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2014年12月 5日 (金)

Googleはどうやって自動車交通を支配するのか?

BLOGOSに、「Googleは自動車を支配するか 共存か、対立か 進化する自動運転」という記事が載っていた。

記事によれば、「完全自動運転」を実現する技術は主に二つ。一つは「標識や信号の位置等まで入力された高度な地図情報」であり、もう一つは「周辺環境を認識し、自車がとるべき行動を判断、実行するための、計算能力」であるという。そして記事は、「グーグルの地図が無ければ自動車が走らない日が来るかもしれないと、誰よりも驚いたのは自動車会社だった」と語る。

だが、地図に関して言うと、この記事は間違いではないが、やや大雑把との謗りを免れない。

自動運転自動車が普及するためのインフラとして、高度な地図情報が必要なのはその通りだ。だが、二次元的な地図情報そのものは、少なくともわが国では、国土地理院が精密なものを保有し公開しているし、「標識や信号の位置」等はVICSで提供されているし、近い将来、格段に精緻なものが提供されることになるから、Googleとは関係ない。Google mapは、少なくともWEBページに公開されているものだけでは、自動運転に関して、何の役にも立たない。

まず道幅の問題がある。自動運転が実現するには、そもそも自動車が通行可能か、どの車幅の自動車までが通行可能か、という情報が不可欠だ。しかも、その道幅は道路と縁石、またはラインが引いてあるだけの歩道との関係で計測されていなければならない。歴史的に欧米は、「馬車文化」の国だから、馬車の企画に合わせて道路が作られているので、「道路があれば自動車が通れる」という推測は成り立つのかもしれないが、馬車文化のなかった日本では、道があるからといって、自動車が通れるとは限らない。

地図という二次元情報では分からないものとして、道の傾斜や橋桁・トンネルの高さ情報も必要だ。

物理的な意味での道路幅や通行可能高がわかったとして、次に、それに対する法的な意味づけが必要になる。たとえ、自動車一台の通行が可能であっても、一方通行や歩行者専用との法的規制があれば、原則として、通行は許されない。法的意味づけの中には、通学路のように、時間帯や時季を限定したものがあるから、それなりに複雑である。

これらの物理的・法的情報は、ある程度恒久的なものだ。これに対して、道路工事による通行止めや、マラソンなどのイベントによる通行規制等、事前予測が可能で、一時的に発生する情報も必要だ。

同じく一時的であっても、事前の予測が難しいものとしては、事故や渋滞の情報、天候や路面の状態、道路に突然あいた陥没、等もある。「そんなものは自動車のセンサーで感知すれば十分だろう」という意見もあろうが、Google Car等が使用しているレーザーレンジセンサーは、雪やみぞれに覆われた路面の判別能力に劣るとされている。また、道が垂直に陥没したような場合(マンホールの蓋が外れた、橋が途中で落ちた)には感知が難しいとされている。

このように、自律移動を目的とするロボットは、その移動空間に関する極めて詳細な情報を参照する必要がある。自律運転自動車に限らず、ショッピングモール内を移動するロボットでも同じだ。この情報が記録されたものを、ATR(株式会社 国際電気通信基礎技術研究所)では、「空間台帳」と呼んでいる(下図)。

 

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この空間台帳は、クラウド上に置かれ、複数のロボットがネットを通じて参照すると予定されている。個々のロボット内にダウンロードして参照するのでは、リアルタイムな状況変化に対応できないからだ。

また、自律運転自動車のメーカーはGoogle一社ではないし、ショッピングモール内のロボットにしても、外部から様々なロボットが持ち込まれることになる。したがって、空間台帳の提供社と、個々のロボットのメーカーは、同一会社ではない方が便利だ。例えば、ショッピングモール等では、当該施設の管理権者が空間台帳の提供者となるし、同施設専属のロボットもいるだろうが、利用客が外部から連れてくるロボットも想定しなければならない。

自律運転自動車の場合は、現在のカーナビ会社が複数並立しており、自動車メーカーとの対応関係ができていることからすると、空間台帳についても、類似の状況になることがありうる。しかし、それではいかにも不合理だし、電気自動車が普及する時代の自動車メーカーは多数になっている可能性もある。政策論としては、当面の空間台帳提供会社は複数でよいとしても、規格の統一は必要だろう。

