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2015年11月 2日 (月)

完全自動運転自動車とトロッコ問題について

開催中の東京モーターショーでは、自動運転自動車が話題だ。

自動運転自動車を実用化するためには、様々な法的問題を検討しなければならないが、その一つに、「トロッコ問題」というものがある。

トロッコ問題とは、線路を走るトロッコが制御不能で止まれなくなり、そのまま走ると線路の先の5人の作業員を轢いてしまうが、線路の分岐点で進路を変えると、その先の1人の作業員を轢いてしまうとき、進路を変えることが正しいか否か、といった思考実験だ。

これを自動運転自動車に応用すると、たとえば、道路が突然陥没し、ブレーキをかけても間に合わず、直進すれば穴に落ちて搭乗者が死んでしまうというときに、方向転換すれば助かるが、その先にいる5人の小学生を轢いてしまうという場合、自動車の人工知能はどちらを選択すべきか、という問題になる。

最近、この問題に関する海外の研究成果が報道された。仏トゥールーズ第一大学のJean-Francois Bonnefon心理学博士が率いる研究チームが数百人を対象に実施した調査結果によれば、被害者を最小限にするように全自動運転カーはプログラムされるべきという考えが支持された。ただし、同博士は「自分自身は全自動運転カー乗りたくないという意見がありました」と語ったそうである。

この問題を日本の刑法学の立場から考えると、緊急避難(刑法371項)の問題となる。

まず、自動運転ではなく、人間が運転していた場合、上記の事例でどうなるかを考えてみる。刑法371項は、「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない」と定めているから、穴に落ちて死ぬ搭乗者と、ハンドルを切った先でひき殺される歩行者の数の比較となり、後者が多ければ、緊急避難は成立しない(本当は法解釈上ややこしい議論があるのだけれど、割愛する)。ただし、歩行者の被害の方が多かったとしても、法は「情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる」と定めているから、具体的事情によっては、処罰されない可能性もある。例えば、あなたが産気づいた妻を乗せて病院に向かっているとき、赤の他人の小学生のために、妻と子どもを犠牲にできるか?と言った、よりシビアな問題になる。

次に、これを自動運転自動車に応用できるかを考えてみよう。

刑法学上の理論を単純に当てはめれば、「特定の危険回避措置を取らなかった場合に搭乗者が被る被害と、取った場合に通行人等が被る被害を比較し、後者の被害が少ない場合のみ、危険回避措置を取る」というプログラムを組むべし、という結論になる。

しかし、この結論はおそらく間違いだ。理由の第一は、彼我の被害予測を正確に行うことは、いかに人工知能が発達したとしても無理という、技術的な理由である。第二は、そのようなプログラムを実装したのでは、自動運転自動車は売れないからだ。Bonnefon博士の言葉が示すとおり、そのような自動車には乗りたくないというのが、人間の心理だからである。

おそらく、完全自動運転自動車は、搭乗者の安全を最優先に考えて行動すべしという思想のもとに、プログラムされるべきなのだろう。そして、搭乗者の安全が確保されているときに、車外の損害を最低限度に押さえるよう、プログラムされるべきなのだろう。そして、自動車メーカーやプログラマーは、結果として車外に発生させた被害について、法的責任を問われないよう、必要な法整備を行うべきことになる。同時に、センサーや人工知能の安全規格をもうけ、その基準を満たす限り、避けられなかった被害については「不可抗力」として責任を問わないという制度も検討されるべきことになろう。

ただし、仮にこの考え方を取る場合、有人走行の場合と無人走行の場合とでは、適用される優先順位を別にしなければならない、という技術的課題が発生する。また、任務遂行中の緊急車両については、通常車両とは別のプログラム思想が適用されるべきことになるかもしれない。

また、このようなプログラム思想は、車種共通、メーカー共通、世界共通でなければならない。だって、高級車は搭乗者の命を優先するが、軽自動車は逆、とかでは困るからね。

 

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