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2017年9月27日 (水)

消費税の使いみち解散について

 

「これで、今日の社会の授業を終わります。何か質問は?」

「はい!」

「どうぞ」

「今日の授業で、国会は国権の最高機関で、唯一の立法機関だと習いました」

「そうですよ」

「国会には立法権と予算をきめる、ただ一つの組織ですよね」

「そうだね」

「税金の使いみちを決めるのも、国会ですよね」

「そうだよ」

「使いみちを決めずに、税金を上げることはできますか」

「できるよ。でも、決めておかないと、なぜ税金を上げる必要があるのか、分からないよね」

「税金の使いみちは、あらかじめ決めておいた方がよいということですか」

「そうだね」

「では、税金を上げると決めたあとで、使いみちをかえてもいいのですか?」

「よくないだろうね」

「では、安倍首相が税金の使いみちをかえると言っているのは、よくないことですか?」

「いちど決めた使いみちをかえるためには、国民の了解がいるということじゃないかな」

「税金の使いみちを決めるのは国会なのに、なぜ国民の了解がいるのですか」

「そそれは、日本が民主主義国だからだよ。君は知らないかもしれないが、ひとつ前の総選挙も、消費税を2%上げるかどうかが争点だったんだ」

「税金の使いみちを決めるのは国会の権限だけど、日本は民主主義国だから、税金の使いみちをかえるかどうかについては、国民に直接決めてもらった方がよい、ということですか」

「そうだね」

「国民に直接決めてもらった方がよいなら、国会はなくてもよいのですか?」

「そんなことはないよ。ほかにも大事なことを国会は決めないといけないからね」

「大事なことって、たとえば何ですか?」

「そうだな、ニュースに載ったものでいうと、一昨年に成立した平和安全法は、大事な法律だと思うよ」

「大事な法律なら、なぜ直接国民の意見を聞かないのですか?」

「そそそれは、いちいち国民の意見を聞いていたら手間がかかって大変だからだよ。国民に代わって大事なことを決めてもらうために選挙して国会議員を選んでいるのだから」

「そうするとつまり、法律を作ったり予算を決めたり、税金の使いみちを決めたりするのは国会だけど、その中で特に大事なものは、国民の意見を聞いて決めるのがよい、ということでしょうか」

「そうなるね」

「では、特に大事なものは何か、はどうやって決めるのですか。ぼくは、消費税の使いみちより、平和安全法の方が大事なように思います」

「何が大事なのか、を決めるのは難しい問題だね。でも、衆議院を解散できるということは、民意を問えるということだから、衆議院を解散できる内閣総理大臣が、何を国民に問うかを決めることができる、ということになりそうだね」

「そうするとつまり、国会が何を決めるのかを決めるのは、内閣総理大臣になりますね」

「そうみたいだね」

「だとすると、内閣総理大臣は国会より偉いのですね」

「偉いのかなあ」

「でも、今日の授業では『国会は国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関』であると習いました」

「次の質問がある人!」

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2017年9月21日 (木)

公衆浴場の更衣室に防犯カメラは違法か

公衆浴場の更衣室に、防犯カメラが設置されるようになって、久しく経つらしい。

新聞を見ると、最初の報道は平成11年3月24日の讀賣新聞朝刊「男子脱衣所に防犯カメラ 利用者から賛否両論 下仁田町営『荒船の湯』」との見出しで、男子脱衣所で盗難事件が発生したため、警察から防犯ビデオカメラ1台を借りて設置したが効果が無かったため、60万円を投じてビデオ二台を購入「防犯カメラ」と大きく表示したところ、盗難はなくなったという。

記事は、「人権侵害とまではいえない」とする前橋地方法務局の見解や、利用客の賛否の意見を紹介したうえ、「『防犯カメラを購入するお金があるのならカギつきロッカーを備えたら』というもっともな意見もある」としている。

平成21年3月30日、小泉郵政改革で名を馳せた東洋大学の教授(当時)が、東京都練馬区の温泉施設のロッカーから財布やブルガリの腕時計を盗んだとして、窃盗容疑で書類送検された。当時は世間の耳目を集めた事件だが、これを報じる3月31日の讀賣新聞には、「防犯カメラに容疑者に似た男が写っていた」とある。この防犯カメラは脱衣所に設置されていたと推測される。

