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2014年11月27日 (木)

内藤頼博の理想と挫折(65)

占領下の日本で、裁判所法起草の中心となり、給費制を創設するなど、現代司法制度の礎を創ったのは、内藤頼博(よりひろ)判事ら、戦後の日本人法曹である。彼らが描いた理想と挫折の軌跡を追う。

木戸幸一と内藤頼博(6

『木戸幸一日記』を「学習院問題」で検索すると、次のとおり、多数の記述を見ることができる。

昭和5128日「(霞山会館に於いて)午後6時より、午餐会の運中と宮内省幹部との会食に出席、食後、学習院問題、華族問題等につき意見を交換し、10時過散会す。」

昭和827日「午後六時、華族会館に於て近衛公と共に平泉澄博士と会食、同博士より最近大学方面の赤化の有様を聴く。

同博土の意見によれば、我国の現状は赤化の手、あらゆる方面

に延び、誠に寒心すべき状熊にあり、明治維新の宏業も今日の有様にて推移するに於ては、結局建武中興の大業と同じく、後世より之を見れば失敗に帰したりと評せらるるに至らんと云ふにあり。昭和維新の大眼目は天皇御親政にありと説く。傾聴に値する点少からず」

228日「正午、火曜午餐会に出席す。二荒伯と学習院問題につき語る。同伯は自ら御用掛として改革の衝に当り度き希望あり。考慮を要する問題なり」

31日「11時、二荒伯来庁、学習院問題につき面談」

33日「午前十時官邸に湯洩宮内大臣を訪問。学習院問題につき従来の経過を語り、今後の方針として先づ馬場教授を勇退せしむることにつき諒解を得、尚、宅野検挙に伴ひ宮内省内部の粛清の必要を力説す」

36日「退庁前、大谷次官と宅野事件、学習院問題等につき相談す」

310日「11時半、二荒伯来庁、学習院問題につき相談す」

524日「午後六時より十一会を開催。織田、佐々木、松平、黒木、裏松の諸君来会、政局の問題、高橋蔵相留任に伴ふ政友会の動向、赤の問題、殊に華族の子弟の赤化問題、学習院の将来、京大瀧川(幸辰)教授休職問題等に渉り論議し、1215分過ぎに至り散会す」

525日「午後6時より丸の内東洋軒に於て荒木学習院長の招宴あり、出席す。学習院の教育方針、赤化学生対策等につき意見の交換を為す」

621日「午後三時、華族会館に至り、学習院評議会特別委員会に出席、池田(克)司法書記官より学習院関係の赤化事件の様子を聴く。午後五時より同所に於て、酒井・細野両君と会し、京都大学紛擾問題につき協議す」

719日「午後3時半より、大谷次官々邸に至り、次官、宗秩寮総裁、其他の人々と共に学習院問題を研究す。結諭を得ず」

725日「11時、次官室に於て、次官、酒巻(芳男)総務課長と共に学習院問題を相談す」

昭和9129日「武宮君来室、森俊成干息(俊守)の赤化事件判決に関し同子の執るべき万針につき相談ありたり。廣幡君来室、赤化子弟父兄の処分につき、御上に於ても御心配にて、鶴井(蚊常)、山ロ(正男)等の気の毒な事情等を御引例になり、御注意ありしとのことなりし故、決して将来の立場を失ふが如き処分は為さざる旨を奉答方、依頼す」

昭和929日「本多(猶一郎)書記官より、赤化華族の処分につき検事局当局と打合せたる結果を聴く」

昭和9313日「4時半、岩波・本多両事務官と共に大臣官邸に至り、…所謂赤化華族の処分案につき協議し、決定を受く」

315日「11時、久我通武を招き、赤化問題につき面談」

105日「午後3時半、御召により朝香宮邸に伺候、拝謁す。壬生(基義)伯令嬢(種子)の副島伯令息(種義)と結婚希望につき、意見を徴せらる。蓋し副島伯令息の赤化事件に関聯せしことあるによるなり。余は同件処分の其意を述べ、差支なき旨を御答す」

1110日「久保氏、原田男と共に来庁、住友〔吉左衛門〕男の亥人として副島.小倉両氏の赤化事件其後の経過等を尋ねらる。余の知れる丈は話す」

昭和10320日「11時、久保田(譲)枢密顕問官来庁、美濃部問題、華族問題、学習院問題等につき意見を開陳せらる」

昭和18626日「十一時、東條首相参内、連絡会議の決定につぎ奏上。面談。武者小路子来室、中山侯、蜂須賀侯の問題、学習院問題等につき隔意なく意見を交換す」

以上から明らかなとおり、学習院問題の他の一端は「華族の赤化問題」であった。

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2014年11月25日 (火)

NICTのJR大阪駅実証実験に関する調査報告書について(3)

独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が公表した『大規模センサー実証実験調査報告書』について、執筆者の一人という立場から、考えを述べる。これは委員会の総意ではなく、個人的見解であることをあらかじめお断りする。

