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2017年9月 6日 (水)

万引犯から万引画像の開示を求められた場合、開示に応じる義務はあるか

百貨店などの防犯カメラ画像は、原則として、一定期間が経過すると自動的に削除されるが、例外として、万引などの犯罪行為が撮影された場合には、保存されることになる。保存される映像には、明らかな犯罪行為はもとより、犯罪行為であることが客観的に強く疑われる場合も含む(例えば、二人組の客の片方が防犯カメラの画角を遮っているが、その陰で万引が行われていると強く疑われるような場合)と解される。店舗によっては、来店客の顔画像と保存した万引犯の顔画像を照合するシステムを導入しているところもある。

では、客が店舗に対して、「私は万引犯人として登録されていますか?」と尋ねたとき、店舗は情報開示義務を負うだろうか。

個人情報保護法281項は、「本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの開示を請求することができる」と定め、2項は「個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない」と定めている。

個人情報保護委員会のQ&Aによれば、防犯カメラの画像は、そのままでは検索できないので「個人情報データベース」に該当しないとされている。個人情報データベースを構成しない個人情報は「個人データ」に該当しない(個人情報保護法226号)ので、開示請求の対象にならない。もっとも、デジタルビデオカメラの録画像は検索が可能なので、この解釈の当否は疑問である。

では、防犯カメラ画像そのままではなく、万引犯またはその疑いありとして切り取られ保存された画像はどうか。個人情報保護法227号は、個人データのうち、「その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの又は1年以内の政令 で定める期間(6ヶ月)以内に消去することとなるもの以外のものをいう」と定めており、これを受けて個人情報保護法施行令42号は「当該個人データの存否が明らかになることにより、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがあるもの」は「保有個人データ」から除外されると規定している。

この条項の解釈について、個人情報保護委員会のガイドライン27は、「事例 1)暴力団等の反社会的勢力による不当要求の被害等を防止するために事業者が保有している、当該反社会的勢力に該当する人物を本人とする個人データ 事例 2)不審者や悪質なクレーマー等による不当要求の被害等を防止するために事業者が保有している、当該行為を行った者を本人とする個人データ」を例として挙げている。だが、この事例は、本人が「暴力団等の反社会的勢力」であることや、「不審者や悪質なクレーマー等」であることを前提としているから、これらに該当するか否か分からない者からの要求は想定していない。

また、万引犯人として登録されているか否かという開示請求に対しては、告訴するか否か未定の時点では個人情報保護法施行令44号の「当該個人データの存否が明らかになることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障が及ぶおそれがあるもの」に該当するといえようが、店側で保存するだけで告訴する意思のない場合には、同条項にあたらない。また、「あなたは万引犯として登録されていますよ」と回答し、それがその通りであれば、開示請求者が今後その店舗で万引を行うことは通常ないと考えられるから、「違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある」とはいえないだろう。

また、「保有個人データ」に該当する場合であっても、「当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれが ある場合」(個人情報保護法2822号)には開示請求を拒否できるが、万引犯として登録されている者からの開示請求に対して、この条項をもとに一律に拒否ができるとはいえないように思われる。

したがって、万引犯(又はそれを強く疑わせる)画像が「保有個人データ」に該当し、開示請求の対象となることは、ありうるものと考えるべきであろう。

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コメント

防犯カメラによる公開について、例えばゴミ置き場での惨状、飼い猫や餌付け猫による近隣糞害などは、町内会での撮影や掲示板などへの公開晒しなどは是認しても良いかもしれませんね。疑わしいとの思い込みで後をつけまわされて商業施設での警備員らによるつきまといや、嫌らしい視線や憎悪を含んだ視線を送られることとを比較すれば、明らかな不法行為やマナー違反ですから。もちろん、ここでも再三指摘しているように法的位置づけや画像の管理などは高いハードルはありますが。

さらには、学校近くの交差点一時停止違反や逆走、など交通違反者に対しても同様ですかね。日頃はやれ不審者だのとのたまう若い女性や母親たちでさえも、児童生徒歩行者への配慮が微塵も感じられないことは、全国津々浦々で日常的に見受けられることです。

