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2016年4月11日 (月)

自動運転自動車に関する警察庁の調査研究報告書について

4月7日、警察庁はホームページで、『自動走行の制度的課題等に関する調査研究報告書』とその概要を公表した。同報告書には「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン案」が掲載されていることから、9日の日本経済新聞は、公道実験がやりやすくなったと、歓迎する社説を掲載している。厳密にいうと、この報告書は株式会社日本能率協会総合研究所が作成したものであって警察庁が作成したものではないうえ、「案」に過ぎないから、法的には警察庁は何も言っていないのだが、同庁のホームページに掲載した以上は、警察庁が一定条件下での公道実験に「目をつむる」ことを事実上表明したものと見てよいのだろう(だいたい、このようなファジーなやりかたは『法の支配』の見地からいかがなものか、という議論はあるが、ここでは措く)。

すくなくとも、トヨタ首都高行った自動運転実証実験が業界のリーダーとしてあるまじき行為警察庁の激怒を買ったことにくらべれば、「ガイドライン案」の公表は進歩があった、と評価すべきなのだろう。しかし、藤原靜雄中央大学法科大学院教授と稲垣敏之法制大学法科大学院教授という二人の法学者を招聘したにもかかわらず、法律的論点に関しては、いささか物足りないといわざるを得ない。

そもそも、全192ページの報告書のうち、「刑事上の責任」「行政法上の責任」「民事上の責任」については、それぞれ、1ページ前後しか費やされていない。そのうえ、たとえば「刑事上の責任」(報告書77ページ)については、「レベル3では、運転者の過失責任が認められるかどうかは、…システムと運転者との間における車両の操作権限の委譲に関する具体的な技術開発の方向性を確認しながら、交通事故等における道路交通法上の責任の在り方を検討する必要がある。レベル4については、道路交通に関する条約に係る国際的な議論を踏まえつつ、具体的な技術開発の方向性を確認しながら、交通事故等における道路交通法上の責任の在り方を検討する必要がある」と、当たり障りのないことを述べるだけで、法的見解が何一つない。

ちなみに、この報告書にいう「レベル3」とは、平時の運転はすべて自動車が行い、人間は非常時に備え待機する段階をいう。したがって、自動運転時の事故は、レベル4と同じになり、非常時に人間に権限委譲を終えた後の事故は、レベル2と同じになる。レベル3固有の問題点は、システム側から人間側へ権限委譲をしている、まさにそのときということになる。

まず技術的に検討すると、この権限委譲をいかに確実に行うかが重要だ。なぜなら、権限委譲がいつの間にか終了していたというのでは、危険極まりないからである。

この点については、自動運転の残り時間を運転者に告知する仕組みが検討されている。2015年1月8日付の「日経テクノロジーオンライン」によると、ドイツAudi社は自動運転中にシステムから人への運転権限委譲に必要な時間は「10秒ほど」と考えており、これに呼応するようにフランスValeo社は自動運転解除までの残り時間をメーターディスプレーで通告する機能を開発したという。

しかし、この仕組みで安全な権限委譲が確保されるかは疑問だ。運転者が躊躇していたり、寝ぼけていて事態を把握できなかったり、そもそも通告に気付かなかったりするうちに10秒が経過してしまえば、自動車は無制御状態になるからだ(10秒経過後も安全に自動運転が継続できるのであれば、それはレベル4であり、レベル3ではない)。また、路面の陥没など外的な要因の場合、権限移譲に10秒もかかっていては対応が遅すぎるだろう。

次に、法律的に検討すると、事故の法的責任が自動車メーカーから運転者に転換する時点はいつか、が問題となる。仮に権限委譲の通告後10秒経過すれば、事故が起きた時の責任が運転者に移転すると定めるれば、自動車メーカーはこぞって通告の閾値を下げるだろう。だが、「運転を代わってくれ」と頻繁に要求する自動運転車は煩わしいので、これを購入したいと思う人は限られるから、このような打ち手は、結局、自動運転自動車の普及を妨げることになる。

おそらく自動運転車が運転者に事前通告して運転の権限を委譲するシステムは、燃料不足や電池残量の低下、電子システムの異常など自動車の内的要因、または大地震など特定の外的要因にまつわる場合に限定されて導入されることになるだろう。また、通告後一定時間が経過しても「路肩に停車する」などの安全措置が講じられるまでは、自動車メーカー側が一定の法的責任を負うことになるだろう。

以上、警察庁があまりに慎重なので、代わりに言ってあげました。

 

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