法律的に見た場合、空間台帳の提供者は、どのような責任を負うだろうか。

まず、空間台帳の提供者は、正確な情報を提供する契約上の責任を、ロボットの利用者等に対して負うことに、異論は無かろう。橋桁高の情報を間違えて自動車を傷つけたり、一方通行の向きを間違えて事故を起こしてしまったりした場合には、空間台帳の提供者は賠償責任を免れない。ただ、個々のロボットのセンシングによって事故が避けられたという場合、免責または「過失相殺」がありうることになる(ロボット同士の過失分配、というやっかいな法的議論はひとまず措く)。

もっとも、上記のような恒久的な情報の場合、データが頻繁に書き換えられることはないし、正確を期する時間的余裕もあるから、実際問題として、不正確な情報が提供される場面は想定しにくいし、後述する不正アクセスに対しても、セキュリティシステムで対抗しうるだろう。

むしろ問題は、一時的な情報(例えば事故情報や路面情報、ショッピングモール内における障害物の設置・移動)について、空間台帳が不正確だった場合だ。なぜなら、一時的な情報は、空間台帳の提供者自身が記録するのではなく、個々のロボットが空間台帳に提供して記録するからである。

Google Mapの渋滞情報を例にとって説明しよう。ご存じの通り、Google Mapでは、現在渋滞している道路が赤く着色される。その仕組みは謎だが、想像するところによれば、携帯電話等のandroid端末に内蔵された加速度センサーが、所持人の乗っている交通機関を判別し、自動車と判別したものについては、通行している道路の制限速度と比較して、極端に低速度で移動した場合に「渋滞」と判断し、該当部分を赤く染めていると思われる。

つまり、android端末という「ロボット」の情報に基づいて、Google mapという「空間台帳」が書き換えられていることになる。

この通りであるとすれば、次のような「不正な空間台帳の書き換え」が可能であろう。すなわち、android端末の所持人が、渋滞していない高速道路の路側帯で、超低速で移動することにより、「虚偽の渋滞情報」を表示させることができる。

では、虚偽の渋滞表示に騙され、高速道路に乗らなかったため、コンサート会場に遅刻した者は、Googleに対して慰謝料等の支払いを請求できるだろうか。

もとより、一番悪いのが虚偽の渋滞情報を作出した者であることに疑いはない。だが、Googleも、虚偽の渋滞情報を修正できたにもかかわらず、修正しなかった場合には、法的責任を負うという考え方もありうる。Googleは無償で空間台帳を提供しているのだから、不正確な情報提供について法的責任を負わせるのは酷である、との考え方もありうる。しかし、Googleは、android端末の

購入・利用料を得ているし、端末からの位置情報等のプライバシー情報の提供を受けて、Google mapを更新しているのだから、厳密な意味で無償行為とは言い難い。また、上記のような虚偽の渋滞情報を発見・訂正する方法は容易に考えられる。たとえば、渋滞情報が出ているにもかかわらず、同じ場所の本線を通常速度で通行する端末があれば、渋滞情報と矛盾する情報と判断することは可能だ。

以上により、空間台帳が誤った情報を提供した場合における法的責任については、次のように考えることができよう。すなわち、道路幅や通行可能車高、法的規制のような恒久的情報については、原則として責任を追う(ただし、過失相殺の可能性がある)。これに対して、ロボットによってリアルタイムに書き換えられる一時的な情報については、その誤りを発見し、訂正できたにもかかわらずしなかった場合には責任を負う。

ところで、このような自律移動型ロボットについて、「乗っ取り」の危険性が論じられることがある。確かに乗っ取りは不可能ではないだろうが、技術的困難さや乗っ取りに要するコストを考えると、要人暗殺や軍用ロボットでない限り、現実的ではないように思われる。むしろ現実的なのは、空間台帳に不正アクセスして破壊したり、虚偽情報をばら撒いて混乱させるようなテロや愉快犯の出現であろう。空間台帳の提供者としては、このような不正アクセスを防止するため必要な最低限どのセキュリティを保持する義務を負うし、この義務に違反した場合は、損害賠償責任等の法的責任を負うことがあろう。

表題に戻ろう。Googleはどうやって自動車交通を支配するのか、もうお分かりであろう。Googleは、Google mapのような地図情報によって、自動車を支配する訳ではない。Googleが支配し、世界中に何十億台と散らばるandroid端末が、リアルタイムに空間台帳を書き換えることによって、自動車を支配するのである。自動運転自動車の普及した世界では、Googleのサーバーがダウンしただけで世界中の交通機関が麻痺することになるのだ。

 

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