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2017年6月30日 (金)

停止中のカメラは停止中であることを示す必要があるか

以前のエントリに記したとおり、個人情報取扱事業者は、取得した(する)個人情報の内容を、本人に通知または公表しなければならない。このことは、個人情報保護法に明記されていないが、当然のことである。規定がないのは、会員登録やアンケート・応募用紙の投函等の場合、提供する個人情報の内容を、本人自身が承知しているからに過ぎない。したがって、カメラ等、取得される個人情報の内容を本人が知らない場合には、原則に戻って、取得した(する)個人情報の内容を、本人に通知する義務が発生する。

とはいえ、具体的にはいろいろな問題がある。たとえば、カメラの中には、およそ個人情報を取得しないものがある。たとえば、極端に低解像度のカメラ、温度や光量、混雑度合だけをセンシングしているカメラのような場合である。

個人情報を取得していないカメラについて、その運用者は、「個人情報を取得していない」という事実を告知・公表する義務はあるだろうか。

NICT(独立行政法人情報通信研究機構)大阪駅実験に関する報告書は、改正個人情報施行前、設置されたカメラが撮影した画像を直ちに破棄することから、個人情報を取得したとはいえないのではないか、との疑問に対し、「カメラの設置、撮影、記録に関する 事実関係が被撮影者に事前に説明されることなく、またはその 事実関係が外形上不明である場合は、カメラで撮影された情報 は、『個人情報』として取り扱われるべきであろう。」と述べた。この部分を担当したのは私ではない。私としては、個人情報を一切取得していないカメラについて、その旨を告知する義務を負わせるのは、個人情報保護法の解釈としては無理だと考える(もっとも、大阪駅の事案については、カメラが画像の代わりに取得する特徴量情報が個人情報に該当することについて、現行法上は決着がついている)。

同様の議論は、稼働停止中のカメラについても成立する。カメラを向けられている人からすれば、そのカメラが撮影中なのか、稼働停止中なのかは分からない。そのため、稼働停止中であっても、撮影中であることを前提とする振る舞いをすることが合理的選択となる。その結果として、「やりたいことがやれない」という萎縮効果(パノプティコン効果)が発生するとも言われている。また、カメラが稼働中であろうがなかろうが、カメラを向けられている人に対して、一種の不安や嫌悪感を与える、という指摘はありうるだろう。上述した大阪駅事件の第三者委員会内においても、「カメラが撮影中か否か分かるように、リボンや看板で明示するべきである」との議論があった。その趣旨は理解できるが、これらの問題を個人情報保護法の解釈によって図るのは、やはり法文の限界を超えており、難しいと思う。

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2017年6月27日 (火)

人間は、人工知能の未来予測に異を唱えられなくなる。

6月25日のNHKスペシャル『人工知能 天使か悪魔か2017』は昨秋に引き続き、大変興味深い番組だった。

 

番組は、佐藤天彦名人と将棋ソフトポナンザとの電王戦を縦軸に、タクシーの配車、再犯・退職予測、株取引など、主として未来を予測する人工知能を紹介し、これらが既に社会のそこかしこに導入されつつある有様を示している。将棋の世界では、既に人間の知力を上回った人工知能だが、日常業務の中でも、その道のベテランですら一目置く存在になっていることが分かる。

 

人工知能は人間を超えるのか?という議論はなされて久しいが、どの分野で人間より優れた能力を備えたらいいのか?という議論はあまり聞かない。しかし、人間より速く走る機械、人間より力の強い機械はとっくの昔に実用化されているし、人間より計算の速いコンピューターや、人間より記憶力の優れたコンピューターも、普通に普及しているが、それをもって、機械やコンピューターが人間を超えたと言う人はいない。だが、コンピューターが人間より確実に未来を予測するようになれば、そのときをもって、人工知能が人間を超えた、と言ってよいのかもしれない。そのときは、分野にもよるが、2045年よりかなり前に訪れるだろう。

 

ところで、未来予測には間違いがつきものだ。人工知能がどれほど優れたものになったとしても、未来予測の間違いは起きるだろう。人工知能が未来予測を間違ったとき、誰が責任を負うのか、という問題が発生する。NHKの特集は、「人間の人生を決める人工知能が再犯率の予測を間違ったら、誰が責任を取るのか?」と疑問を呈する、模範囚でありながら人工知能に仮釈放相当との判断をしてもらえない米国人の言葉を紹介していた。

 

これに対する答えとして、番組は、「最後に決断するのは人間だ」という羽生善治の言葉を紹介している。

 

しかし、この答えは「逃げ」だと思う。人工知能が進化すれば、人間は間違いなく決定権を失うことになる。

 

たとえば、人工知能が進化して、統計的には、8割の的中率で未来予測ができるようになったとする。ある会社の経営会議で、ABいずれの経営方針を採用するかが議題となったとき、A案を支持する人工知能に対して、あなたは、A案を支持するだろうか、それとも、B案を支持するだろうか。なお、あなたは心の中では、A案もB案も的中の確率は五分五分と考えていたとする。

 

