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2017年1月16日 (月)

自動運転自動車に轢かれた方が損、という法解釈は受け入れられるか

法律専門雑誌『ジュリスト』2017年1月号に、藤田友敬東京大学教授が「自動運転と運行供用者の責任」と題する論考を寄せている。このうち、「自動運転自動車の事故に自賠法を適用することが可能か」という論点については、前回のエントリで触れた。今回は、「自賠法がどのような形で適用されるか」についての教授の主張について検討したい。

自賠法は、自動車の「運行供用者」に対して、交通人身事故の損害賠償義務を課している(3条)。ただし、次の三要件を満たす場合には、免責するとしている。民法上の損害賠償責任に比べると、原則と例外が逆転しているのだ。その理由は、被害者保護と、自動車運送の健全な発達(1条)にある。

自賠法が定める免責の三要件は、次のとおりだ。
①自己及び運転者が注意を怠らなかったこと
②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと
③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと

ちなみに、自賠責保険制度を運営する損害保険料率算出機構が作成した統計情報によると、平成25年度の交通事故死者数は4373人、負傷者数は118万5334人、自賠責保険支払件数は死者について4125件、負傷者について78万1494件とのことである。つまり、自賠責保険の不払件数は死者248件、負傷者40万3840件となっている。負傷者についての不払い件数は年々増加傾向にあるが、死者についてはそうでもない。なお、自賠責保険の収支状況は、平成24年度末で類型5175億円の赤字ということである。

さて、藤田教授によれば、上記3要件のうち②「被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと」は自動運転自動車だからといって影響を受けるものではない。残りの①③のうち、①の「自己及び運転者が注意を怠らなかったこと」については、完全自動運転自動車については「もはや問題にならず、運行供用者・運転者が何もしなかったとしても注意を怠ったことにはならない」としている。つまり、完全自動運転自動車の場合、②の要件は常に満たされるということだ。

そして③の「自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと」については、3つの具体的設例を検討しつつ、かかる欠陥または障害がなかったと認められる場合もあろうとしている。たとえば、「前方トラックの荷台の乱反射を障害物と誤解したことにより、突然ブレーキが制動し急停車したため追突された」事例においては、「このような制動が行われる可能性は僅かであり、かつ、そのような制動は設計上避けがたく、しかも平均してみると事故防止あるいは損害軽減の効果が大きいという場合には、構造上の欠陥・機能の障害は認められないと考える余地があるかもしれない」とのことだ。

大変興味深い問題提起だとは思うが、その示唆するところについては、いくつか気になる点がある。

上記の例に即していえば、素朴な疑問として、「同じ事故を人間のドライバーが起こした場合はどうなるのか?」が思い浮かぶ。いうまでもなく、この場合に自賠責保険が免責されるということはあり得ない。同じ事故を起こし、被害者救済のため同じ法律が適用されるにもかかわらず、一般の自動車なら有責、完全自動運転自動車なら免責、という結論を取る解釈論は受け入れられないだろう。

また、上記の例に限らず、藤田教授の論考は、一般の自動車に比べ、自動運転自動車が事故を起こした場合の自賠責保険免責の範囲を広げることを指向しているように見受けられる。しかし、自動運転自動車が社会に受け入れられる一つの根拠は、安全すなわち事故率の低さにある。安全性を謳っておきながら、いざ事故を起こした場合の救済範囲が一般の自動車に比べて狭いということになれば、被害者側から見れば「自動運転自動車に轢かれた方が損」ということになる。そのようなことで、自動運転自動車が社会に受け入れられるのであろうか。

あるいは、藤田教授のご意見は、自賠責保険の免責範囲が広がる部分は、任意保険でカバーするからよい、ということかもしれない。だが、自賠責が免責なら、任意保険は当然免責になる。したがって、任意保険でカバーするということは、任意保険に無過失責任を導入することを意味する。偶然にも、同じ『ジュリスト』の特集で、東京海上日動火災保険株式会社の池田裕輔氏が、ドライバー無過失の場合でも支払われる保険新商品を紹介している。藤田教授も、自動運転自動車の事故について、任意保険を無過失責任化することによって被害者を救済するというお立場であるなら、それも一つのあり方だとは思う。ただし、任意保険である以上、未加入の場合は、被害者は自賠責からも保険金を受け取れなくなる。

藤田教授の考えを推し進めると、結局、自動運転自動車に轢かれた方が損の場合が発生する、という結論になるのではないか。この結論は、自動運転自動車の普及を妨げるベクトルとして働くのではないかと懸念される。

 

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