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2017年2月13日 (月)

万引き犯写真の公開について

2月8日の毎日新聞によると、千葉市内の大手コンビニ店舗で、客の防犯カメラ画像に「万引き犯です」と書き加えたポスターが、2週間にわたり店内に張り出された。コンビニ本社は、外部から本社への指摘により、店舗に指示して剥がさせたという。

同日の産経新聞によると、神戸市のコンビニでも、「数カ月前から店内のトイレ付近に約20枚の(万引犯の)画像を張り出していた」という。

今回のコンビニの行為は、法律的に許されるのだろうか。

小野智彦弁護士は、「それくらいの見せしめは必要だと思いますし、貼り出した店側が法的責任を問われることはないと考えます。」と述べ、法律的には問題ないという見解だ。同弁護士によれば、名誉毀損の問題にはなりうるが、「誰が見ても万引き犯だと特定できるような不審な行動」が防犯カメラに写っていた場合には、名誉毀損の罪にも賠償責任にも問われないという。

一方、甲南大学法科院教授でもある園田寿弁護士は、名誉毀損の正当化事由である①公益性②公益目的③真実性の証明のうち、②公益目的を満たさない可能性があると指摘する。自力救済としても正当化できないし、「被害者自らが被害回復を行うことを無制限に認めることには、制度的なパニックを引き起こす危険性」すらあると述べる。

私は、今回のコンビニの行為は、違法ではないと考える。もっとも、社会的あるいは倫理的批判に値するか否かは別問題だ。

たとえば、営業時間外の店舗で侵入盗事件が発生したとする。店の防犯カメラには、レジから現金を取り出す瞬間の犯人が撮影されていた。店が、この写真を警察に提出するほかに、店舗の外壁に張り出した場合、この行為は違法になるだろうか。違法とする弁護士は、ごく少数と思われる。

この設例が違法にならないとするならば、冒頭のコンビニの事例は、「万引の瞬間が撮影されているか、または誰が見ても万引き犯だと特定できるような不審な行動が撮影されている場合」であるかぎり、違法にならないと考えるほかない。双方の店主の内心には、被害回復という私的目的や復讐心も含まれているかもしれないが、だからといって、「専ら公益を図る目的」がないとはいえないので、名誉毀損にはあたらないと考える。

では、犯人が逮捕され被害が回復された後も顔写真を張り出すことはどうか。報道によると、どこかの鮮魚市場では、「私は万引をしました」と書いた札を掲げた万引現行犯人の写真が複数枚掲示されているという。

この場合、改正個人上保護法(5月20日施行予定)が、「犯罪の経歴」を要配慮個人情報として特段の保護の対象にしていることは、同法が業法であって刑法上民法上の適法違法と直接の関係がないとはいえ、参考にされるべきであろう。他方、犯人検挙後の写真掲載であっても、同種犯罪の防止という公共性や公益目的はあろう。また、最高裁判所は、児童買春禁止法違反罪で略式命令を受けた男性が、氏名を検索すると表示される逮捕記事の削除をgoogleに求めた訴えを退けた。「(記事の削除請求は)当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」に限り認められるとする判決文から推測すると、万引犯の写真を逮捕後も当該店舗に掲示する限度においては、違法とされない可能性がある。

ところで、今回のコンビニ事件と類似したものとしては、2014年の8月、中古ショップ「まんだらけ」が万引犯の顔写真をネットに公開し、商品を返却しなければモザイクを外すと発表し話題になったことがある。このときは、警察の要請に基づき公開は行われなかった。また、2月9日の朝日新聞によれば、東京都のメガネ販売店が、万引犯と思われ男性の画像をホームページに掲載し、警察に出頭するか弁償しなければモザイクを外すと警告しているという。

これらの事例は、ネットでの公開である点が、コンビニ事件とは異なる。公開範囲が広い分、被撮影者の名誉やプライバシー権等に対する侵害が強いといえるが、検挙前である限り、犯人検挙という公益目的が認められるので、違法とまではいえないように思う。

もっとも、そう考えるなら、なぜ警察はモザイク外しの中止を要請したのか、が問題となる。おそらく、警察が守ろうとしたのは、被撮影者の人権ではない。「犯罪の捜査と検挙は警察が独占する」という価値観そのものと思われる。悪く言ってしまえば「縄張り意識」にほかならないが、この価値観が、わが国の秩序なり治安なりを守ってきたことも事実であろう。この価値観から、万引犯人写真の公開を批判する見解は、尊重に値するけれども、この批判は、あくまで社会的倫理的批判であって、法的批判(=違法だと批判すること)とはいえないだろう。