不思議なことに、万引き犯の私的制裁というカメラ画像掲示や公開には、世論大衆は喝采を送りますが、猫糞とか交通違反にはとても寛大であり、特にエスカ右空け完全履行という空疎なルール厳守にマナーという名の偽善を完成させている東京圏には、このカメラ講座に潜む恥部を見てしまいます。

猫好きによるクレーム申し入れ者に対しての逆恨みやエンジン空ぶかしやあげくに殺人事件など、自分のことを棚に上げてそういうことには敏感に反応する腐臭漂う大衆の特化脳にはただあきれるばかりですが。

猫忌避剤による出費や年間で○○○日以上糞を玄関前にさえされたり、その精神的物理的金銭的被害は多大なものがありますが、行政では、「室内飼いが理想ですが、外で餌付けする際は、糞は自分のところでするようにしつけましょう」程度ですから、その効果はいかばかりか?

講座続編に期待します。

投稿: やっこさん | 2017年9月 8日 (金) 07時16分

顔認証防犯システムに誤登録があるという事実を承知されているなら
相談窓口を設置して頂く努力をしてもらえないでしょうか?
場所は、市役所の人権擁護室や裁判所や法テラスなどで結構かと思います。
顔認証システムを1台設置してもらい
顔で本人と確認すれば良いと思います。
だって100%顔で認識できるんですよね?
名前も住所もマイナンバーも不要ではありませんか?
その顔データが登録された経緯を調べれば事足りると思うのですが。
警察官による事情聴取もない、荷物検査をして証拠が出てきたという事実もない
となれば、即、削除すれば良いだけです。
調書があっても、サインや捺印に不備があるなど。
本人の直筆であるかどうか疑わしい場合は、調査を行うなど。

本当に警察に捕まった場合
証拠不十分で公判を維持できない時には
そのまま釈放されているんですよね。

どうして顔認証防犯システムは、
開示にも応じようとする義務があるとかないとか
そんな曖昧な話になるのでしょうか?
民間のシステムといっても
顧問に警察の元幹部の方がなっているんですよね。
本人にしてみれば、人生が掛かっている重要な問題なんです。
犯罪者もしくは予備軍として扱われながら
一生を生きていかなければならないのでしょうか?

阪○百貨店のデパ地下のあるケーキ屋で
お金をキチンと払っているのに
カシャっとシャッター音がしました。
誰かが写真を撮ったのでしょうか?
私は許可していませんが、もし写真を撮られていたとしたら
あの写真はあの周辺の店に、ばら撒かれるのでしょうか?

私が何をしたというのでしょうか。
どうしてこんな目に遭わなければいけないのでしょうか?

投稿: | 2017年9月18日 (月) 17時54分

あると思います。

細かい法律の事は知りませんが、日本国憲法は謳っています。
「11条 国民は全ての基本的人権の享有を妨げられない」
また
「13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
証拠も何もないのに、何もしていないのに
犯罪者扱いされて、公共の福祉に反するとは思えません。

全ての国民は、等しく幸福を追求する権利を奪われることはない筈です。
証拠もないのに、顔認証防犯システムに誤登録し
犯罪者扱いし、人々の人生の幸福を奪う行為は、
日本国憲法に反していると思います。


開示する義務はあります。
全ての日本の国民は、自由に幸福を追求できる権利があった筈です。
自由が奪われている。
基本的人権が踏みにじられている。
誤登録されている私達に自由を与えたからといって
公共の福祉に反するとは思えません。
誤登録されている人達を救う努力をして下さい。
私達に人生を返して下さい。
自由に生きる権利を返して下さい。

投稿: | 2017年9月18日 (月) 23時05分

万引き犯罪者であると決定することができるのは司法のみ。

多くの冤罪犯罪被害者が、防犯カメラの画像のみを信頼してし鵜呑みにした捜査により苦しんでいる。長期間拘束されたり、誤って逮捕されたり社会的信用を失っている。無実を証明するのは、冤罪被害者自身や家族友人達だ。

防犯カメラという武器を手にし、誤った万能感により暴走している組織がある。

投稿: 企業のモラル | 2017年10月18日 (水) 11時16分

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