« 弁護士の就職率と修習辞退率の相関関係について | トップページ | 内藤頼博の理想と挫折(52) »

2014年2月 3日 (月)

高木浩光氏によるご批判について

122日のブログ顔認証技術の現在について(5)において、本年4月から大阪駅で実施される顔認証技術の実証実験に関し、「第三者に対する生体認証情報の譲渡は禁止されるべきだ」と書いたところ、高木浩光氏より、「無断顔識別が問題なのに、顔認証情報(生体情報)の提供が問題なのだと、問題を矮小化した主張」とのツイートをいただいた。

著名な高木氏からお言葉をいただいただけでも、光栄なことだし、可能であれば、批判におこたえしたいところだ。とはいえ、ツイートの字数制限のためか、批判の趣旨がちょっと分かりにくい。

まず、高木氏は防犯カメラないし監視カメラについて、どのようなご見解をお持ちなのだろうか。調べてみると、朝日新聞記者との公開ツイッターインタビューネット社会のプライバシーと利便性において、このようにツイートしている。

「防犯カメラが違法ではないのは、防犯目的であることが『取得の状況からみて明らか』なためとされています(消費者庁個人情報保護法に関するよくある疑問と回答Q3-4)。事実を表示せずに防犯目的以外で利用すると違法です。」

だが、この記載には間違いがいくつもある。

第一に、違法適法の判断根拠として、消費者庁のQ&Aを引用した点が間違い。適法違法の判断根拠は、第一に法令であり、第二に裁判例である。行政官庁の作成したQ&Aは、法的には参考意見程度のものでしかない。

第二に、このQ&Aは、個人情報保護法上の適法違法についてコメントしているだけであり、他の法律で違法になるか否かについては全く言及していない。だから、高木氏が「防犯カメラが違法ではないのは」と書き、「個人情報保護法上違法ではないのは」と書かなかったのも間違い。いいかえるなら、高木氏が「防犯カメラが違法ではないのは」と書き、防犯カメラが原則的に違法でないことを前提としたことそれ自体が問題である。

第三に、高木氏のツイートは、目的を表示しない防犯カメラが個人情報保護法上、一般的に適法であるとの誤解を招きかねない。このQ&Aは、防犯目的で監視カメラを設置する場合、原則として「目的の公表」(法181項)を要するが、例外として、画像「取得の状況から見て利用目的が明らかであると認められる場合」には防犯目的の公表は不要(法1844号)と書いている。つまり原則として防犯目的の公表が必要だが、公表がなくても個人情報保護法上違法とならない場合がある、と言っているだけだ。

第四に、上記と多少かぶるけれど、法律的な見地から見ると、防犯カメラの最大の問題点は、防犯目的であることを公表するか、その状況上防犯目的が明らかであったとしても、なお違法とすべき場合があるのではないか?という点であるのに、高木氏にはその問題意識がない。法令や裁判例にあたらず、消費者庁のQ&Aを適法違法判断の出発点にしてしまってことから生じた問題意識の欠落だが、プライバシーを論じる上では、かなり致命的だと思う。

第五に、「事実を表示せずに防犯目的以外で(カメラを)利用すると違法です」の部分も間違いである。災害監視用のカメラなど、防犯カメラでなくても、「取得の状況から見て利用目的が明らかであると認められる場合」はあるからだ。これも、「防犯カメラ」と「個人情報保護法」に限定した消費者庁のQ&Aを、不用意に拡大適用した結果と思われる。

さて、監視カメラとプライバシー問題に関する高木氏の理解を一通り押さえた上で、「無断顔識別が問題なのに、顔認証情報(生体情報)の提供が問題なのだと、問題を矮小化した」というツイートの趣旨を考えてみる。

このツイートによると、高木氏が問題の本質と理解しているのは、「無断顔識別」である。「無断顔識別」は「無断」と「顔識別」の二つに分けられるから、「無断」が問題なのか「顔識別」が問題なのか、はたまた両方が問題なのかは不明だが、上記の高木氏の理解に照らせば、「無断」であることを問題視している可能性が高い。だが、実際には、大阪駅での実験目的は公表されているし、カメラ設置場所においても、公示される予定と聞いている。したがって、「無断」が問題だというなら、明らかに筋違いの批判ということになる。しかも、問題の本質は無断かどうか、目的を公示しているか否かではない、と私は考える。

では、「顔識別」の問題だろうか。「顔識別」とは、Aカメラに写った人物とBカメラに写った人物(あるいは、別の日時にAカメラに写った各人物)が同一人物であるか否かを、顔認証技術を使って識別することを指すと思われる。多くの人は意外に思われるだろうが、現代の水準では、この「顔識別」技術はようやく端緒についたばかりだ。これが実用化されれば、複数の防犯カメラ間での犯人の足取りなどを容易に把握できることになり、捜査の省力化・迅速化に大きく貢献することになるばかりか、商業利用を含めた社会貢献の度合いは大きい。つまり顔識別技術の公益性は高いのであり、一概に違法な目的ということはできないから、高木氏はおそらく、「顔識別」そのものが問題だ、という趣旨ではないと思われる。

そうだとすると、結局、高木氏は私の見解のどこを批判しておられるのか分からない、という結論になってしまう。私自身、自分の見解が100%正しいとまで言うつもりはなく、いくつかの本質的な批判は想定しているし、その中には、「問題の矮小化」という批判もある。だが、高木氏が何を問題とされているかがはっきりしないと、この批判にはお応えのしようがない。

|

« 弁護士の就職率と修習辞退率の相関関係について | トップページ | 内藤頼博の理想と挫折(52) »

コメント

9月5日に当コメント欄に投稿された方へ。貴殿の投稿は、それ自体根拠を提示されていないうえに、内容が特定の個人の名誉を毀損するものですので、これをコメント欄に掲載することは、私自身が名誉毀損に問われることになりかねません。ということで公開はいたしませんのでご了承ください。

投稿: 小林正啓 | 2014年9月 9日 (火) 10時11分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/192469/59056834

この記事へのトラックバック一覧です: 高木浩光氏によるご批判について:

« 弁護士の就職率と修習辞退率の相関関係について | トップページ | 内藤頼博の理想と挫折(52) »