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2014年8月11日 (月)

日本の弁護士自治は、イギリスの後を追うのか?

金子武嗣弁護士著『私たちはこれから何をすべきなのか』は、弁護士と弁護士会の歴史を紐解きつつ、弁護士自治を守ることの重要性を訴えている。そして、「(弁護士自治には)外からの危機もあるが、弁護士自身の不祥事(成年後見人の横領など)により、これを放置しておけば内部からの崩壊する危険性がある。英国の弁護士自治が崩壊していった経過は吉川精一(第二東京弁)の『英国の弁護士制度』(日本評論社)に詳しい。他山の石とすべきである」と述べる。

そこで、吉川誠一弁護士著『英国の弁護士制度』を読んでみた。

同書によれば、「2007年法的サービス法の実施により、弁護士の規律はLSB(法的サービス局Legal Service Board)の監督に服することになった。したがって、今後は、弁護士資格賦与制度、職業倫理、業務規則の変更にはLSBの許可を受けなければならない。また、ロー・ソサイエティやバー・カウンシルが会員から徴収する会費の使途についても同様である」という。ちなみに「LSB12人から16人の委員で構成され…委員の過半数及び、会長、事務局長は法律職でない者が占める」とされる、政府から独立した国家機関である。

以前も書いたが、組織が自治権を持つために最低必要な三要件は、「人事権の独立、規則制定権の独立、予算編成権の独立」である。ところが、吉川によれば、英国の弁護士会は、人事権、規則制定権、予算編成権の独立をいずれも奪われたわけであるから、「自治権を失った」との評価は正鵠を得ていることになる。

英国弁護士会が自治権を失った原因として、吉川は①古色蒼然たる弁護士制度、②ソリシターに対する苦情の多発とロー・ソサイエティへの不信の増大、③消費者主権主義の抬頭、④1960年代以降における弁護士批判勢力の登場、⑤弁護士という職業の変容と弁護士会の弱体化、⑥サッチャー、ブレア政権による「伝統の破壊」、⑦法律扶助制度をめぐる政府と弁護士との攻防、を挙げている。注目されるのが、ソリシター人口が1980年の3万7000人から2006年の10万人へと約3倍に増え(イギリスの人口は日本の約半分)、性別、人種、所属社会集団等の差が拡大し、特にシティーファームの弁護士と町弁の解離と、シティーファーム弁護士による弁護士自治への関心低下が顕著になったことだ。吉川は、「シティーファーム弁護士と町弁護士との間の二極化は不可逆的であり、今後一層進行し、シティーファームのソリシターと町弁護士たるソリシターが同一の職業に属するという実態も観念も希薄になるであろう」と予測している。

日本の弁護士会も、イギリスの弁護士会と同じ運命だろうか。

一概に同視できない点としては、まず、イギリスの弁護士自治崩壊は、サッチャー・ブレア政権の強い意志によることが挙げられる。いいかえれば、英国病といわれた長い閉塞状況を脱するために弁護士制度の改革が不可欠という信念であり、保守党・労働党を問わず共有されていた、ということだ。日本の弁護士会は、良くも悪くも、国家社会の在り方にそれほど強い影響力を持っていないから、時の政権がガチで勝負を挑んでくる可能性はとても低いと思う。

次に、イギリスの弁護士制度改革は、法律扶助予算の削減とワンセットであったことが挙げられる。吉川によれば、イギリスの民事法律扶助予算は1970年の1400万ポンド(21億円)から1983年の14400万ポンド(216億円)と10倍に、刑事扶助予算は1970年の270万ポンド(45000万円)から6200万ポンド(93億円)と20倍に激増し、2005年には総額20億ポンド(3000億円)に達し、これを抑止することが弁護士制度改革の一つの目的であった。

その結果どうなったか。池田知樹弁護士『緊縮財政下のイギリス法律扶助の変容と持続性を追求する他国の取組』によれば、2013年現在、イギリスの法律扶助費用総額は18億ポンド(約2700億円)にまで減少しているという。

一方、平成24年度法テラス業務実績報告書によれば、予算総額は460億円弱、うち民事法律扶助事業経費が200億円余、国選弁護人確保事業経費が12億円余であり、単純比較はいろいろ問題あるとはいえ、どう見てもイギリスに及びもつかない。その意味でも、政府に弁護士改革を決意させる動機に乏しいことになる。

他方、弁護士数の急拡大と、それに伴う弁護士間格差の拡大や分散化、自治への執着心の低下等は、イギリスとまるで同じだ。しかも、日本の弁護士会は、イギリスの弁護士会ほどの歴史もないし、政治的実力もないから、政府がガチで勝負を挑まなくても、指先一本で自治権を剥奪できる、とも考えられる。

結局、日本の弁護士会は、イギリスの弁護士会と同様、自治権を失う環境が整いつつある、という見方が、いちばん実態に近いのだろう。

いずれにせよ、弁護士自治は、弁護士のための制度ではなく、国家国民のための制度である。世界最高度といわれる自治権を獲得した日本の弁護士会だが、そのために、日本が世界最高度の人権国家になったという話は聞いたことがない。そうだとすれば、日本の弁護士会は、いずれ、身分不相応に高度な自治権を剥奪されることになる、と考える方が自然だろう。

 

 

 

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コメント

「弁護士と戦う」というブログ主と提携していた太田弁護士が、一ヶ月の懲戒処分となった。弁護士の非行をアップしているのだから、言わば敵対関係。そもそもことの発端が、このブログ主が太田弁護士をブログ上で叩いたことに端を発する。太田弁護士は、そのブログ記事を削除をさせるために仮処分をしたところ、それに驚いたブログ主が、太田弁護士に尻尾を降り始め、提携関係が出来てしまった。
素人に踊らされたこ太田弁護士、調子に乗りすぎある行政書士に対し、揶揄する低俗な記事を自信のブログ上にアップして、今回の懲戒となった。まったく間抜けな結末とあいなったしだい。

投稿: はるな | 2014年8月11日 (月) 10時32分

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