント

いつも拝読させていただいております。64期の弁護士です。
給費制復活のためには、日弁連は裁判所・検察庁と組んで予備試験を大幅に拡大して法科大学院を潰しにかかるほうが賢明なような気がしてきました。
そうすると、今、一部の弁護士がやろうとしている給費制復活訴訟は危険極まりないように思います。

しかし、最高裁や検察と組もうにも、弁護士業界の就職難のおかげで、優秀な修習生がみんな任官・任検を志望するようになった今の状況は最高裁にも検察庁にも狙い通りですから、合格者増については全く失敗と思っていないと思われます。

弁護士会は孤独な戦いになるように思います。

投稿: 城山 英紀 | 2013年7月20日 (土) 22時31分

弁護士会が孤独な戦いになるのは弁護士の多くからも見放されているからですよ。大規模会では義務だから入っているだけという弁護士も多いですよ。

給付制とか思想的な話になると、左翼的だからついていけない、と感じている若手も多いようです。いまや弁護士といっても新自由主義的な思考をする人も多いので、給付を求める運動は広く共感を呼び起こすことは難しいでしょう。

投稿: sate | 2013年9月 4日 (水) 04時17分

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