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2014年12月 9日 (火)

NICTのJR大阪駅実証実験に関する調査報告書について(5)

独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が公表した『大規模センサー実証実験調査報告書』について、執筆者の一人という立場から、考えを述べる。これは委員会の総意ではなく、個人的見解であることをあらかじめお断りする。

内閣府IT総合戦略本部パーソナルデータに関する検討会の技術検討WGの佐藤一郎主査は、「識別」(誰か一人の情報であること)と「特定」(誰であるかがわかること)という基準で情報を分類し、「氏名、住所、顔画像」は個人情報だが、パスポート番号、クレジットカード番号や指紋は個人情報ではない、とした。

確かに、パスポート番号やクレジットカード番号は、識別性はあるが、その数字を見ただけでは誰の情報であるかは分からない、といえる。しかし、この分類で行くなら、氏名や住所だって、同姓同名や同居人がいる以上、識別性がないから個人情報とは言えないのではないか、という疑問が出てくる。

ところで、佐藤主査は、「氏名、住所」と並べ、個人情報として「顔画像」を挙げている。では、「識別性」「特定性」の基準を適用すると、「顔画像」は個人情報なのだろうか。

「顔画像」は、おそらく個人情報保護法制定当初より、「個人情報」に該当するとされてきた。たとえば総務省のWEBサイトには、「映像から特定の個人を識別することができる場合には、個人情報に当たりますが、識別できない場合には当たりません。テープに記録された音声情報も同様です」とある。世界には瓜二つの人間が三人いると言われているし、解像度等が不十分であれば、見分けがつかない場合もあろうが、とりあえずそういった点を割愛すれば、十分に鮮明な顔写真であれば、識別性(誰か一人の情報であること)はある、と言ってよいだろう。つまり、「氏名」や「住所」と異なり、「顔画像」には識別性があることになる。

では、「特定性」(誰であるかがわかること)はどうだろうか。もちろん、知り合いの顔画像であれば、誰であるかは分かる。だが、知らない人の顔画像であれば、それを見せられたところで、誰であるかは分からない。氏名も住所も分からないし、勤務場所も生年月日も分からない。「そういう顔の人」ということが分かるだけだ。いいかえるなら、例えばあなたが犯罪の目撃者となり、警察から容疑者の写真を何枚か見せられたとき、一枚の写真を指さして「犯人はこの人です!」と叫ぶことはできるが、その写真に写っているのが誰かを証言することはできない。

では、顔画像は、識別性はあっても特定性はないから、個人情報ではないというべきだろうか。賛成する人は、おそらく少数だろう。そうだとすれば、「特定性」を「誰であるかが分かること」と定義したことが問題とも考えられる。たとえば、「誰であるかが分かる」ということの意味は、「氏名が分かる」ということではなく、「後に同種の情報を複数示されたとき、その中から当該情報を指示することができる」ことである、と定義し直せば、顔画像は識別性と特定性があるから、個人情報に該当する、ということになろう。

だが、この新定義に従えば、佐藤主査が「グレーゾーン」に分類した、パスポート番号、クレジットカード番号や指紋は、個人情報に含まれることになる。

考えれば考えるほど、「識別性」「特定性」という物差しの適用範囲に混乱が深まるばかりである。こうまでぐちゃぐちゃになってくると、そもそも、「識別性」「特定性」という切り分けで個人情報を定義する、というアプローチの妥当性を疑う必要が出てくるように思われる。

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コメント

防犯目的から営利目的へ。監視カメラに撮られた顔の画像が利用される。
人間である非人間として、被撮影者はあつかわれる。
法的正義の下、顔認証データが個人情報と認められないのなら、社会が認めた人間の基準として受け入れるしかないでしょう。未来の日本が監視社会となっても、人を傷つける運用にはしっかり拒否する発言をしていきたい。法の支配が、人権を、民主主義を、守ってくれることを信じて。

福島の市民が不安を感じていた原発がメルトダウンしたように、日本国民の心がメルトダウンしないように。

投稿: | 2014年12月13日 (土) 23時15分

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