« 地方裁判所大幅削減へ | トップページ | 危険?なドローンに対する法規制のあり方について »

2015年4月14日 (火)

「『ご自由にお取りください』ラーメン店でネギを大量に食べたら『出禁』」問題の法的説明のありかたについて

4月11日の弁護士ドットコムで、「自由に取っていいと書かれているネギを大量に食べたことを理由に、(客の)入店を断ることはできるのだろうか」という問題が出され、これに対して、中村憲昭弁護士が「法律的には、客の方が正しい」と回答している。

だが、この回答は「法律的には、間違い」だと思う。

なぜなら、ラーメン店の店主は、店舗に対する施設管理権を持っており、この権利に基づいて、誰を入店させるか否かを、選別する権利があるからだ。

選別の基準はなくてよい。極端な話、性別を基準にしても良いし、国籍・人種・宗教・年齢でもよい。「同業者っぽく見えるから」でもよいし、「タバコの臭いがするから」でもよい。「西から来た客は入れねえ」でも「俺のラーメンは維新の会には食わせねえ」でも差し支えない。今日の基準と、明日の基準が矛盾していてもかまわない。要は、施設管理権者の自由ということだ。

だから、ネギを大量に食べたから、という理由で出入り禁止にしても、法律的には合法だ。正確にいいかえるなら、どんな理由で出入り禁止にしても合法であり、ネギを大量に食べたからという理由も例外ではない、ということになる。したがって、冒頭の問題に対する回答は、「法律的には、店の方が正しい」ということになる。

もとより、この理屈は、ラーメン店に限られない。民間施設であれば、基本的に妥当する。これに対して、市役所等、一般市民が差別を受けず利用する権利がある施設は別だし、民間施設でも、例えば鉄道については、鉄道営業法6条により、旅客や貨物の不当な利用拒否を禁止しているし、医師法19条は、正当な理由のない診察拒否を禁じている。このように、民間施設でも、公益性・公共性が求められるものについては、法律上出入禁止措置が制限されることがある。だが、市井のラーメン店に、このような制限はない。

「店主に出入禁止を課す権利があるか?」という問題は、裏を返せば、「客に入店の権利があるか?」という問題となる。いいかえれば、「店主が拒否しても、入店する権利が法律上保障されているか?」という問題であり、さらにいいかえれば「不当に入店を拒否された客を国家は救済しなければならないか?」という問題となる。中村弁護士の見解に従えば、客は、店主が拒否しても、入店する権利があることになる。したがって、(ネギを大量に食べたという)不当な理由による入店拒否に対し、裁判所に訴えて、慰謝料等の損害賠償金の支払を請求できることになるし、強制的に入店し、ラーメンを食べることもできることになる。

だが、そのような自由は、現行法上認められない。なぜなら、そのラーメン店は、客にとって、他人のものだからだ。いいかえれば、「客に入店の権利がある」との前提で議論を展開した時点で、中村弁護士は法律的に間違っていたことになる。我が国は資本主義国家なのだから、その資本(ラーメン店)をどう使うかは、資本家(の意を受けた店主)の自由であり、一方の客に、その自由はない。

ドットコムのサイトを見ると、「自由にお取りくださいと書いてある以上、ネギをいくら食べても自由じゃないか」という書き込みもある。でもね、問題をよく読んでほしい。問いは「客の入店を断ることはできるか」であって、「ネギの代金を別途請求していいか」ではないし、「ネギの食い過ぎを理由に食事途中で追い出していいか」でもない。張り紙を根拠に、ネギを大量に食べて良いか否かという問題と、出入り禁止の可否の問題は別である。

もちろん、法律的に合法であるとしても、道義的な当否は別問題だし、客を選ぶラーメン店が経営的に成り立つか否かは、もっと別の問題だ。しかし、法律のルールと道徳のルールはレベルの違う問題であり、経済的な成功失敗はさらに別だから、これを混同しないのが法律家のつとめだと思う。また、この種の問題を説明するときに、合法違法の問題と、道義的是非の問題とを明確に区分しながら論じる、ということも、法律家としては大事なことだと思う。