万引犯人の写真を公開することの是非をめぐる論争は、一見法的論争のように見えるが、その本質は、犯罪捜査を専ら警察に任せるべきなのか、被害者自身もある程度やってもよいのか、という社会政策的倫理的な問題に存する。その意味では、「(万引犯写真の公開を許すことは)制度的なパニックを引き起こす危険性がある」とする園田寿弁護士の指摘は、正鵠を射ていることになろう。

 

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コメント

前回のコメ承認の早さには驚きました(苦笑)

さて、結果的にはその縄張り意識云々論が案外的を射たのかもしれませんが、今後ネット時代だから何を公開してもかまわないという短慮が増加するのでは!?という危惧はむしろ高まったように感じています。例えば、犬猫の糞害に苦しむ人が、特定画像を公開してもいいのか?騒音迷惑問題しかり、あるいは施設管理権なる概念を振りかざして、意図的に顧客を排除すべくの警告として、「公開」してしまうかも。話はやや逸れますが、ことさらに東京圏でのエスカレーター右空けに代表されるような偽マナーの暗示にかかっている昨今からすると、かなり怪しいものです。法律論社会規範論も、すべからく有史以降の流れで醸成されたものですが、何を善悪とするのかが、やはり全ての源でしょう。今後の筆致に期待しています。

投稿: やっこさん | 2017年2月16日 (木) 10時07分

普通に生活できません
食品ネットで購入してます
怖いです

投稿: 匿名でごめんなさい | 2017年2月17日 (金) 04時36分

画像公開が、どんどんエスカレートしていますね。
今度は、マクドナルドが暴言を吐いたお客を
犯罪者呼ばわりして公開してましたね。

店側の良識を疑いますね。
滅茶苦茶としか言いようがありません。
さらし者にしてるだけで、何にも意味がないと思います。

でも店側の行き過ぎた行為が、暫く続くんでしょうね。

しかし、「万引被害で倒産する小売店」が後を絶たないという事ですが
もっと具体的にどこの店か、写真を公開して欲しいですね。
そして、経営状態をもっとハッキリ提示して欲しいですね。

投稿: | 2017年2月21日 (火) 23時30分

自力捜査、自力救済が行われている。危険な行為だ。

高額な防犯機器 防犯カメラを所有している企業だけが一方的にこの権力を行使できることが問題だ。
防犯カメラや警備機材販売企業による思想の誘導に注意し社会市民一人一人がしっかり考えることが大切。

投稿: 高額な防犯カメラ | 2017年3月 7日 (火) 11時02分

万引犯の写真を店頭に張り出したり、ネットで公開する事で
万引防止しようというのは、費用が安くて済むからでしょうね。

プリントアウトして貼るだけ。
HPなんてどこの店でも持っている時代ですから
本当にカンタンです。ほとんどお金はかかりません。

抑止力になるからと、もっともらしく言ってますが
お金をかけず、対策したいだけでしょう。

店の入口に、カバンやコートを預けるコインロッカー(コイン返却式で)や
手荷物預かり所を設けるなど、やろうと思えばやれる対策はある筈です。

でもそれをしないのは、売場面積が減るとか
ショッピングカートを置くスペースが減るとか
新たに設備投資が必要となるからでしょう。

「めがねおー」で万引された金額は20数万円から50万円と
テレビ局によって、バラバラで正確には分かりませんが。

一方、全国ニュースで、名前と顔を放送されてしまった万引犯が
支払った代償は、測りしれないでしょう。
まだ20代前半の彼ですから、これからまだまだ働ける年齢です。
でもこれから、おそらくまともな仕事なんて見つからない可能性が高いでしょう。
きっと生涯収入1人分ではないでしょうか?

安いアルバイトで年収200万円稼いで、40年働いたとして
年収200万円x40年=8000万円です。
でも、あの万引犯の彼には、こんな安いアルバイトの口でさえ
見つかるかどうか分からないでしょう。

スーパーやコンビニや個人商店は、自分たちの利益や損害ばかり
訴えていますが、その被害を抑えられるように、
十分費用をかけて対策を取っていないように思います。

安易にお客の写真をさらす前に出来る事はある筈です。

商売人の風上にも置けない。恥を知れ!


投稿: | 2017年3月 7日 (火) 11時26分

万引犯の写真を店頭に張り出したり、ネットで公開する事で
万引防止しようというのは、費用が安くて済むからでしょうね。

プリントアウトして貼るだけ。
HPなんてどこの店でも持っている時代ですから
本当にカンタンです。ほとんどお金はかかりません。

抑止力になるからと、もっともらしく言ってますが
お金をかけず、対策したいだけでしょう。

店の入口に、カバンやコートを預けるコインロッカー(コイン返却式で)や
手荷物預かり所を設けるなど、やろうと思えばやれる対策はある筈です。

でもそれをしないのは、売場面積が減るとか
ショッピングカートを置くスペースが減るとか
新たに設備投資が必要となるからでしょう。

「めがねおー」で万引された金額は20数万円から50万円と
テレビ局によって、バラバラで正確には分かりませんが。

一方、全国ニュースで、名前と顔を放送されてしまった万引犯が
支払った代償は、測りしれないでしょう。
まだ20代前半の彼ですから、これからまだまだ働ける年齢です。
でもこれから、おそらくまともな仕事なんて見つからない可能性が高いでしょう。
きっと生涯収入1人分ではないでしょうか?

