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2013年10月 1日 (火)

ロイヤーズ・インターンシップのキックオフ・ミーティング

929日(日)、東京丸の内にて、ロイヤーズ・インターンシップのキックオフ・ミーティングが行われた。私も発案者の光栄を賜り、冒頭の挨拶を行ったので、そのとき話したことをやや要約して掲載する。風邪気味で声がつかえ、ぼろぼろになってしまったが、言いたかったことは下記のとおりであった。

やや驚いたのは、司法修習に行かないという司法試験合格者がいたこと。彼は20歳代半ばにして外国弁護士の資格を持ち、TOEICも超高得点で、司法試験も上位合格しているが、来春から商社に就職するという。私が宣伝しなくても、司法試験合格を履歴書の肥やしとしか考えない若者は、確実に増えているのだ。

 

                                      記

 

司法試験合格、おめでとうございます。

私は、大阪で小さな法律事務所を営む44期の弁護士です。本日は、ロイヤーズ・インターンシップの発案者として、冒頭の挨拶を務めることになりました。そこで、私がロイヤーズ・インターンシップを発案し、形になるまでの経緯について、お話をしたいと思います。

 

さて、私は、23年前に司法試験に合格し、その後は司法修習がはじまるまで、遊んで過ごしました。自分は裁判官か弁護士のどちらかになると信じて疑いませんでしたし、その未来が暗いなどとは、全く思っていませんでした。

しかし、皆さんの未来は、ご承知のとおり、決して明るいものではありません。まず、弁護士志望の方々には、就職難が待ち構えています。65期は、昨年12月の時点で、500人以上が弁護士登録できませんでした。弁護士業界が深刻な不況のため、新人を採用する体力を失っているのです。アベノミクスで景気が劇的に回復しない限り、今年も来年も、500人を超える未登録者が発生すると予想されます。弁護士登録できた人の中にも、待遇や評判の悪い「ブラック事務所」に無理して就職した人が多くいますし、廃業する若手弁護士も増えているといわれています。

裁判官、検察官に任官した人も、決して安泰とは言えません。例えば裁判所は、約100人の司法修習生を採用していますが、地方裁判所は、全国に54しかないのです。単純計算すれば、同期の中で地裁所長になれるのは半分ですが、地裁所長の任期は1年以上なので、2年としても確率は4分の1になります。

もちろん皆さんは、「所長になりたくて裁判官を目指すわけではない」というお考えでしょう。その意気は大いに結構です。しかし、私が言いたいのは、任官直後から、熾烈な出世競争が始まる、ということです。学歴社会で育ってきた皆さんには、しんどいことですよ。かといって、裁判官を辞めて弁護士になるという選択肢はほぼありません。弁護士になっても食えないからです。

 

こんなことになってしまったのは、一言でいうと、需要を遙かに上回るペースで、司法試験合格者を増やしてしまったからです。誰が増やしたかと言えば、「弁護士や法律家を増やせば増やしただけ、社会全体に正義が行き渡る」と考えた人たちです。今でこそ司法試験合格者を1500人以下にしろと言っている日弁連ですが、2000年当時は自ら3000人の旗を振っていたのです。その経緯を、日弁連に視点を置いて解説したのが、本日お配りした拙著『こんな日弁連に誰がした?』です。

でも、弁護士や法律家を増やせば増やすほど正義が行き渡るような、そんな単純な社会では、日本はないのです。民事裁判は一見増えたように見えますが、過払ブームが終われば激減します。刑事裁判も減ります。格差社会化により犯罪が増えることもあり得ますが、基本的には少子化で、犯罪者予備軍である若者が減るからです。端的に言えば、日本の司法には未来がないといって過言ではありません。

 

暗い話ばかりで申し訳ありません。

もちろん私は、君たちに未来はないと言うために、はるばる大阪から、日曜日に、自腹をきってやってきたわけではありません。

いま私は日本の司法には未来がないと言いました。しかし、君たちに未来がないとは思いません。未来がないのは、司法、すなわち最終的には裁判を使って紛争を解決するする国家制度だけです。君たちは、資格試験として最高峰といわれる司法試験の合格者です。地頭の良さはもちろん、事務処理能力や法的論理的思考に優れた能力を有する、最高レベルの人材です。先輩からいろいろと不景気な話を聞いていると思いますが、君たちは日本のトップエリートであることを、自信を持って、かつ謙虚に、自覚してほしいと思います。

 

では、最高レベルの人材である君たちが、なぜ、就職活動という社会人への第一歩で、躓かなければならないのでしょうか。そこには明らかに、需要と人材のミスマッチが発生しています。君たちは、優秀な人材であるにもかかわらず、受入先が十分には見つけられません。一方社会には、優秀な人材をほしいほしいと言っているのに、君たちの存在に気づいていないところがたくさんあります。この二つを引き合わせることはできないだろうか、と思いついたのが昨年の夏でした。そこで、このアイデアをNPO法人ドットジェイピーの佐藤大吾代表にお話ししたところ、すばらしい企画だから是非協力したいと言っていただき、民間部門はインテリジェンス様にバックアップをいただいて、本年からの開始にこぎ着けた次第です。

 

君たちは、民間企業と、国会議員の秘書と、在外公館にインターンシップに行くと伺いました。たった1ヶ月ですが、貴重な経験になることは疑いないと思います。是非、よい経験を積んで下さい。

 

私からお願いが3つあります。一つは、インターン先で、君たちがどのように評価されるかを、君たち自身で、見極めてほしいということです。インターン先は、司法試験合格者である君たちに対して、一定の敬意を払ってくれる筈です。他方、いつメッキがはがれるかと、観察されることもあるでしょう。その環境の中で、君たちにどれほどの市場価値があるのか、自信を持って挑戦してみて下さい。

二つめは、インターンシップを経験したうえで、ご自分の進路を、もう一度見つめ直してほしいということです。もちろん、司法修習生となり、法曹になるのも一つです。しかし、司法修習を終えた後、弁護士登録をせず、法曹以外の世界で活躍するのも、立派な一つの選択肢です。さらに、司法修習を受けないで就職するという選択肢もあります。1年の時間を使い、貸与金として300万円もの借金を増やし、数十万円の弁護士会入会金と、年60万円から100万円もの会費を支払って弁護士になる価値があるのか、よく考えていただきたいのです。それに、私の予想では、20年後には司法研修所はなくなっていますから、司法修習を受けなくても、将来は弁護士登録できるかもしれませんよ。

最後のお願いは、このインターンシップの経験を、来年受験する友人や後輩に話してほしい、そして、是非ロイヤーズ・インターンシップへの参加を勧めてほしい、ということです。2000人の司法試験合格者のうち、500人が参加してくれれば、日本の司法は変わる、と私は考えています。そうなれば、君たちは栄えある前衛を務めた一期生となります。

 

ご清聴ありがとうございました。君たちのこれからの経験が実り多きものとなることを祈念して、ご挨拶といたします。

 

 

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