中村弁護士の解説は、たかがラーメンとネギの問題ではあるけれども、法律家としてなすべき区別ができていない点に引っかかったので、書いておくことにした。

とはいえ、「まず店主の面接をパスしないと入店できないラーメン店」って、案外流行るかも。

 

 

 

 

 

|

« 地方裁判所大幅削減へ | トップページ | 危険?なドローンに対する法規制のあり方について »

コメント

素晴らしい!全くその通りです!ありがとう!スッキリしました!

投稿: pazpaz | 2015年4月14日 (火) 10時15分

元記事は、「注文したらネギ取り放題は契約内容。ただし、次からは注文応諾義務はない」と書かれていますので、違いはないような気はしますが、それはさておき。

人種を理由に入店を拒否したら、不法行為が成立して損害賠償責任を負わされると思います(札幌地判平成14年11月11日判例タイムズ1150号185頁、静岡地裁浜松支判平成11年10月12日判例タイムズ1045号216頁)。

投稿: しんたく | 2015年4月14日 (火) 11時01分

これは、両端異論があって当然しかるべき愚問でしょうね(笑)。これと思考的同ベクトルにあるのが女性専用車両です。そこまで思考を深めなくとも、例えば、女性の公共乗り物内での化粧もしかり。ちなみに私は多少混雑する車内でのベビーカーはむしろほほえましいくらいです。首都圏のエスカレーター右空け奇習よりかはよほど安全です。先日、子供のサッカーボールで殺された無辜の民の被害者救済をないがしろにした最高裁判決がありましたが、死するほどの思考的悶絶の片鱗も見られない裁判官らの判決文に、正にこの国の行く末に暗澹たる思いになった人も多かったことでしょうね。江戸から明治旧民法刑法も、先の大戦時ですら、比較的人権と被害者救済という視点は守られていましたから、このサッカーボール殺人少年無罪判決は正にわが国司法のターニングポイントなり得る事象です。若い法曹家は昨今の自己責任と小泉安倍政権、そして三権分立との視点をどのように捉えているのか。残念ながら、この記事にはまだまだ、思考的悶絶が足らないと断ぜざるをえないですね。

投稿: やっこさん | 2015年4月14日 (火) 17時16分

しんたくさん、コメントありがとうございます。ご指摘の札幌地裁は公衆浴場の件であり、本件と違うことは本文に書いたとおりです。浜松支部の件も、入店後の対応である点において、本件と違うことは本文に書いたとおりです(浜松支部の判決には、私は批判的見解を持っていますが、それは本件とは関係ないので触れません)。また、私は、弁護士が法律と道徳律とを明確に区分していない点を批判しているのであり(特にコメントの第1行目)、法律家がちゃんと読めば違いはない、という話をしているのではありません。これからもよろしくお願い致します。

投稿: 小林正啓 | 2015年4月15日 (水) 11時07分

>ご指摘の札幌地裁は公衆浴場の件であり、本件と違うことは本文に書いたとおりです。

「黒人は入店禁止」というレストランでもOKということでしょか?

本気でそう考えているのなら、弁護士稼業は向いていないと思います。廃業した方が、世の為にも、ご本人の為にもなるのではないでしょか?

投稿: | 2015年4月18日 (土) 19時38分

ゴルフクラブに入会しようとした在日を在日であることを理由に入会拒否することは不法行為ではないという判例はありますね。私人間間においては○○であることを理由とする拒否はできないというより、拒否をする理由によっては不法行為になりうるという程度のことでしょう。

投稿: とおりすがり | 2015年7月17日 (金) 12時27分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/192469/61433744

この記事へのトラックバック一覧です: 「『ご自由にお取りください』ラーメン店でネギを大量に食べたら『出禁』」問題の法的説明のありかたについて:

« 地方裁判所大幅削減へ | トップページ | 危険?なドローンに対する法規制のあり方について »