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2015年2月24日 (火)

ロボット事故の法的責任をめぐる誤った議論について

2月15日のwebR25ロボット事故の責任は製造者?、ツッコミどころが満載だ。

記事は、ロボットが普及するためには、事故を起こした場合の法整備が必要になるとした上で、「(ロボットが事故を起こした場合)すべてが製造者責任ということになると企業側にとっては大きなリスクですし、ロボットもなかなか普及していきません」という松原人工知能学会会長公立はこだて未来大学教授のコメントを載せている。松原教授はまた、「製造者がある程度の安全ラインを守っていれば、その後は操作した人が責任を負う」法制度が必要と主張している。

しかし、第一に、ロボットが事故を起こした場合、「すべてが製造者(ママ)責任」ということにはならない。製造物責任法上、メーカーが損害賠償責任を負うのは、欠陥があった場合に限られる。しかも、欠陥の証明責任は、日本の場合、被害者側にある。被害者が欠陥を立証しない限り、製造者が法的責任を負うことはない。

第二に、被害者が欠陥を立証した場合、製造者が法的責任を負うのは、ロボットに限られない。あらゆる工業製品の製造者が法的責任を負う。ロボットだけを特別視して、法的責任を免除したり軽減したりする理由はない。

第三に、製造物責任を問われるリスクがあったとしても、「ロボットもなかなか普及していきません」ということにはならない。他のエントリで触れたが、製造物責任の訴訟リスクは、米国が日本の約百倍ある。それなら、日本のロボットが米国の百倍進んでいるかと言えば、全然そんなことはない。言うまでもなく、米国のロボット開発が先行している。自動車産業一つ取っても、日本の百倍の訴訟リスクがある米国で、実際訴訟にさらされながら、トヨタなど日本メーカーは米国メーカーに負けず自動車を販売している。これらの事実から明らかなように、訴訟リスクは、ロボット開発の妨げにはならない。

記事はまた、「ロボットカーからブレーキペダルが無くなることはない」という千葉工業大学未来ロボット技術研究センター所長の古田貴之氏のコメントを紹介し、「最後の判断は人の手に委ねる必要がある。どんなに技術が発達したとしても、最終的に責任をとるのはそれを扱う人間なんです」と結んでいる。

しかし、このコメントは詭弁である。「最終的に責任を取るのは人間」というのはその通りだが、責任主体を「扱う人間」に限定する必要はどこにもない。「造った人間」「売った人間」や「所有する人間」を除外して、「扱う人間」にだけ責任を負わせる理由が全く示されていない。

それでは、ロボットの事故に対する法制度はどうあるべきか。完全自律型自動車を例に取るなら、事故の責任を負うのは、まずはオーナー(通常は所有者)である。こんにちの自賠責保険の例に倣い、オーナーは保険加入が義務づけられ、事実上無過失責任に近い責任を負うことになるだろう。もし、自動車の設計や製造過程などに欠陥があった場合には、オーナー(またはオーナーの加入していた保険会社)はメーカーに対して製造物責任を問うことになる。メーカーは、PL保険に加入することによって、製造物責任のリスクを分散することができるし、そのコストは販売価格等に上乗せされ、オーナーやユーザー全般が分担する。

こういったコストを上回る利便性(ベネフィット)を社会に提供できる限り、ロボットは必ず普及する。事故や製造物責任をおそれる理由など、何一つないのである。

 

 

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2015年2月16日 (月)

NICTのJR大阪駅実証実験に関する調査報告書について(8)

独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が公表した『大規模センサー実証実験調査報告書』について、執筆者の一人という立場から、考えを述べる。これは委員会の総意ではなく、個人的見解であることをあらかじめお断りする。

 

個人情報保護法は、個人情報を「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう」と定める。

この中で、いま問題にするのは「…記述等により特定の個人を識別することができるもの」という部分だ。

技術検討WGは、この部分に関して、「識別」(誰か一人の情報であること)と「特定」(誰であるかがわかること)という基準を立て、この二つの基準が導く組み合わせのうち、「識別特定情報」のみを個人情報とするのが従来の議論であるとしつつ、「識別非特定情報」をも法的保護の対象とするべきだという主張を展開した。

しかし、この主張は立法論として傾聴に値するとしても、現行個人情報保護法の解釈論としては成立しえないことは、すでに述べたとおりである。

したがって、本件実証実験において生成される「特徴量情報」が現行個人情報保護法上の「個人情報」に該当するか否かは、技術検討WGの定立した基準とは別の、解釈論を用いて検討すべきことになる。

