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2017年2月20日 (月)

カメラ画像利活用ガイドブックについて(2)

IoT推進コンソーシアムデータ流通促進ワーキンググループ(座長:森川博之東京大学教授)の下に設けられたカメラ画像利活用サブワーキンググループ(座長:菊池浩明明治大学教授)がとりまとめた『カメラ画像利活用ガイドブック』は、「適用ケース(2)」として、コンビニやスーパーなどの小売事業者において、来客が移動する画像を撮影し、顔画像から生成する特徴量データ、属性データや動線データ、購買行動データ生成に必要な情報を抽出したのち、速やかに撮影画像を廃棄するというものだ。個人情報となる属性データについても、店外へ出た時点で破棄することを前提にしている。

ガイドブックが想定する適用ケースは5つに分かれており、そのうち(1)と(2)が店舗内を撮影するものだ。とはいえ、この二つを片方だけ運用するとは思われず、両方を併用する店舗が大半となろう。

適用ケース(2)が適用ケース(1)と異なる点は、動線データ等を作成する必要上、顔画像等から生成した特徴量情報がそれなりに詳細になることと、その詳細なデータを、遅くとも客が店外に出るまではシステム内に保持する点である。

特徴量情報が単なる属性情報より詳細になり、個人の特定が可能なレベルになってくると、これが個人情報にあたるのかが問題となってくる。

この点、改正個人情報保護法は、「個人識別符号が含まれる」情報は個人情報にあたると規定し、「個人識別符号」の中には、「特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができ るもののうち、政令で定めるもの」と規定し、これを受けた改正個人情報の保護に関する法律施行令は、「顔の骨格及び皮膚の色並びに目、鼻、口その他の顔の部位の位置 及び形状によって定まる容貌」を「電子計算機の用に供するために 変換した文字、番号、記号その他の符号であって、特定の個人を識別 するに足りるものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に適合 するもの」が個人識別符号に該当すると規定し、その「基準」については個人情報の保護に関する法律施行規則案が、「特定の個人を識別することができる水準が確保されるよう、適切な範囲を適切な手法により電子計算機の用に供するために変換することとする」と規定し、「適切な範囲を適切な手法」の意味については、個人情報保護委員会の定める「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」が、「顔の骨格及び皮膚の色並びに目、鼻、口その他の顔の部位の位置及び形状から抽出した特徴情報を、本人を認証することを目的とした装置やソフトウェアにより、本人を認証することができるようにしたもの」と定めている。

ポイントは、「個人識別符号」の定義が、法律・政令・規則と、ガイドラインとでは異なっている点だ。法律・政令・規則では、「特徴量情報が客観的に特定の個人を識別できる」ものであれば個人識別符号に該当するのに対して、ガイドラインでは、「本人を認証することを目的とした装置やソフトウェアにより、本人を認証することができるようにした」ことが絞り込みの条件として加わっている。より具体的にいうと、絞り込みの条件は「認証目的」と「…にした」の2点であるが、重要なのは「認証目的」だ。

まず問題となるのは「認証」の意味だ。法律上の「認証」は、「公的機関が人や文書の公的地位や権限等を認定すること」を意味するが、上記ガイドラインの「認証」がこの意味とは思われない。ガイドライン上の「認証」は、「コンピューターやネットワークシステムを利用する際に必要な本人確認のこと」を意味するのだろう。いずれにせよ、「さっきビールを購入した客と、いま紙おむつを購入した客が同一人物である」程度の判断を行う目的は、「認証目的」には含まれないと考えられる。そうだとすれば、適用ケース(2)のように特徴量情報を用い、本人の特定に用いない場合には、個人識別符号を収集しているわけではないから、改正個人情報保護法の適用を受けないということになる。

特徴量情報が、単に客観的な個人特定性を備えるだけではなく、「認証目的…にした」要件を満たして初めて個人識別符号になると解釈する場合、問題となりうるのは「顔写真」とのバランスだ。顔写真は、現行個人情報保護法上、鮮明なものである以上は「個人情報」に該当しうるとされており、この解釈は、改正個人情報保護法でも維持されるものと思われる。しかし、当たり前のことだが、顔写真だけで特定の本人を識別することは、大半の場合、不可能だ。識別できるのは、著名人でないかぎり、本人か、その知人に限られる。著名人ではない市井の顔写真を渡されて、「どこの誰かを特定しなさい」と命じられても途方に暮れるだけだ。だが、「この写真の人間が目の前を通ったら報告しなさい」と命じられれば対応は可能である。つまり、「さっきビールを購入した客と、いま紙おむつを購入した客が同一人物である」か否かの判断を、顔写真で行えば個人情報保護法が適用され、特徴量情報を使って行えば適用されないことになる。この結論はいかにも不自然ではないだろうか。