報告書は、撮影画像から生成した「特徴量情報」について、元画像が消去された後は、一人ひとりは識別されるが、その一人が誰であるかは分からない「識別非特定情報」である以上、「個人情報」には該当しない、と判断した。この判断は、内閣府IT総合戦略本部パーソナルデータに関する検討会の技術検討WGの理解に基づいている。

そこで、WGが「特定」と「識別」を分けて検討した内容について、もう少し見てみたい

WG主査を務める佐藤一郎教授のプレゼンによると、個人情報保護法のキーポイントの一つとして、「グレーゾーンを減らす」こと、すなわち、「従来の個人情報に加えて、個人の特定につながるパーソナルデータを整理」するため、「識別非特定情報」という概念を設けたとしている。その「グレーゾーン」に属する例としては、「パスポート番号、端末番号、位置情報、クレジット(カード)番号、メールアドレス、指紋、身長、会員番号、体重、血液型」が挙げられている(もっとも、会員番号や体重はグレーゾーンの外側にある)。ちなみに、「識別特定情報」の例としては「顔画像、氏名、住所」が挙げられている。

おそらく、法律家を含め、一般の読者は、「パスポート番号」「クレジットカード番号」や「指紋」が個人情報の範囲外に分類されていることに、驚かれるのではないだろうか。もちろん、佐藤一郎教授も、パスポート番号やクレジットカード番号や指紋の重要性を軽視するものではない。ただ、これらの情報は、一人ひとりに固有だけれども、番号だけを見たところで、それが誰かを特定することはできないから、「個人情報」には該当しない、という分類を行ったものと思われる。そのうえで、「準個人情報」という新しい概念を設け、現行個人情報の保護範囲外だが、改正後の個人情報保護法で保護すべき範囲を画そうとしたものと思われる。

だが、「特定」と「識別」という二本の補助線で、「個人情報」か否かを分類する、というアプローチは、正しかったのだろうか。

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2014年11月19日 (水)

内藤頼博の理想と挫折(64)

占領下の日本で、裁判所法起草の中心となり、給費制を創設するなど、現代司法制度の礎を創ったのは、内藤頼博(よりひろ)判事ら、戦後の日本人法曹である。彼らが描いた理想と挫折の軌跡を追う。

木戸幸一と内藤頼博(5

侍従次長河井弥八日記『昭和初期の天皇と宮中』によると、昭和7年(193167日、「日本紙上に宅野田夫の宮内省攻撃の記事あり。陛下より御下問あり。恐懼に堪へず」との記載があるとのことだが、木戸幸一日記に宅野田夫が最初に登場するのは、これに先立つ昭和6930日のことだ。

「宅野田夫、相不変内大臣攻撃の文を新聞日本に掲載す。今回の分は殊に猛烈にして、暗殺の教唆の如き傾あり。之が対策につき、小野(八千雄)、工藤両秘書官と相談す。其結果、段々警視庁の内部を信用し能はざる事情あるを看取したるを以て、先づ之に対し相当の対策を講ずることとし、宮内次官とも相談して同意を得。」とある。

宅野がどのような文章を書いたか未調査だが、その立ち位置からして内容は自明だろう。

その後、昭和7917日「午前十時出勤。十時半、次官室に於て次官と面談す。内大臣進退問題、宅野田夫の件なり」、1116日「帝国新報掲載宅野田夫の記事取消の件につき、村地(信夫)官房主事と打合す。」、昭和8227日「正午、東京クラブに於て藤沼警視総監、近衛、原田、高木、酒井、岡部の諸君と会食す。藤沼君と宅野一派の取締につき懇談す。」昭和832日「正午、アラスカに於て松本警保局長、原田男と会食、松本局長より宅野田夫留置に至る経過につき詳細聴取す。足裏に飯粒のついた様な存在だったが、留置されたので不愉快なデマの無くなった丈気持がよい。」とある。一連の記述からは、警察内部に対する影響力を固めた上で、宅野逮捕にこぎ着けた木戸幸一の政治力を見て取れる。

そして、この昭和832日という日付は、内藤頼博が二荒芳徳伯爵らとともに木戸を訪ね、馬場轍・石井國次学習院大学教授らの専横を直訴した日の3日後であり、これを受け、木戸が馬場轍教授を更迭させた日の前日であった。

つまり、このとき、言論界では右翼策動家であった宅野田夫が宮中の「弱腰」を弾劾しており(宮中にも宅野に呼応する動きがあった)、学習院内部では右派が学内を牛耳っていて、この二つは連動していたため、木戸はその双方を同時に排除するべく行動したことがうかがえる。

宅野の逮捕と、馬場教授の更迭によって、問題は一段落したかに見えた。しかしその後、学習院全体を揺るがす事件が起きることになる。

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2014年11月17日 (月)

NICTのJR大阪駅実証実験に関する調査報告書について(2)

独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が公表した『大規模センサー実証実験調査報告書』について、執筆者の一人という立場から、考えを述べる。これは委員会の総意ではなく、個人的見解であることをあらかじめお断りする。