ところで(顔の)「特徴量情報」とは、撮影された実在の人物の顔画像と、「平均顔」とを比較して、その差分を数値化したものだ。差分とは、たとえるなら、「目と目の間の距離は平均顔より1ポイント短い」「右眉の起点は平均顔より3ポイント下」といったもので、現在の技術水準では顔画像一つにつき100箇所程度で差分を取るらしい。100箇所とは多いと思う人がいるかもしれないが、NICTの説明では、特徴量情報から元画像を再現することはできない。無理矢理再現しても、非常にぼんやりした画像しか生成できないから、人間が見ても、誰の顔かを判別することはできない。しかし、特徴量情報を与えられたコンピューターは、同じ人が再び現れれば、その人を見分けることができるし、他の人と混同することも(理論上は)ない。

法律的なポイントは、「元画像は再現できないが、同一人が再び現れれば、コンピューターには見分けがつき、人間にはできない」点だ。これをもって「特定の個人を識別することができる」といえるかどうかが問題となる。

価値判断としては、「同一人が再び現れれば、見分けがつく」という点において、「特徴量情報」は「顔画像」と差異がない。したがって、顔画像が個人情報であるなら、特徴量情報も個人情報というべきであろう。「コンピューターには見分けがつくが、人間にはできない」からといって、個人情報該当性を否定するのは、デジタルネットワーク時代の現状を無視した見解というべきであろう。

 

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2015年2月 5日 (木)

商業ドローンの実用化と道路交通法の改正について

経済産業省は1月23ロボット新戦略公表した

内容は多岐にわたるが、今回はドローン実用化に必要な法整備について触れておきたい。というのは、同戦略は「航空法等」の改正について検討すると書いていて、少し心配になったからだ。

現行航空法は、「航空機」を有人機に限定しているから、プレデターのような大型無人飛行機は、現行航空法上の航空機に該当しない。したがって、現行航空法を無人機に適用できるよう、改正することが必要となる。しかしこれは「航空機」の定義の問題に過ぎない。飛行中や飛行場でのルールをどうやって無人機に守らせるか、ハイジャックならぬ電波ジャックなどの犯罪行為をどうやって禁止するかなど、面倒くさい法改正事項は多いだろうが、立法技術的な問題であり、平たく言えば力仕事である。

むしろ、『ロボット新戦略』に即した場合の問題は、「ドローン」すなわち小型無人航空機の商業利用を可能にする法的インフラの整備だと思う。この問題において、航空法の改正は、必要かもしれないが、本質ではない。そのあたり、経済産業省は分かっているのだろうか。

ドローンは航空法上の「模型航空機」に該当する。航空法施行規則209条の4は、模型航空機を地上250メートル以上の高度で飛行させることを禁じているが、ドローンは地上数十メートル程度を飛行するものだから、もともと、有人飛行機との棲み分けはできている。

むしろ問題は、地上数十メートルを商業飛行させるに際して障害となる、さまざまな法律である。たとえば民法207条は「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」と規定しているから、他人の土地の上空を飛行させることはできない。また、公道上空を飛ぶことは道路交通法違反になる。これでは、ドローンに宅配させることはできない。また、民有地にはビルや大木があったりして飛行の妨げになるし、民有地の上空でドローン同士の衝突や荷物の落下が起きることは、非常にやっかいな問題を生むことになる。

現実的な解決策は、道路交通法を改正して、道路の上空にドローン専用の「空域」をつくり、電波による空路に沿ってドローンを飛行させることだろう。この空路はもちろん立体交差になっているので、信号は不要だから、時速30キロ程度で飛行するドローンでも、都会ではバイクより速い運送手段となるだろう。また、道路の上なら、荷物を落としても、直接人間に当たる可能性は比較的低い。そこで、ドローンには電波による空路を(ビル風に負けず)正確にトレースする装置や、衝突防止装置、荷物落下を防ぐ多重機構の具備が義務づけられることになろう。

改正の方向性としては、道路交通法の適用範囲を道路の上空何メートルまで、と限定して、それより上(かつ航空法の空域より下)に適用される別な法律を作るか、道路交通法そのものの中に、ドローンに適用される条項を設けるか、ということになる。国際標準の策定も必要だ。

いずれにせよ、国土交通省と警察庁との権限争いになるだろうが、是非早期に実現してほしいと思う。ビルの谷間を、ドローンが整然と飛行する時代は、すぐそこまで来ているのだから。

 

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2015年2月 2日 (月)

大阪弁護士会の選挙公報を読んでみた

大阪弁護士会の選挙公報が126日に出たので読んでみた。大阪弁護士会は、会長1名、副会長7名、以下常議員などを選挙で決めるが、今年度も全部無選挙だった。選挙公報に文章を掲載しているのは唯一の会長候補者である松葉知幸弁護士と副会長候補者7人だが、無風選挙を前提としているため、その中身は、事実上の所信表明となっている。