平成25年の中日新聞朝刊三重版には、先頭の脱衣所で財布から現金を盗んだとして24歳無職の男が逮捕されたと、ベタ記事で報じている。「脱衣所の防犯カメラの映像から割り出した」という。

防犯カメラは女性用の脱衣所にも設置されている。「トリップアドバイザー」のサイトには、東京の温泉施設の女性脱衣所に監視カメラが設置されているという抗議の書き込みがある。その他、「温泉&防犯カメラ」や、「更衣室監視カメラ」でググれば、会社や学校の更衣室に設置されたカメラについて、賛否両論(否定的意見の方が多いようだ)の書き込みがあるし、防犯サービスの会社のサイトを見ると、「銭湯、温泉、娯楽施設での防犯カメラ導入事例」として、火災報知器にカモフラージュした隠しカメラを宣伝している。

これらのカメラ設置は違法だろうか。

カメラ設置の合法性判断基準に決まりはないが、私は①目的の正当性、②撮影と目的の合理的関連性、③合理的代替手段の不存在、④被侵害利益の重大性と比較し、撮影されても受忍限度内にあるといえるか、の4つの基準をクリアすることが必要だと考える。

この基準に照らした場合、①の防犯目的は正当だし、②カメラの設置と防犯目的の達成の間には、合理的関連性がある。だが、問題は③と④だ。

上の記事にもあるとおり、更衣室内の盗難は、カギつきロッカーの導入や、貴重品預かり所の設置によってある程度対処可能だから、合理的代替手段不存在の基準を満たすかは疑問がある。また、全裸を撮影されないという法的利益は、かなり重大なプライバシー上の権利である。これ以上プライバシー性の高い場所は、トイレの個室とベッドルームくらいしかないだろう。結論としては、違法の疑いが強いと考える。

もし適法とされる余地があるとすれば、録画映像を人間が見るのは盗難事件等が起きた場合に限られることとし、平時は人間が見ることなく、一定の期間経過後に自動的に消去される、という運用がなされている場合だろうか。この場合でも、適正な運用を担保する手当は欠けているが、そこは信頼関係の問題といえるのかもしれない。

更衣室の監視カメラが適法だというなら、JR大阪駅通行人を撮影し人流統計データを作成したり、ジュンク堂が来店者撮影して万引犯のリストと照合したりする行為が違法となる余地はないだろう。

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2017年9月19日 (火)

電動アシスト付ベビーカーに対する経産省の対応が何重にもひどい

9月14日の讀賣新聞によると、経産省は同日、「保育園児などが乗る外国製の電動アシスト付きベビーカーを『軽車両』にあたるとした見解が、すべてのベビーカーを対象にしたような誤解を招いたとして謝罪」した。

ことの経緯はこういうことらしい。

保育園などでは園児外出させる以上が乗れる乳母車バギーとも呼ばれる使われている。園児には散歩が不可欠だが、歩かせて引率するのは保母さんの負担が大きいし、交通事故の危険もある。この乳母車は本来人力で移動させるものだが、近年、電動補助機能付き乳母車が内外で製作されるようになった。平成27年1月27日、警視庁交通局交通企画課名の通達が出され、翌日には経産省からもグレーゾーン解消制度活用実績として、同様の見解が公表された。

その後、別業者から「グレーゾーン解消制度」に基づき、同業者が発売しようとする電動アシスト機能付き6人乗りベビーカーが道路交通法の定める「小児用の車」に該当するのか、「軽車両」に該当するかの問い合わせがあったので、平成29年9月7日当該ベビーカーについては上記通達の基準を満たさず軽車両該当するから、車道を通行しなければならないと回答した。

ところが、「ネット上ではすべての電動ベビーカーが車道などを通行しなければならないとの誤解が広がりベビーカー車道を通行するなど危険すぎるなどと批判が広がった」。そこで、経産省が「説明が不足しており、誤解を招いた」と謝罪した、という経緯である。

