ロボット事故の法的責任をめぐる誤った議論について
2月15日のwebR25「『ロボット事故』の責任は製造者?」は、ツッコミどころが満載だ。
記事は、ロボットが普及するためには、事故を起こした場合の法整備が必要になるとした上で、「(ロボットが事故を起こした場合)すべてが製造者責任ということになると企業側にとっては大きなリスクですし、ロボットもなかなか普及していきません」という松原仁人工知能学会会長(公立はこだて未来大学教授)のコメントを載せている。松原教授はまた、「製造者がある程度の安全ラインを守っていれば、その後は操作した人が責任を負う」法制度が必要と主張している。
しかし、第一に、ロボットが事故を起こした場合、「すべてが製造者(ママ)責任」ということにはならない。製造物責任法上、メーカーが損害賠償責任を負うのは、欠陥があった場合に限られる。しかも、欠陥の証明責任は、日本の場合、被害者側にある。被害者が欠陥を立証しない限り、製造者が法的責任を負うことはない。
第二に、被害者が欠陥を立証した場合、製造者が法的責任を負うのは、ロボットに限られない。あらゆる工業製品の製造者が法的責任を負う。ロボットだけを特別視して、法的責任を免除したり軽減したりする理由はない。
第三に、製造物責任を問われるリスクがあったとしても、「ロボットもなかなか普及していきません」ということにはならない。他のエントリで触れたが、製造物責任の訴訟リスクは、米国が日本の約百倍ある。それなら、日本のロボットが米国の百倍進んでいるかと言えば、全然そんなことはない。言うまでもなく、米国のロボット開発が先行している。自動車産業一つ取っても、日本の百倍の訴訟リスクがある米国で、実際訴訟にさらされながら、トヨタなど日本メーカーは米国メーカーに負けず自動車を販売している。これらの事実から明らかなように、訴訟リスクは、ロボット開発の妨げにはならない。
記事はまた、「ロボットカーからブレーキペダルが無くなることはない」という千葉工業大学未来ロボット技術研究センター所長の古田貴之氏のコメントを紹介し、「最後の判断は人の手に委ねる必要がある。どんなに技術が発達したとしても、最終的に責任をとるのはそれを扱う人間なんです」と結んでいる。
しかし、このコメントは詭弁である。「最終的に責任を取るのは人間」というのはその通りだが、責任主体を「扱う人間」に限定する必要はどこにもない。「造った人間」「売った人間」や「所有する人間」を除外して、「扱う人間」にだけ責任を負わせる理由が全く示されていない。
それでは、ロボットの事故に対する法制度はどうあるべきか。完全自律型自動車を例に取るなら、事故の責任を負うのは、まずはオーナー(通常は所有者)である。こんにちの自賠責保険の例に倣い、オーナーは保険加入が義務づけられ、事実上無過失責任に近い責任を負うことになるだろう。もし、自動車の設計や製造過程などに欠陥があった場合には、オーナー(またはオーナーの加入していた保険会社)はメーカーに対して製造物責任を問うことになる。メーカーは、PL保険に加入することによって、製造物責任のリスクを分散することができるし、そのコストは販売価格等に上乗せされ、オーナーやユーザー全般が分担する。
こういったコストを上回る利便性(ベネフィット)を社会に提供できる限り、ロボットは必ず普及する。事故や製造物責任をおそれる理由など、何一つないのである。
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