内容については、流石と思わせるもの、間違ってるのちゃうん、と思わせるものなどあったが、3点ほど指摘しておきたい。

第一に、法曹養成問題については、多くの候補者が言及している。その中で腹立たしく思ったのは、「現在、ロースクールの整理統合を進め、その質を高めるロースクール側の改革が進んでおり、ロースクールに入れば78割が法曹となれるという(司法制度改革審議会)意見書の描いた法曹養成制度が実現しつつあります」と述べるH弁護士の文章だ。

この文章はおそらく、平成19年には5713人だった法科大学院入学者が平成26年には2272人となり27年にはおそらく2000人を割れることを言っている。司法試験合格者数年1500人としても、2000人なら75分の合格率、と言いたいのだろう。

しかしこの計算は、「滞留受験者」を無視する点で間違っている。かつて法科大学院を卒業し、司法試験受験資格を取得したが、まだ合格していない受験資格者は、1万人を超える。もとよりその全員が受験し続けるわけではないが、受験資格喪失時期が「三振」から「五振」に延長されたこともあり、なかなか減らない。これら受験資格者が全部「ハケる」までは、司法試験合格率は上がらない。単純計算としては、早くて5年後だ。現在のこのどうしようもない状態がさらに5年続いた後ようやく好転することをもって「(司法制度改革審議会)意見書の描いた法曹養成制度が実現しつつあります」と言うなら間違いではないが、私はそれほど楽観的ではない。このH弁護士の主張は、他にも色々間違いがあるが、本稿では触れないでおく。

第二に、これもどうかと思ったのは、「(弁護士は)司法の一翼であり基本的人権の擁護と社会正義の実現を図るという役割と、民間のサービスプロバイダーとしての役割をどのようにバランスをとっていくかという点が、弁護士という職務の難しいところだ」とするN弁護士の文章。

この文章は二重の意味で間違っている。第一に、弁護士の職務を「人権擁護」と「サービス業」の二項対立で把握している点。第二に、この対立構造の「バランス」が大事だとしている点だ。なぜなら、このような二項対立を前提にするなら、バランスを取るというお話にはなりえない。弁護士法1条がある以上、「人権擁護」が優先するに決まっているからだ。いわゆる左翼系人権派弁護士は、二項対立構造を取りつつ人権擁護を優先させるから、間違っているけれど、それなりに一貫している。二項対立としつつ、そのバランスを取ることが大事だ、などという議論は、法解釈上ありえない。

『こん日』の最終章にも書いたが、「人権擁護」と「サービス業」は対立する概念ではない。弁護士法1条にいう人権は弱者の人権に限らない。強者の人権も含むし、相対立するあらゆる権利を含む。その権利者に代わって、それぞれの権利の正当性を戦わせるのが、弁護士の職務であり、この点において「人権擁護」と「サービス業」は対立するのではなく、同義の言葉として両立するのである。

この点、松葉次期会長は、「(弁護士は)その仕事によって収入を得るというだけでなく、法律の専門家として民主主義を支えるべき使命を負っている」と明言されており、さすがと感心した。現代日本で、弁護士の職務が民主主義に直結するという言説を公式に表明している弁護士は、私以外で初めて見た。

第三には、弁護士会の財政問題である。弁護士会の会員数は増え続けているから、財政問題は生じないはずなのだが、個々の会員の収入減少が、年60万円を超える会費の負担感を増しているため、松葉弁護士ほか複数の副会長候補者が、財政問題を喫緊の課題と認識している。なかでもT弁護士は、「会員間の経済格差が拡大すると共に、弁護士会に対する帰属意識についても、二極化が生じ、会務活動を全く行わない会員が増えています。『弁護士会は高い会費を取るだけで役に立っていない』、『弁護士会など不要ではないか』という声さえ聞こえてくる」と、問題点を端的に指摘した。

ここまでに異論はないが、問題は具体策だ。T弁護士は、年1億円程度の黒字決算であればその分会費を減額できると述べるが、会員数で割れば一人年25000円にしかならず、焼け石に水である。また、「委員会統廃合、(委員会への)事務局関与の見直し」、情報システム関連費用の抑制、法律相談センターを含めた事務の効率化」が必要とされるが、本当に必要なのは事務職員のリストラである。分かった上で書けない事情があると拝察するが、次年度理事者は、そろそろ、事務職員のリストラ問題に取り組んでいただきたいと思う。

 

 

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