正解は「支持する」だ。なぜなら、統計的に見て、その人工知能の意見は的中する可能性が8割ある。もし的中しなくても、悪いのは人工知能であって、支持したあなたではないから、あなたの社内での地位は安泰だ。一方、人工知能に逆らってB案を支持した場合、あなたの意見が的中する可能性は統計上2割しかないうえ、会社がB案を採用して失敗した場合の責任はあなたが負うことになる。つまりクビになる確率は、B案を支持した方が遙かに高い。だから、社員の合理的選択は人工知能の推すA案支持となる。そこには、もはや人間の決定権は存在しない。

 

NHKの特集は、人工知能研究の第一人者ベン・ゲーツェル氏を招聘して政治的意思決定を人工知能に委ねようとしている韓国議会の取り組みを紹介していた。ベン・ゲーツェル氏は、「人工知能は意見を言うだけで、決定するのはあくまで人間だ」と述べていたが、上述したとおり、統計的に「正しい」政治判断を行う人工知能が実現したならば、人間は選択権を失うだろう。

 

人工知能に政治決定を委ねた世界は、統計的には、現代社会よりも平和で幸福になるかもしれない。だが、政治的選択を人工知能に委ねることは、政治的選択を神託に委ねることと、何が異なるのだろう。

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2017年6月26日 (月)

取得した(する)個人情報の告知・公表について

個人情報保護法18条1項は、「個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用 目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又 は公表しなければならない。」と定めている。2項は、締結した契約書等に記載された個人情報を取得する場合には、「あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。」と定めている。つまり、利用目的を通知公表するタイミングは、契約書締結の場合を除けば、事後でもよい。

では、本人に通知または公表するのは、目的だけでよいか。あなたがウィンドショッピングをしていたところ、店員が近づいてきて、突然こう話しかけてきたらどう思うだろうか。

「お客様、あなたの個人情報は、〇〇の目的に利用しますので、あしからずご了承ください。では、ごきげんよう。」。

いやちょっとまて、とあなたは思うだろう。その店員にいろいろ言いたいことは出てくるだろうが、まず尋ねるべきことは何だろうか。「私の個人情報だって?何を取得したんだ。」だろう。

個人情報保護法上、個人情報取扱事業者が本人に通知または公表しなければならないのは、利用目的だけのように見える。しかし利用目的を通知する以上は、当然、取得した(する)個人情報の内容を通知または公表しなければならない。そのことが法文に書いていないのは、会員登録させたり、アンケート用紙や応募用紙を投函させたりする等の場合、提供した個人情報(たとえば氏名や住所、生年月日など)は何かを本人が承知しているので、あえて告知・公表を義務づけなくてよいからである。

しかし、取得された個人情報が何かを、本人が分からない場合もある。カメラがその典型だ。かつては、カメラは画像を撮影するものと決まっていたが、現在は違う。放熱量や放射線量を記録しているかもしれないし、歩容や虹彩を記録しているかもしれない。このように、取得された個人情報が何かを、本人が分からない場合においては、個人情報取扱事業者は本人に対して、いかなる個人情報を取得した(する)のかを、告知または公表しなければならない、と解するべきであろう。

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2017年6月21日 (水)

次年度日弁連会長選挙に風雲

20182月に予定されいてる日弁連会長選挙へ向け、水面下で新たな動きが始まっている。

日弁連(正式名称は日本弁護士連合会)会長の任期は2年。20184月に任期が始まる新会長の候補者選びは、前年の夏から実質的に始まる。ここ数回は、いわゆる主流派と呼ばれるグループが推す候補と、左派勢力が推す候補の一騎打ちとなり、主流派がほぼ倍の得票数で当選してきた。

「台風の目」となっているのは東京弁護士会の御池ゆり子弁護士。弁護士登録15年目の若手だ。彼女が事実上の立候補宣言を行った際に掲げた公約「日弁連が貸与金を立替返済しよう!」が、主流派に衝撃を与えている。

司法試験に合格し、裁判官・検察官・弁護士を目指す司法修習生には、修習期間中は公務員とみなされ、給費が支給されてきた。しかし、司法制度改革により合格者が大幅に増やされることになったため、2011年から給費制が廃止され、希望者に国が生活費を貸し付ける貸与制度が導入された。しかし、司法試験合格者の急激な増加は弁護士過剰をもたらし、就職難の結果、法曹志望者は激減。苦肉の策として、2017年度の司法試験合格者から、給費制が事実上復活することとなった。しかし、2016年までに合格した修習生の貸与金返済義務は免除されず、「谷間の世代」と呼ばれることになった。

貸与金は、修習終了後6年目から5年間に分割して返済することができ、利息は付されない。「谷間の世代」の筆頭となる2011年合格組の返済は、20187月に開始される。御池ゆり子弁護士は、給費制復活運動にかかわってきた中で、「日弁連が谷間の世代を見捨てることは許されない」と考え、「主流派が見捨てるなら」と、日弁連会長への立候補を決断したという。