個人情報保護委員会策定のガイドラインが、個人識別符号に「認証目的」との限定を付したことについて、板倉陽一郎弁護士は「(規則の)文言解釈の限界を超えている」と批判している(Business Law Journal 201612月号)。しかし、個人情報保護委員会の定めたガイドラインである以上、これを覆しうる機関は事実上存在しない。個人情報保護法という「業法」の限界といえるだろう。

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2017年2月13日 (月)

万引き犯写真の公開について

2月8日の毎日新聞によると、千葉市内の大手コンビニ店舗で、客の防犯カメラ画像に「万引き犯です」と書き加えたポスターが、2週間にわたり店内に張り出された。コンビニ本社は、外部から本社への指摘により、店舗に指示して剥がさせたという。

同日の産経新聞によると、神戸市のコンビニでも、「数カ月前から店内のトイレ付近に約20枚の(万引犯の)画像を張り出していた」という。

今回のコンビニの行為は、法律的に許されるのだろうか。

小野智彦弁護士は、「それくらいの見せしめは必要だと思いますし、貼り出した店側が法的責任を問われることはないと考えます。」と述べ、法律的には問題ないという見解だ。同弁護士によれば、名誉毀損の問題にはなりうるが、「誰が見ても万引き犯だと特定できるような不審な行動」が防犯カメラに写っていた場合には、名誉毀損の罪にも賠償責任にも問われないという。

一方、甲南大学法科院教授でもある園田寿弁護士は、名誉毀損の正当化事由である①公益性②公益目的③真実性の証明のうち、②公益目的を満たさない可能性があると指摘する。自力救済としても正当化できないし、「被害者自らが被害回復を行うことを無制限に認めることには、制度的なパニックを引き起こす危険性」すらあると述べる。

私は、今回のコンビニの行為は、違法ではないと考える。もっとも、社会的あるいは倫理的批判に値するか否かは別問題だ。

たとえば、営業時間外の店舗で侵入盗事件が発生したとする。店の防犯カメラには、レジから現金を取り出す瞬間の犯人が撮影されていた。店が、この写真を警察に提出するほかに、店舗の外壁に張り出した場合、この行為は違法になるだろうか。違法とする弁護士は、ごく少数と思われる。

この設例が違法にならないとするならば、冒頭のコンビニの事例は、「万引の瞬間が撮影されているか、または誰が見ても万引き犯だと特定できるような不審な行動が撮影されている場合」であるかぎり、違法にならないと考えるほかない。双方の店主の内心には、被害回復という私的目的や復讐心も含まれているかもしれないが、だからといって、「専ら公益を図る目的」がないとはいえないので、名誉毀損にはあたらないと考える。

では、犯人が逮捕され被害が回復された後も顔写真を張り出すことはどうか。報道によると、どこかの鮮魚市場では、「私は万引をしました」と書いた札を掲げた万引現行犯人の写真が複数枚掲示されているという。

この場合、改正個人上保護法(5月20日施行予定)が、「犯罪の経歴」を要配慮個人情報として特段の保護の対象にしていることは、同法が業法であって刑法上民法上の適法違法と直接の関係がないとはいえ、参考にされるべきであろう。他方、犯人検挙後の写真掲載であっても、同種犯罪の防止という公共性や公益目的はあろう。また、最高裁判所は、児童買春禁止法違反罪で略式命令を受けた男性が、氏名を検索すると表示される逮捕記事の削除をgoogleに求めた訴えを退けた。「(記事の削除請求は)当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」に限り認められるとする判決文から推測すると、万引犯の写真を逮捕後も当該店舗に掲示する限度においては、違法とされない可能性がある。

ところで、今回のコンビニ事件と類似したものとしては、2014年の8月、中古ショップ「まんだらけ」が万引犯の顔写真をネットに公開し、商品を返却しなければモザイクを外すと発表し話題になったことがある。このときは、警察の要請に基づき公開は行われなかった。また、2月9日の朝日新聞によれば、東京都のメガネ販売店が、万引犯と思われ男性の画像をホームページに掲載し、警察に出頭するか弁償しなければモザイクを外すと警告しているという。

これらの事例は、ネットでの公開である点が、コンビニ事件とは異なる。公開範囲が広い分、被撮影者の名誉やプライバシー権等に対する侵害が強いといえるが、検挙前である限り、犯人検挙という公益目的が認められるので、違法とまではいえないように思う。

もっとも、そう考えるなら、なぜ警察はモザイク外しの中止を要請したのか、が問題となる。おそらく、警察が守ろうとしたのは、被撮影者の人権ではない。「犯罪の捜査と検挙は警察が独占する」という価値観そのものと思われる。悪く言ってしまえば「縄張り意識」にほかならないが、この価値観が、わが国の秩序なり治安なりを守ってきたことも事実であろう。この価値観から、万引犯人写真の公開を批判する見解は、尊重に値するけれども、この批判は、あくまで社会的倫理的批判であって、法的批判(=違法だと批判すること)とはいえないだろう。

