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2016年9月26日 (月)

顔認識技術による購買履歴の収集について

20151125日の日本経済新聞電子版は、「生体情報は仕事を変える(中)会員カードより安く安全 『顔認証』で購買行動を捕捉」と題して、作業衣、工事・工場用品専門店の取り組みを紹介している。

記事によると、店舗では「ビデオカメラ作動中」と断ったうえで、レジ後方のカメラで顧客の顔写真を自動撮影し、50桁の数値に置き換えたうえ、購買品と紐付けて保存する。後日、同じ顧客が来店し、顔写真から生成された数値が一致すれば、その人の購買履歴が判明する。この店舗は、専門性が高く、ヘビーユーザーが多いことから、収集した購買履歴を分析してマーケティングに生かすという。

経営者によれば、購買履歴の把握は、会員カードによっても可能だが、「会員カードはコストがかかる上、漏洩防止など個人情報管理負担が大きい。顔認証を使った場合、画像データはすぐ消去するから、情報漏洩の心配もない」とのことだ。

このシステムは違法だろうか。

深く考えると複雑な問題があるのだが、まずは、教科書的な解説を試みよう。

第一に、「顔画像データから生成した50桁の数値は個人情報ではない」という理解は間違いである。

この数値は、「特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができるもの」にあたるから、改正個人情報保護法上、「個人識別符号」と定義され、個人情報に該当するとされている。改正個人情報保護法は現時点で未施行だが、現行法の解釈上も、かかる数値が個人情報に該当することについては、現時点で争いがないところと思われる(この点は、筆者も関与したJR大阪駅問題に関するNICTの検討委員会で問題となり、個人情報に該当するとの結論に至った)。したがって、上記50桁の数値は、れっきとした個人情報であるから、現行法上も、保有者は個人情報取扱事業者に該当する限り、法定の管理義務を負う。「会員カードを使った顧客管理より『安くて安全』ということはないのだ。

第二に、この店舗は個人情報保護法上問題なければよい、と理解しているようだがこれも間違っている。個人情報保護法に違反しているか否かと、顧客のプライバシー権という民法上の権利を違法に侵害しているか否かは別問題だ。

ちなみに、ここで問題となるプライバシー権は、肖像権ではない(肖像権が全く問題にならないとは言わないが、撮影された画像データが直ちに消去される限りにおいて、法的に問題とするほどの侵害はないとみてよいと考える)。問題となるのは、「購買履歴」、すなわち、いつ何を買ったか、という情報をみだりに知られない、という利益である。

人には、他人に知られても差し支えない購買履歴もあれば、知られたくない購買履歴(エ○本とか、避○具とか)もある。これらの購買履歴は、みだりに他人に知られないことを法的に保護された法的権利であるといえる。ところが、上記システムを導入した店舗では、一度顔情報を登録されれば、過去の購買履歴はもちろん、未来にわたって、すべての購買履歴を把握されてしまうことになる。

店舗が顧客の購買履歴を知る方法としては、たとえば会員カードがある。会員カードは、購買履歴というプライバシー情報と引き替えに、ポイントとか割引とかという便宜を受けるシステムだ。つまり会員登録する顧客は、プライバシー情報を売り渡すかわりに対価を得ていることになる。また、会員であっても匿名性を保ちたいときは、会員カードを提示せずに買い物することができる。ところが、上記システムは、顧客の便益や選択肢を一切考慮せず、一方的に購買履歴というプライバシー情報を取得するものである。しかも、顧客にはその店舗で匿名性を保つ手段がない。したがって、このシステムは、顧客のプライバシー権を違法に侵害していると言わざるを得ない。

第三に、「ビデオカメラ作動中」と断ればよい、という理解が間違っている。この表示は、社会通念上、万引防止目的の撮影と理解されるから、この断り書きでマーケティングに利用することは目的外利用である。また、上述したプライバシー権との関係で見れば、「ビデオカメラ作動中」では足りないことは明白だろう。民法上適法といえるためには、「この店舗では顔認証システムを用いてお客様の購買履歴を収集しています」と明示するべきである。

以上により、上記システムは、教科書的解説に従う限り、明らかに違法と考える。

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2016年9月 5日 (月)

万引き常習犯検知のための顔認証システムについて

2015年11月20日付日本経済新聞電子版に、ジュンク堂書店池袋本店で実施されている万引き防止のための顔認証システムが紹介された。記事によると、土日には5万人が来店する同店では、2014年6月以来の1年間で約500人の「万引常習者」の顔データを蓄積しており、怪しい客が来店すると、店内を巡回する保安員に画像を送信。保安員は送られてきた画像と目視した客が同一人物か否かを判断して監視する仕組みとのことだ。記事の最後には、「万引を繰り返す常習犯の取り締まりに、顔認証システムは絶大な効果をもたらす」という店長のコメントが掲載されている。

この記事は、ジュンク堂池袋支店をプチ炎上させたらしい。twitter上では賛否両論がまとめられているが、批判のtweetとしては、「ジュンク堂さん、これはやめてください。司法機関でもないのに犯罪者認定するのは人権侵害になり得ます」といったものがある。

このシステムは違法だろうか。

まず、録画しない撮影について考えてみる。書店が、売り場内に防犯カメラを設置して来店客を撮影(モニタリング)することについて、法律家の多くは、基本的に(カメラの設置方法などについて問題がない限り)適法と回答するだろう。適切な警告文の掲示を条件とするとの見解もあろうが、そうだとしても、「防犯カメラ設置中」程度の文言で足りよう。弁護士の中には、公道に設置された防犯カメラは違法と考える者もいるが、その立場に立ったとしても、書店は私的な空間であり、オーナーの施設管理権が及ぶから、公道と同視することはできない。