つまり、経産省としては、電動アシスト付ベビーカーが軽車両にあたるか否かの基準は、平成27年1月28日の経産省の公表によって、すでに明らかであり、今回はその基準に当てはまるか否かだけの判断だったのに、既に発表していた基準を国民の皆様が知らなかったので、誤解を招いた、ということのようである。

この経緯をめぐる報道は、経産省の謝罪によって一件落着、という雰囲気だが、とんでもないことだ。この経緯は、何重もの意味で間違っている。

第1に、電動アシスト付ベビーカーが軽車両にあたるか否かの判断基準は、通達であって、法令ではないから、警視庁の見解にすぎず、国民を拘束しない。「小児用の車」であるか「軽車両」であるかを最終的に判断するのは裁判所であって、警察ではない(憲法81条)。もとより、裁判所の判断がでるまでの間、警察が独自の見解で法令を解釈し運用することはできるが、そうであれば、その旨明確にするべきである。

第2に、このとき公表された経産省の見解は、通達ですらない(から当然国民を拘束しない)うえ、警視庁の判断基準を引用しつつ、「…等の条件を満たした場合は、『小児用の車』に該当」するとして、判断基準を全部書かかずに省略し、警視庁通達へのリンクも張っていない。これでは、基準の用をなさない。しかも、今回問題となったベビーカーのどこが判断基準の何に違反するのか、一切記載されていない。これでは、前例にも何にもならない。何が「グレーゾーン解消」なんだか、さっぱり分からない。

第3に、警視庁の通達は、身体障害者用の(電動)車いす(道路交通法2条1項11号の3)に関する道路交通法施行規則1条の4の規定を、ほぼそのまま電動アシスト付ベビーカーに移植したようであるが、車椅子は成長した人一人が乗るものであるのに対して、電動アシスト付ベビーカーは複数の幼児を乗せ、しかも必ず外部に人が付き添っているという違いがあるにもかかわらず、例えばそのサイズの基準(長さ120㎝、幅70㎝、高さ109㎝)が同一でなければならない理由が不明である。

第4に、これが一番ひどい間違いであるが、その理由が何であれ、ベビーカーに車道を走らせてはいけない。ベビーカー全部の問題でないからよかったとか、本件ベビーカーだけの問題だからOKだとか、という問題ではない。ベビーカーである以上は、歩道があるのに、車道を通行させてはならないのだ。さして説得力も、法的拘束力も無い平成27年1月27日の通達と、それによって車道を移動させられる6人の幼児(と一人の保母さん)の命と、いったいどちらが大事なのか。

もし、今回問題となった電動アシスト付ベビーカーが、何らかの理由でわが国の歩道を移動させることができないというなら、「車道ならOK」という見解を出すべきではなく、歩道車道を問わず公道での使用を禁止すべきである。逆に、保母さんの負担を減らし、園児の安全な外出の機会を増やすため、電動アシスト付ベビーカーの普及を広く認めるというなら、平成27年1月の通達をさっさと改廃するべきである。

要するに、今回の問題で、第1番目の優先順位は、幼児と保母さんの生命である。法的拘束力の無い通達や先例の重要性など、二の次だ。経産省の今回の対応は、「他の電動アシスト付ベビーカー一般に適用されるものではないからよかった!」という問題ではない。どんなベビーカーであろうが、ベビーカーに車道を移動しなさいと命じるようなら「日本死ね」という問題なのである。

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2017年9月 8日 (金)

カメラ画像をもとに人流統計情報を作成する際、目的の通知は必要か

画像解析技術の進歩により、カメラ画像から人流統計情報を作成することが可能になっている。

具体的には、「カメラA」の画角を右から左に歩いて行った人と、「カメラB」の画角を上から下に歩いて行った人の画像から抽出された特徴量情報同士を突き合わせ、同一の特徴量であれば、その人が「カメラA」の撮影範囲から「カメラB」の撮影範囲に移動したとみなし、この作業を多数人について統合することによって、人流統計情報を作成するものである。

