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2014年12月 1日 (月)

NICTのJR大阪駅実証実験に関する調査報告書について(4)

独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が公表した『大規模センサー実証実験調査報告書』について、執筆者の一人という立場から、考えを述べる。これは委員会の総意ではなく、個人的見解であることをあらかじめお断りする。

 

報告書は、撮影画像から生成した「特徴量情報」について、元画像が消去された後は、一人ひとりは識別されるが、その一人が誰であるかは分からない「識別非特定情報」である以上、「個人情報」には該当しない、と判断した。この判断は、内閣府IT総合戦略本部パーソナルデータに関する検討会の技術検討WGの理解に基づいている。

すなわち、同WGの主査を務める佐藤一郎教授プレゼン(下図)によると、「氏名、住所、顔画像」は個人情報であるが、「パスポート番号、端末番号、位置情報、クレジット(カード)番号、メールアドレス、指紋、身長、会員番号、体重、血液型」は「グレーゾーン」であるという。これを、佐藤教授の提唱する基準に照らすと、「氏名、住所、顔画像」は「識別特定情報」すなわち、「個人が(識別されかつ)特定される状態の情報(それが誰か一人の情報であることがわかり、さらに、その一人が誰であるかがわかる情報)」であり、「パスポート番号、端末番号、位置情報、クレジット(カード)番号、メールアドレス、指紋、身長、会員番号、体重、血液型」は、「識別非特定情報」一人ひとりは識別されるが、個人が特定されない状態の情報(それが誰か一人の情報であることがわかるが、その一人が誰であるかまではわからない情報)にあたる、ということになる。

だが、この定義に照らしたとき、「氏名」は個人情報なのだろうか?具体的に言うなら、WG主査の氏名である「佐藤一郎」は、「識別特定情報」なのだろうか?

ためしに「佐藤一郎」でググってみると、いるわいるわ、同姓同名の「佐藤一郎」氏がたくさんヒットする。ググってみなくても、「山本太郎」や「田中一郎」等と並んで、「佐藤一郎」が同姓同名の多い名前であることに、おそらく異論は無いだろう。このことから明らかなように、「佐藤一郎」は「誰か一人の情報」であるとは言えないし、「その一人が誰であるかがわかる情報」であるとも言えない。したがって「佐藤一郎」は個人情報ではない、という結論になる。

ちなみに筆者の氏名も、ググってみると同姓同名がヒットする。このように、「氏名」は、よほど珍しいものでない限り、同姓同名がいる以上、「識別特定情報」にはあたらないから、「個人情報」ではない、という結論にならなければおかしい。

「住所」も同様であり、多くの「住所」には同居人がいるから、識別性も特定性もない以上、「個人情報」ではない、という結論になる筈だ。

それでは、佐藤一郎主査はなぜ、「氏名」や「住所」を「個人情報」に分類したのだろう。憶測をするなら、「氏名」や「住所」については、個人情報保護法制定以来、個人情報に該当することに争いがなかったから、ということなのだろうか。だが、もし万一それだけの理由で「個人情報」該当性を肯定したなら、「特定」「識別」という概念を持ちだして分類したこととの一貫性を問われることになる。

Satoh_2

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コメント

現代社会において、情報は高額な値段にあたいするもの。
無断で、無料で入手するとはなんと姑息な手段であることでしょう。
監視カメラという武器を所有し、操作できるものだけが恩恵を受けるとは。
企業のファシズムが始まる。
国民はもう平等ではなく、撮影されることを拒否する自由もなくなってしまうのでしょうか。
怖い。

知識のない素人の心からの気持ちが、真実を指摘することもある。

投稿: | 2014年12月 3日 (水) 23時44分

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