GPS捜査に関する最高裁大法廷判決について
3月15日の最高裁大法廷判決は、令状なくGPS装置を被疑者等の自動車等に取り付けて位置情報を把握する捜査手法について、令状主義に反し違法とした。
判決は、GPS捜査は、「その性質上,公道上のもののみならず,個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて,対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るものであり,また,そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において,公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり,公権力による私的領域への侵入を伴うものである」と判断した。そして、憲法35条は私的領域に侵入されることのない権利を保障しているのであるから、GPS捜査は「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法」である以上、憲法35条の趣旨に照らし、令状なしには許されない強制処分にあたるとした。
前回のエントリで、最高裁はGPS捜査を違法とまでは断じないだろうとした予想は外れたことになる。ここまで端的に、しかも全員一致で違法と断じるとは思わなかった。
もっとも、私自身は、判決の理由は物足りないと考える。判決は、憲法35条の「侵入」を私的領域への侵入とすることにより、現行法制度と整合的な解釈論を展開したともいえるが、その結果、より警戒すべき電子監視一般に関する見解を述べるに至らなかったからだ。
すなわち、判決はGPS端末という物的装置を、自動車という私有物に装着することが、「私的領域への侵入」であることをとらえて、憲法35条の要求する令状主義に服するとの理論を展開している。しかし、この理論からすれば、物的装置を被疑者等の私物に装着しさえしなければ、令状主義には違反しないとの反対解釈を導きかねない。具体的には、街中の監視カメラと顔認証技術を使って追跡しても、違法ではないとの結論になる可能性がある。また、ドローンを使って四六時中追跡することも、違法でないとの結論になりかねない。道路中にNシステムを設置して、被疑者の乗る自動車のナンバーを追跡することが合法なら、(より少ない予算で同じ効果を得られる)GPS捜査はなぜ許されないのかと、警察側は思うだろう。
実は、2012年1月23日にアメリカ連邦最高裁判所におけるUnited States v Jones判決において、全く同じ議論がなされている。
この判決は、麻薬不法取引の捜査のためGPS装置を自動車に装着し4週間にわたり被疑者の位置情報を追跡した事案について、連邦最高裁判所の担当判事は、いずれも捜査が違法との判断を行ったが、その理由付けは大きく二分されていた。
一方の意見を述べたスカリア判事は、「本件では政府が情報を収集する目的で私有財産を物理的に占拠した。このような物理的な侵害が、修正第4 条の採択時に意図されていた『捜索』とみなされることには、疑いの余地がない」と述べた。
これに対してアリート判事は、スカリア判事の意見には「4 点の問題点がある。第1 に、GPS 装置の取り付けを重視しすぎて何が本当に重要かを看過していることである。(スカリア判事の)意見は、長期間にわたるGPS 監視装置の使用よりも、運転それ自体には軽微な影響しか与えない物理的な装置の取り付けを重視している。捜査官がGPS装置を取り付けると修正第4 条違反になるのに、連邦政府が自動車メーカーに対してGPS 装置をあらかじめすべての車に取り付けることを要求または要請した場合、最高裁の理論は何の保護も与えないことになる。第2 に、警察がGPS 監視装置を取り付けてほんのわずかな間使用しただけでも修正第4 条違反になるのに、警察が長期間にわたって覆面パトカーで追跡して監視し空からの監視の援助も受けたとしても、この監視は修正第4 条の問題にならない。第3 に、(スカリア判事の)理論では、州によって適用が異なることになる。(中略)第4 に、法廷意見の理論は物理的な手段を伴わず、純粋に電子的な手段によって監視が行われた場合には適用できない。」
ところで、Nob’s Blogによれば、「2012年8月14日、米国第6巡回区控訴裁判所は、警察が、令状によらずに、容疑者の携帯電話から発するGPSの信号を追跡して位置情報を確認することは、修正4条に違反しないと判断した。上記のJones事件とは異なり、物理的な侵入を伴っていないこと及び位置情報の利用を本人が許諾している点が、GPSによる追跡がプライバシーの合理的な期待を裏切るものではないという結論の理由としてあげられている」とのことである。携帯電話のGPS信号を追跡する捜査は、日本では令状を取って行われている(ことになっている)ので、米国と一律に同視することはできないが、この判決はアリート判事の懸念を早速目に見える形で提示したことになろう。
なお、上記アメリカ最高裁判決文の訳文は、湯淺墾道情報セキュリティ大学教授による『位置情報の法的性質―United States v. Jones判決を手がかりに―』からの引用(一部省略等した)である。この論文は、とてもわかりやすくまとまっているので、興味のある方は是非ご参照いただきたい。
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