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2016年5月 9日 (月)

自動運転自動車に関する警察庁の調査研究報告書について(2)

47日、警察庁が『自動走行の制度的課題関する調査研究報告書』を公表したことと、報告書全192ページ中、法律上の責任には3ページしか割かれていないことについては、4月11日のエントリでご紹介したとおりである。

3ページしかない「法律上の責任」の内容を見ると、掲載順に、「刑事上の責任」については27行、「行政法規上の義務」については60行、「民事上の責任」については11行となっている。少なくとも行数からだけみると、警察は、行政法規上の義務について、最も高い関心を持っていることが分かる。民事上の責任に対する関心が薄いのは、警察だから当然としても、行政法規上の義務より刑事責任に対する関心が薄いのは、意外のような気も、正直なような気もする。

それはさておき、「行政法規上の義務」に対する記述は、次の各論点に触れている。

1 車両の点検・整備の義務について

2 自動走行システムのセキュリティ確保に係る義務について

3 運転免許制度等の在り方について

4 交通事故時の救護・報告義務について

5 運転者以外の者に係る義務について

(1)自動走行車に乗車する者に係る義務について

(2)他の道路利用者に係る義務について

それぞれに興味深い論点ではあるが、筆者は天邪鬼なので、どうしても、この報告書が取り上げなかった論点に関心が行ってしまう。なぜなら、道交法等の定める行政法規上の義務は、これだけではないからだ。

道路交通法は、運転者等に対して、数多くの義務を掲げている。たとえば7条は、「道路を通行する歩行者又は車両等は、信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等(前条第一項後段の場合においては、当該手信号等)に従わなければならない」と定めている。これ一つとっても、自動運転自動車との関係では、問題山積だ。

道路交通法施行令によると、青の意味は「直進し、左折し、又は右折することができる」、黄の意味は「停止位置をこえて進行してはならないこと。ただし、黄色の灯火の信号が表示された時において当該停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合を除く」、赤は「停止位置を越えて進行してはならない」。だが実際は、「黄色の但書」がとても柔軟に運用されていることは、ドライバーならご承知だろう。また、初心者や自動車教習所の自動車がやたら律儀に信号を遵守すると、円滑な通行をかえって阻害することもある。したがって、自動運転自動車が、道路交通法の規定を律儀に遵守することは、円滑な通行を乱し、かえって、周りの有人運転自動車による事故を誘発する危険がある。

さらに重要な問題は、信号の注視義務だ。法文には明記されていないが、当然の前提として、運転者は信号の表示を「目視」することが求められている。だが、あなたがたとえば普通乗用車の運転者であるとして、直前に大型コンテナを積んだトラックが信号待ちをしていて、信号機が見えないとき、その信号が青に変わったということを、あなたはどうやって認識するだろうか。多くの人は、前のトラックが動き出せば、実際に信号が見えなくても、「青になった」と考えるだろう。

では、自動運転自動車は、自らが青信号を「目視」しない限り、発進してはならないとプログラムされるべきだろうか。それとも、「前の自動車が動き出したら、信号が青に変わったと考えてよい」とプログラムすることは許されるだろうか。道路交通法の趣旨に合致しているのは後者だが、さらに後ろの運転者がイライラするのは自明だし、実際、追突事故が多発するだろう。また、もし万一、前の自動車が信号無視をしていたときは、どうなるのだろう。

一つの解決方法として、信号機に、表示する色に合わせた電波を発信させる、ということが考えられる。これは送受信機の規格を統一することと、全国の信号機に発信器を取り付ける膨大な工事が必要だ。予算措置が伴うので、警察庁としては歓迎だろう。

いずれにせよ、信号機一つとっても、自動運転自動車と行政法規との調整には、大変な問題がある。その重要度は、車両の点検整備義務なんかより、遙かに高い。もちろん警察庁も、分かっているに違いない。分かっているけれども、監督官庁としての方向性が決まっていないので、報告書に取り上げなかったものと思われる。

 

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