安いアルバイトで年収200万円稼いで、40年働いたとして
年収200万円x40年=8000万円です。
でも、あの万引犯の彼には、こんな安いアルバイトの口でさえ
見つかるかどうか分からないでしょう。

スーパーやコンビニや個人商店は、自分たちの利益や損害ばかり
訴えていますが、その被害を抑えられるように、
十分費用をかけて対策を取っていないように思います。

安易にお客の写真をさらす前に出来る事はある筈です。

商売人の風上にも置けない。恥を知れ!


投稿: | 2017年3月 7日 (火) 11時27分

「防犯カメラの画像無断公開・流出 終わりなき戦い」
防犯カメラの画像公開、個人情報流出の被害に遭う市民が後を絶たない。今や無関心でいられる消費者は少ないだろう。
危ういのが「防犯担当管理部門が管理している」と高をくくることだ。
防犯カメラの画像無断利用、顔画像個人情報の流出は全企業で備える危機管理そのもの。
万引き冤罪被害者は「会社法上の責任」と警鐘を鳴らす。

投稿: harukaze | 2017年3月13日 (月) 11時57分

 逆転無罪判決

「防犯カメラの映像」により 2012年他人が銀行内に置き忘れた現金6万6600円入りの封筒を盗んだとして窃盗罪に問われた元アナウンサーの上告審で最高裁第2小法廷は3月10日 逆転無罪とする判決を言い渡した。

 無罪が確定する

投稿: 小梅 | 2017年3月13日 (月) 12時05分

防犯カメラによる、誤認逮捕も後を立たないのでは?

「他人の空似」という事もあるでしょう。

また「盗ったように見えた」というだけで、容疑をかけられる場合もある。
防犯カメラの映像を見せられ、「商品を万引したように見える」と
言いがかりをつけられ、「今、代金を払えば、警察には黙っておく」と
あたかも「ゆすり、又は脅迫」のように、脅され、仕方なく金を払ったという
書き込みをネット上で見た事があります。

店側に自由にさせておいては、日本の犯罪の取り締まりは
滅茶苦茶になるとしか思えません。

「私人逮捕は現行犯のみ」という原則に帰るべき。

「証拠とは何か?」という事についても
店側の人間に教育してやるべきだと思います。

「店員の単なる思い込み」で、犯罪者にさせられるのは御免こうむりたい。

投稿: | 2017年3月14日 (火) 15時03分

「 相手が犯罪者なら、何をしてもいいのですか?」

ある司会者が、
過激な発言で有名な「そこまで言って委員会」という番組で
「こんな万引繰り返す奴は、十分窃盗犯だ。
こんな奴の写真はドンドン公開して懲らしめてやればいいんだ」
と言っていました。

この奴というのは、めがねを万引した男の事ですが
いくら犯罪者であっても、どんな目に遭わせても良いという訳ではない筈。
こんな有名司会者が、テレビ番組で大きな声でこんな風に言ってしまうなんて。
ネットや店頭で公開される写真が増えるのではないでしょうか。

「抑止力になるから、良いんだ」

ちょっと待って下さい。
万引抑止力キャンペーンに、万引した男の写真を無断で勝手に使用したという事?

犯罪者だからって
(しかも疑惑をもたれているだけで、まだ有罪と確定していない)
無断で勝手に、写真を使用しても良い訳ではないですよね?

犯罪者を庇うつもりは毛頭ありませんが
やっぱり、万引犯の写真を公開するのを
店側の自由にさせてはいけないと思う。

店側が、
警察のように、勝手に手配写真を作って公開し、
裁判官のように、勝手に有罪と決めつけているとしか思えません。

こんな事、許していて良い訳がない。


投稿: | 2017年3月14日 (火) 15時04分

「問題のある生徒の情報共有 埼玉の中学校 自治会長などに資料配布」 

子供たちの心と未来の破壊行為
防犯という名の下 反社会的行為が暴走している
一度社会的信用を失えば 兄弟、親戚をも巻き込んで一生涯苦しむことになる。
進学 アルバイト 就職 結婚 交友関係 これらにおいて障害が付きまとうのだ。
過剰な防犯による犯罪

投稿: 心 | 2017年3月16日 (木) 12時53分

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