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2017年7月 5日 (水)

70期司法修習生に贈った言葉

6月末、司法修習委員会の副委員長として、弁護修習を修了した70期司法修習生に対して挨拶を述べた。そのとき言ったことを、記しておく。

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弁護修習の修了おめでとうございます。これで皆さんは、刑事裁判修習、検察修習、弁護修習を終え、裁判所、検察庁、弁護士を一通り回ったことになります。

この機会に、一つ考えてほしいことがあります。皆さんは、裁判所でも、検察庁でも、修習先の法律事務所でも、たいへんよくしてもらったことと思います。でも不思議だと思いませんか。皆さんの大半は、弁護士になるのに、裁判官も検察官も、親身になって、実務を教えてくれたり、内部事情を見せてくれたりしたことと思います。

それは、修習担当の弁護士も同じです。皆さんは、その事務所に就職するわけでもないのに、担当の弁護士は、忙しい時間を割いて、様々な経験をさせてくれたことと思います。もちろん無償です。考えてみれば、不思議なことだと思いませんか。

私は皆さんに恩を売っているわけではありません。私たちも、同じことを先輩にしてもらったのですから。でも、このような好意は、なぜ先輩から後輩に受け継がれているのでしょうか。そこを不思議に思ってほしいのです。

司法修習生になった者に対して、その志望にかかわらず、裁判所、検察庁そして弁護士会が共同して指導することを「統一修習」といいます。この制度は、昭和22年に始まりました。同時に、司法修習生に対する給費制も始まりました。これらの制度設計を行ったのは、内藤頼博という裁判官です。日本の財政が破綻していた当時のことですから、民間人となる弁護士にまで国費で修習を行い給費まで支給することについては、大蔵省が頑強に抵抗しました。内藤頼博裁判官は、これを押し切って統一修習と給費制を導入したのです。

もとより、大蔵省の抵抗を抑えたのは、内藤頼博裁判官一人の功績ではありません。その背後にはGHQがいました。そして、GHQが日本政府の決定に介入できた法的根拠であるポツダム宣言には、「日本の民主主義的傾向を復活すること」と書いてあります。つまり、GHQは、日本の民主主義的傾向を復活させるために、統一修習と給費制を導入しようとする内藤頼博裁判官を後押しした、ということになります。

皆さんには、ここで新たな疑問を持ってほしいと思います。GHQが日本の民主主義的傾向を復活するというのは分かる。でも、そのために例えば普通選挙制度を導入するというのならともかく、統一修習や給費制度が、日本の民主化と何の関係があるのか、という疑問です。

私は、その正解を申し上げるつもりはありません。ここで申し上げたいのは、第一に、GHQと内藤頼博裁判官、そして、戦後の司法改革を実践した法律家たちは、その疑問に対する答えを明確に持っていた、という点です。第二に、その答えは、われわれ現代の法律家の間では、すっかり失われてしまった、ということです。

われわれは、統一制度と給費制がなぜ日本の民主化のため必要なのか、その答えを忘れてしまいました。しかし、それで別に困りませんでした。なぜなら、先輩から受け取ったものを、後輩に受け継いでいけば、それでよかったからです。

しかし、皆さんは違います。皆さんは、われわれ先輩から何かを受け取るでしょうが、それを後輩に受け継ぐことは、おそらくありません。皆さんがわれわれの立場になるころ、司法修習制度は、残っていたとしても、現在の姿ではありません。内藤頼博裁判官らが導入した司法修習制度は、崩壊しつつあります。そのことは、給費を受けることのできなかった皆さんが、肌で理解していることと思います。

皆さんは、先輩から受け取ったものを、後輩に受け継ぐことのできない世代として、是非、これらの疑問の答えが何か、考えてください。戦後の司法修習制度が終わりを迎えつつある今、皆さんの世代に課せられた使命であると考えます。

 

 

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コメント

昨今ブームの猫。
一方で、糞による被害の近隣住民の沸点も
うなぎのぼりですね。

このあたりの、法的解釈や講談も
ぜひお聞かせ願いたいものです。

投稿: やっこさん | 2017年7月 7日 (金) 15時39分

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