本実証実験に関し、上記報告書は、撮影画像以外の情報について、そもそも個人情報でないから、およそ個人情報保護法違反にはなりえない、と判断した。なぜなら、撮影画像をもとに生成される「特徴量情報」は、被撮影者固有の情報だから識別性はあるものの、顔画像が消去されて、顔画像との結びつきがきれてしまえば(実際、撮影後10秒以内に消去されることが予定されている)、その特徴量情報を見ても、誰かが特定できるわけではない、すなわち「識別非特定情報」に該当する(報告書40頁)からだとされている。これは、「個人情報」の定義に関係している。

すなわち、個人情報保護法は、「『個人情報』とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう」と定義している。

この「特定の個人を識別することができる」文言の解釈について、内閣府IT総合戦略本部パーソナルデータに関する検討会の技術検討ワーキンググループ報告書は、「特定」と「識別」を区別してそれぞれに定義を加えたうえ、次の3つの組み合わせについて、次のとおり説明した。

識別特定情報   個人が(識別されかつ)特定される状態の情報(それが誰か一人の情報であることがわかり、さらに、その一人が誰であるかがわかる情報)

識別非特定情報  一人ひとりは識別されるが、個人が特定されない状態の情報(それが誰か一人の情報であることがわかるが、その一人が誰であるかまではわからない情報)

非識別非特定情報 一人ひとりが識別されない(かつ個人が特定されない)状態の情報(それが誰の情報であるかがわからず、さらに、それが誰か一人の情報であることが分からない情報)

この分類によれば、本件「特徴量情報」は、一人ひとりは識別されるが、個人が特定されない状態の情報に当てはまることになる。また、技術検討WGは、上記の「識別非特定情報」は、「個人情報」に該当しない、と理解している(佐藤一郎国立情報学研究所教授のプレゼンより)。

本報告書は、上記の技術検討WGの理解に従い、「特徴量情報」を「個人情報」に該当しないと判断した。

この理解によれば、「特徴量情報」はもとより、「特徴量情報」に電子的処理を加えて生成される情報は、およそ「個人情報」に該当しないことになる。たとえば、本実証実験では、別のカメラに撮影された、同じ特徴量情報の持主を同一人と判断し、カメラからカメラへの移動経路や時間を記録する「移動経路情報」を作成することを予定しているが、この「移動経路情報」は、誰か一人の移動経路の記録でこそあれ、誰の移動経路かは分からないから、「個人情報」には該当しない、という論理的帰結となる。

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2014年11月10日 (月)

NICTのJR大阪駅実証実験に関する調査報告書について(1)

独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が公表した『大規模センサー実証実験調査報告書』について、執筆者の一人という立場から、考えを述べる。これは委員会の総意ではなく、個人的見解であることをあらかじめお断りする。

 

20141024日、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は、JR大阪駅ビルの「大阪ステーションシティ」に92台のカメラを設置し、一般利用客を撮影して電子処理を行い、人流統計情報を生成する実証実験について、「実施状況公表などの説明責任を尽くすことを条件に容認」(1025日日本経済新聞)する調査報告書を公表した。

報道によれば、「第三者委は実験については、個人情報保護法違反や肖像権の侵害にあたらず、違法ではないと結論づけた」(1025日毎日新聞)とされている。

しかし、民法違反(プライバシー権侵害)はないと判断した部分と、個人情報保護法(正確には、独立行政法人等個人情報保護法)違反ではないと判断した部分とでは、その論理構成が大きく異なる。前者は、プライバシー権侵害に当たりうることを認めたうえで、実質的な違法性はない、と判断したのに対して、後者は、撮影画像以外の情報について、そもそも個人情報でないから、およそ個人情報保護法違反にはなりえない、と判断しているのだ。言い換えれば、プライバシー権侵害については、構成要件該当性を認めたうえで、違法性を阻却すると判断したのに対し、個人情報保護法違反については、構成要件該当性を否定している。

そこでまず、この違いについて、コメントを付すが、その前提として必要な限りで、撮影画像に対する電子的処理の説明をしておきたい。

本実証実験では、デジタルビデオカメラによって利用客を撮影し、撮影画像を生成する。この撮影画像は、写っている人が誰か判別できるものである限り、個人情報に該当することは争いがない。しかし、本実証実験において、撮影画像は、「特徴量情報」が生成された後、直ちに自動消去されることとなっており、その存続期間は10秒以内と想定されている。

「特徴量情報」とは、文字通り、その人の身体的特徴を数量化したものである。ごく簡単にいうと、その人の顔画像と、あらかじめ用意した「平均顔」との差分を数値化し、これを100箇所以上について行ったものである。

この数値は、理論上はその人固有のものだが、特徴量情報からもと画像を再現することはできないし、人が特徴両情報を見ても、誰の顔かを判別することはできない。つまり、ある人の特徴量情報は、他人の特徴量情報と識別することはできるが、もとの画像が消去された後は、誰の特徴量情報かを知ることはできない。そのため、本報告書は、いわゆる「非特定識別情報」に該当するものとして、特徴量情報の個人情報該当性を否定している。

 

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