「谷間の世代」は、当然大歓迎だ。日弁連によれば、「谷間の世代」11000人のうち、貸与金の返済義務を負うのは約8000人。全弁護士数(42000人)の5分の1足らずとなる。一見少数派に見えるが、日弁連会長選挙の投票率は近年5割前後であり、前回の投票者総数は17645人。「貸与金返還義務のない弁護士の同情票もある。『谷間の世代』11000人と同情票が結びつけば、会長選挙の主導権は完全に奪われる。」と、取材に答えた日弁連主流派幹部は匿名を条件に、危機感をあらわにした。

対する日弁連主流派としては、給費制の復活と貸与金の返済免除を訴えてきた立場上、貸与金の立替払いを頭から否定することはできない。しかし、「谷間の世代」が負担する貸与金返還債務の総額は150億円以上とも言われ、日弁連の予算規模で全額立て替えることは「およそ不可能だし、もし立て替えるなら会費の大幅な増額は必至だが、会員一人あたり40万円の会費負担増は論外。かといって、(貸与金の立替返済を)頭から否定すれば、『谷間の世代』との間に、修復不可能な亀裂を生むだろう」(日弁連主流派幹部)。そのため、日弁連主流派としては、「まずは返済免除を目標に、政府と真摯に交渉する。日弁連が立替払いに踏み切るか否かは、政府との交渉次第」と及び腰だ。

一方御池ゆり子弁護士の鼻息は荒い。「(5年の分割返済なので)20187月からの1年間の返済額は総額でも5億円。これなら日弁連が負担することは可能。日弁連は、まず身を切る覚悟を示してから、国との交渉に臨むべき。もし150億円を日弁連が負担することになったとしても、(6世代が5年目から順に弁済していくので)一年あたりにすれば、日弁連に出せない金額ではない。会費の値上げは絶対しない」と主張する。

日弁連に詳しい小林正啓弁護士のコメント「今後の見所は、『あの人』が御池弁護士を応援するか否かでしょうね。応援すれば、日弁連主流派にとっては、悪夢の再来となるでしょうが、毀誉褒貶のある人なので、裏目に出る可能性も大。『あの人』は誰かって?それはもちろん(爆発音。以下聴取不能)」

注:このエントリはフィクションです。

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2017年6月19日 (月)

「防犯カメラ」の二つの意味について

個人情報保護法は、取扱事業者に対して、個人情報の利用目的を「できる限り特定しなければならない」し、「予めその利用目的を公表する」か「速やかに、その利用目的を本人に通知し又は公表しなければならない」と義務づけている。そのため、街頭などにある一般的な防犯カメラについては、「防犯カメラ作動中」などの張紙がなされている。

だが、「防犯カメラ」の目的は「防犯」ではない。厳密に言えば、直接的な、あるいは第一次的な目的ではない。

なぜなら、防犯とは、犯罪が起きる前に、犯罪を防止することだからだ。犯罪が起きた後の対応を防犯とはいわない。この違いは、「防火」と「消火」の違いと同じだ。

防犯カメラの目的は、犯罪を記録し、その記録を犯罪捜査や司法手続きの証拠とすることにある。そこから派生して間接的又は二次的に犯罪者に萎縮効果を与えて犯罪を予防することもあるが、これらは直接的あるいは第一次的目的ではない。従って、個人情報保護法上「できる限り特定しなければならない」防犯カメラの利用目的は、本来、「犯罪の記録と証拠化」であるべきだ、ということになる。

ただ、この点について特段文句も出ず、「防犯カメラ」との呼称が受けいれられているのは、「防犯」の意味の中に、「犯罪の記録と証拠化」が含まれるという社会的合意が存在するからである。

ところで、以前のエントリで紹介した最新型の防犯カメラシステムは、万引犯の画像をあらかじめ登録しておき、犯人が来店すると警報を鳴らす。これは、犯罪の発生をあらかじめ防止するものだから、言葉本来の意味での「防犯カメラ」ということになる。

すると結局、従来型の一般的な「防犯カメラ」と、最新の「防犯カメラ」システムは、同じ「防犯」目的を掲げているものの、その機能や、個人情報の利用のありかたは、全く異なる、ということになる。

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2017年6月14日 (水)

テロ等準備罪で初の逮捕者

警視庁は14日、新設された共謀罪(テロ等準備罪)の容疑で、58歳の男性二名と、数人の男女を逮捕したと発表した。

発表によれば、男性二名と数人の男女は、雑居ビルの一室において、傷害の謀議を行っていた。一人が集団による暴行を提案したところ、他のメンバーが鋭利な刃物で傷つけた方がよいと提案し、全員が了承したため、共謀罪の成立を認めて逮捕したという。

当時隣室にいて逮捕までの一部始終を目撃した女性(18歳)によると、男女6名のうち一人の男が「今からそいつを 殴りに行こうか」と提案すると、他の男が「いっそ激しく切ればいい」と応じ、そして部屋の全員が賛同して「やあ やあ やあ」と叫ぶ声を聞いたという。

 

テロ等準備罪に詳しい小林正啓弁護士(大阪弁護士会)のコメント「JASRACさん、許してください」

 

このエントリはフィクションです。実在の個人や団体、歌曲とは何の関係もありません。

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