では、警備員が防犯カメラ画像をモニタリング中、万引を目撃したとして、その様子や万引犯の顔画像を録画し保存することはどうか。これが適法であることに異論はないだろう。最近の防犯カメラは常時録画しているが、たとえば営業時間終了後に万引き映像を発見した場合、当該映像を他の映像から切り離して保存する(他の映像は一定期間経過後消去する)ことも適法と考える。

次に、「万引犯」の画像を保存しておいたところ、当人と思われる者が来店した場合、その事実を保安員に連絡するなどして監視することは適法か。これが適法であることについても、異論はないと思われる。

このように見てくると、何の問題もないように見える。ではなぜ炎上したのだろうか。もう少し、報道されたジュンク堂での運用実態に迫って検討してみよう。

第1に、記事によれば、このシステムは、来店客全員の顔画像を数値に変換し、保存してある「万引常習者」リストと突合する仕組みになっている。この過程では、万引犯であると否とにかかわらず、来店客全員の顔画像と、そこから作成された顔認証情報が、店側に保存される。顔画像や顔認証情報は、いずれも個人情報に該当するし、プライバシー情報にもあたるから、店側がこれを保存するには、一定の正当事由が必要だ。この点は記事上詳らかにされていないが、「万引常習者」リストと突合後、該当しなければ速やかに削除されるという前提であれば、適法と認めてよいと考える。また、万引犯リストと突合し、犯人の疑いありと分類された場合であっても、実際に確認して別人であると分かれば、その人の顔画像や顔認証情報は、速やかに削除されなければならない。

第2に、店側に保存された「万引常習者」リストに問題はないのだろうか。上述したとおり、当該リストが、実際に万引を行っている画像であれば、問題はない。問題は、実際の運用上は、「万引をしたと疑われるが、断定まではできない」客の画像がリストに登録されてしまう点にある。この点については、結論として、「万引きしたと合理的に疑われる画像」である限りにおいて、適法と考える。これをジュンク堂書店についてみると、システム導入後1年間に登録された「万引犯」は約500人という。一日平均2万人来店するとして、延べ約700万人中の500人だから、登録率は1万分の1以下となる。この程度であれば、登録されているのは「万引きしたと合理的に疑われる画像」であるとみてよいように思われる。これは店が客の人権に配慮したというより、「疑わしい画像」を何でもかんでも登録したのでは、ハズレの警報が頻発し、システム自体の信頼性が無くなってしまうという、運用上の必要性に基づくものと思われる。

第3に、記事によれば「監視カメラで撮影していることを来店客に伝える張り紙がある」とのことだが、上記のような照合システムを運用するにあたり、この程度の文言で足りるだろうか。足りないとする立場に立てば、たとえば、「当店はお客様の顔画像を万引犯リストと照合するシステムを運用しています」との文言が必要となろう。確かに、当該システムは単なる監視にとどまらず、来店客の顔画像を万引犯リストと照合する点で特異性があるから、この点を告知する必要はあると思われる。

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2016年9月 2日 (金)

弁護士損害賠償保険、売れ行き好調

弁護士による預り金着服などによる被害を補償する、弁護士損害賠償保険の売れ行きが好調だ。

平成12年に行われた司法制度改革により、わが国の弁護士数はほぼ倍増したが、裁判事件数は横ばいのままで、弁護士一人あたりの事件数は半減した。そのため経済的苦境に陥る弁護士が増え、預り金着服などの不祥事が増えていることが背景にある。

弁護士による不祥事に対応する保険としては、以前から責任賠償保険制度があり、弁護士の8割以上が加入している。しかし、弁護士自身が保険料を払う仕組みのため、弁護士が故意に行った不祥事には適用されない。預り金着服などの被害者は、泣き寝入りとなることも少なくなかった。

日弁連は、弁護士に対する信用低下をおそれ、不祥事一件あたり2000万円を上限とする「見舞金」を支払う「依頼者保護給付金制度」を提案したが、「悪徳弁護士の尻ぬぐいをなぜ他の善良な弁護士に押しつけるのか」などの批判が相次ぎ、成立の目途が立っていない。

このような事情を背景に、大手損害保険会社数社が販売を開始したのが弁護士損害賠償保険。預り金着服など、弁護士が故意に与えた損害にも適用されるのが特徴。保険料は依頼者の負担となるが、「多くの弁護士は、保険料相当分の弁護士報酬を値引きしているので、依頼者の負担増にはなっていない」(損害保険会社)という。依頼者も、「信用した弁護士でも、最近は何があるか分からないので、(弁護士損害賠償保険は)安心」と好評だ。

保険料率は、依頼した弁護士が不祥事を起こす確率によって決められる。リスク要因としては、懲戒歴、年齢、性別、借金額などだ。日弁連は抗議しているが、損害保険会社は「自動車保険だって、車種によって保険料が違う」として無視した。個々の弁護士は保険料を安くするためプライバシーを保険会社に開示することになるが、「それで保険料が安くなれば、事件が受けられるので、背に腹は代えられない」とあきらめ顔だ。また、弁護士業界ではこれを逆手にとって、「保険料の安さを広告する弁護士も現れている」(日弁連関係者)という。

日弁連に詳しい小林正啓弁護士 「私は子どもが5人で、うち2人が受験生で、家のローンがあと30年残っていて、持病を抱えていますが何か。」

このエントリはフィクションです。実在の団体または個人と一切関係ありません。

 

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