この場合、画像は特徴量情報抽出後直ちに消去するので個人情報の取得にあたらない、との立場はとりうるとしても、特徴量情報が個人識別符号として個人情報にあたることは疑いない。ただ、カメラの運用者が最終的に取得するのは人流統計情報であって、個人情報ではない。この場合、個人情報保護法の定める利用目的の通知(18条)は必要なのだろうか。

この点に関し、個人情報保護委員会公表するQ&A25には、「個人情報を統計処理して特定の個人を識別することができない態様で利用する場合」には、「利用目的の特定は「個人情報」が対象であるため、個人情報に該当しない統計データは対象となりません。また、統計データへの加工を行うこと自体を利用目的とする必 要はありません。」と記載されている。これによれば、人流統計情報作成目的で撮影していることは、通知する必要がないことになる。

これに対して、JR大阪駅ビル事件における第三者委員会報告書は、画像や特徴量情報の取得が個人情報の取得にあたるとしたうえで(当時は個人情報保護法の改正前なので、解釈の余地があった)、目的の特定や告知が必要であるとしている。

私は、個人情報保護委員会のQ&Aは、法律の解釈として間違っていると考える。

こちらのエントリで述べたとおり、撮影画像から年代や性別などの個人を特定しない属性情報を抽出し、直ちに画像を消去する場合、規範的にみて個人情報を取得していないとみなすことは可能だし、利用目的の通知も必要ないと考える。しかし、今回のエントリで述べた事例では、人物画像を突き合わせ同一人物と同定するために特徴量情報という個人識別符号を抽出し、利用している。これは明らかに、「個人情報を取得したとき」(個人情報保護法181項)にあたるのだから、利用目的の通知公表が必要だ。

個人情報保護委員会に対し、このQ&Aの意味を確認したところ、「『個人情報』に該当するけれども、特定個人の情報として利用するのではない場合には、利用目的の公表・告知は不要」と整理している、との回答に接した。しかし、個人情報保護法181項が例外を定めていないにもかかわらず、Q&Aが「個人情報を取得しても、個人情報として利用しないとき」を除外しているのは、明らかに解釈の範囲を逸脱しているというべきであろう。

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2017年9月 6日 (水)

万引犯から万引画像の開示を求められた場合、開示に応じる義務はあるか

百貨店などの防犯カメラ画像は、原則として、一定期間が経過すると自動的に削除されるが、例外として、万引などの犯罪行為が撮影された場合には、保存されることになる。保存される映像には、明らかな犯罪行為はもとより、犯罪行為であることが客観的に強く疑われる場合も含む(例えば、二人組の客の片方が防犯カメラの画角を遮っているが、その陰で万引が行われていると強く疑われるような場合)と解される。店舗によっては、来店客の顔画像と保存した万引犯の顔画像を照合するシステムを導入しているところもある。

では、客が店舗に対して、「私は万引犯人として登録されていますか?」と尋ねたとき、店舗は情報開示義務を負うだろうか。

個人情報保護法281項は、「本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの開示を請求することができる」と定め、2項は「個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない」と定めている。

個人情報保護委員会のQ&Aによれば、防犯カメラの画像は、そのままでは検索できないので「個人情報データベース」に該当しないとされている。個人情報データベースを構成しない個人情報は「個人データ」に該当しない(個人情報保護法226号)ので、開示請求の対象にならない。もっとも、デジタルビデオカメラの録画像は検索が可能なので、この解釈の当否は疑問である。

では、防犯カメラ画像そのままではなく、万引犯またはその疑いありとして切り取られ保存された画像はどうか。個人情報保護法227号は、個人データのうち、「その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの又は1年以内の政令 で定める期間(6ヶ月)以内に消去することとなるもの以外のものをいう」と定めており、これを受けて個人情報保護法施行令42号は「当該個人データの存否が明らかになることにより、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがあるもの」は「保有個人データ」から除外されると規定している。

この条項の解釈について、個人情報保護委員会のガイドライン27は、「事例 1)暴力団等の反社会的勢力による不当要求の被害等を防止するために事業者が保有している、当該反社会的勢力に該当する人物を本人とする個人データ 事例 2)不審者や悪質なクレーマー等による不当要求の被害等を防止するために事業者が保有している、当該行為を行った者を本人とする個人データ」を例として挙げている。だが、この事例は、本人が「暴力団等の反社会的勢力」であることや、「不審者や悪質なクレーマー等」であることを前提としているから、これらに該当するか否か分からない者からの要求は想定していない。