万引犯人の写真を公開することの是非をめぐる論争は、一見法的論争のように見えるが、その本質は、犯罪捜査を専ら警察に任せるべきなのか、被害者自身もある程度やってもよいのか、という社会政策的倫理的な問題に存する。その意味では、「(万引犯写真の公開を許すことは)制度的なパニックを引き起こす危険性がある」とする園田寿弁護士の指摘は、正鵠を射ていることになろう。

 

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2017年2月 6日 (月)

カメラ画像利活用ガイドブックについて(1)

IoT推進コンソーシアムデータ流通促進ワーキンググループ(座長:森川博之東京大学教授)の下に設けられたカメラ画像利活用サブワーキンググループ(座長:菊池浩明明治大学教授)がとりまとめた『カメラ画像利活用ガイドブック』が公開された。

このガイドブックは、主に以下の類型のカメラによって撮影された画像の利活用について、運営主体が行うべき準則を規定している。いいかえれば、下記の具体的事例に則したガイドブックであって、汎用性のあるものではない。

(1)閉ざされた空間(店舗等)に設置されたカメラで、入出の時点で、画像を取得し、特徴量データを抽出した後、速やかに撮影画像を破棄するもの。
(2)閉ざされた空間(店舗等)に設置されたカメラで、空間内を移動する画像を取得し、動線データの生成に必要な座標値を抽出した後、速やかに撮影画像を破棄するもの。
(3)屋外に向けたカメラで、通行する物体を、人・車等を識別し、カウントした後、速やかに撮影画像を破棄するもの。
(4)屋外に向けたカメラで、街中の看板・交通標識、及び道路の混み具合を識別し、これらの情報を抽出した後、速やかに撮影画像を破棄するもの。
(5)準公共空間(駅改札等)に設置されたカメラで、通行する人物を撮影し、アイコン化処理の後、速やかに撮影画像を破棄するもの。

筆者も上記サブワーキンググループのメンバーであったが、全4回の会議のうち最初と最後の2回にしか出席できず、内容の策定にはあまり関われなかった。そこで、罪滅ぼしというわけではないが、このガイドブックについて、コメントをしておきたい。

まず「適用ケース(1)」は、コンビニやスーパーなどの小売事業者において、来店者の人物属性(年齢・性別)を判別し、店内での平均滞在時間やレジ到達人数を予測し、従業員の効率的なオペレーション(レジが混雑しない時間帯にフロア業務を行うなど)を図る、という使用方法である。このケースにおいては、入店時の画像から属性に関する特徴量データを抽出し、速やかに撮影画像を破棄する、という。

適用ケース(1)の場合、顔画像から抽出される特徴量情報は性別や年齢(正確には年代であろう)といった抽象的なものであり、個人特定不能であるから、個人情報にはあたらない。プライバシー権の侵害にもあたらないと考える。

ここで議論になったのは、抽出する属性に人種を含めてよいか否かであった。私は含めてよいし、今後来日外国人が増えることを踏まえると含めるべきだと主張したが、大勢は反対だったようだ。反対の理由の一つは、人種が改正個人情報保護法の規定する要配慮情報に該当することにあった。だが、個人特定不能な情報なら、人種も個人情報にはあたり得ないのだから、要配慮情報に該当することもあり得ない。反対の意見として、「人種を理由に対応を変えることは、人種による差別につながるから許されない」というものがあった。それなら、性別による差別も許されないのだから、男女の属性をとるのも許されないとしなければ一貫しない。また、そもそも、店内の混み具合を予測して「店員の効率的なオペレーションを図る」というなら、来店人数だけ数えればよく、なぜ性別年代などの属性情報を抽出するのか、分からない。たとえば「女性は一般に滞在時間が長い」などの前提があるのかもしれないが、もしそうなら、外国人客の滞在時間も一般的には長いだろう。

適用ケース(1)には、「入り口で属性を取るだけで本当によいのか?」という問題もある。このケースでは「店内滞在時間」を計るというのだから、本来出店時も撮影し、突合しなければ滞在時間は計れない。あるいは、出店時は撮影せず、レジで店員が入力した客の属性情報と突合すればよく、何も買わずに出店した客は無視するという考えかもしれないが、この場合、入店時のコンピューターによるによる属性分類と店員の入力属性とが齟齬する、という問題が発生する。これを防ぐためには、レジでも撮影を行いコンピューターで属性分類を行う必要があるが、そのためには、特徴量情報を突合可能なレベルで残しておく必要がある。実際には、大概の店舗はそうするだろう。そうなると、「適用ケース(1)の特徴量情報は個人情報ではない」という前提が崩れる可能性が出てくるから、個人情報にあたる場合、あたらない場合に関する考察が必要になる。

以上をまとめると、適用ケース(1)は、設例としてやや中途半端感が否めない、ということになろう。

他の問題もあるが、それは適用ケース(2)に関する考察で触れることにしたい。

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