また、万引犯人として登録されているか否かという開示請求に対しては、告訴するか否か未定の時点では個人情報保護法施行令44号の「当該個人データの存否が明らかになることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障が及ぶおそれがあるもの」に該当するといえようが、店側で保存するだけで告訴する意思のない場合には、同条項にあたらない。また、「あなたは万引犯として登録されていますよ」と回答し、それがその通りであれば、開示請求者が今後その店舗で万引を行うことは通常ないと考えられるから、「違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある」とはいえないだろう。

また、「保有個人データ」に該当する場合であっても、「当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれが ある場合」(個人情報保護法2822号)には開示請求を拒否できるが、万引犯として登録されている者からの開示請求に対して、この条項をもとに一律に拒否ができるとはいえないように思われる。

したがって、万引犯(又はそれを強く疑わせる)画像が「保有個人データ」に該当し、開示請求の対象となることは、ありうるものと考えるべきであろう。

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2017年9月 4日 (月)

クレーマーの防犯カメラ映像を保存することの合法性について

百貨店などに設置されている防犯カメラの映像は、一定期間が経過すると自動的に消去されるが、例外として、万引などの犯罪行為が録画された場合、その映像は保存される。かかる保存行為が合法であることについて、議論の生じる余地はすでにないと思われる。

しかし、百貨店など施設管理者が保存する映像は、実は犯罪行為だけではない。クレーマーや、店内で宗教勧誘やナンパを行う者の映像を保存していると公言する事業者もいる。

もとより万引犯にも肖像権やプライバシー権はあるが、店側にも被害回復のため証拠を保全する権利がある。万引など犯罪行為の場合に、店側の権利が優先することについて争いはなかろう。だが、必ずしも犯罪とはいえないクレーマーや、宗教活動やナンパについては、来店客の肖像権やプライバシー権が優先するとはいえないのだろうか。

個人情報保護委員会のQ&A6-7には、「いわゆる不審者、悪質なクレーマー等からの不当要求被害を防止するため、当該行為を繰り返す者を本人とする個人データを保有している場合」を前提とする記載がある。このことから、個人情報保護委員会としては、「いわゆる不審者、悪質なクレーマー等が当該行為を繰り返す場合」に記録することは適法と解釈しているものと思われる(もっとも、このQ&Aはカメラ映像ではなく、氏名、電話番号及び対応履歴等としている)。

しかし、百貨店などの顧客は、店に対して買物に専念する債務を負うものではないから、店内で求愛行動をしたり、宗教的勧誘行為をしたりしても、直ちに違法になるわけではないし、店の対応に非があれば、苦情を述べる正当な権利を有する。これらの映像を保存することは、明らかに行き過ぎだろう。

店側の立場に立ち、犯罪行為の記録は当然として、犯罪に至らない民事上の違法行為については証拠保全の権利があると考えたとしても、店内でのナンパや宗教勧誘行為、苦情を述べる行為が、すべて民事上の違法行為になるわけではない。

このように考えてくると、個人情報保護委員会が「悪質なクレーマー等の…繰り返し」に限定してQ&Aを作成しているのは、いいかえれば、「悪質ではないクレーマー」や、「悪質なクレームでも繰り返しにあたらない場合」に記録することは違法、と限定する意図を含むものと解される。

だがそれでも、「悪質」性や、何回目からが「繰り返し」かを誰がどの基準で判断するのか、という問題が残る。店側が専権的に判断でき、だれもチェックできないなら、歯止めがないことと同じだからだ。

また、「防犯カメラ」という利用目的でありながら、犯罪でない行為の保存が許されるのか、という問題もある。

結局のところ、「悪質なクレーマーの…繰り返し」行為についてのみ、記録・保存は合法であるとする個人情報保護委員会の見解は、その妥当性を客観的に判断する仕組みが無いかぎり、中途半端である、といわざるを得ない。

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