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2017年9月19日 (火)

電動アシスト付ベビーカーに対する経産省の対応が何重にもひどい

9月14日の讀賣新聞によると、経産省は同日、「保育園児などが乗る外国製の電動アシスト付きベビーカーを『軽車両』にあたるとした見解が、すべてのベビーカーを対象にしたような誤解を招いたとして謝罪」した。

ことの経緯はこういうことらしい。

保育園などでは園児外出させる以上が乗れる乳母車バギーとも呼ばれる使われている。園児には散歩が不可欠だが、歩かせて引率するのは保母さんの負担が大きいし、交通事故の危険もある。この乳母車は本来人力で移動させるものだが、近年、電動補助機能付き乳母車が内外で製作されるようになった。平成27年1月27日、警視庁交通局交通企画課名の通達が出され、翌日には経産省からもグレーゾーン解消制度活用実績として、同様の見解が公表された。

その後、別業者から「グレーゾーン解消制度」に基づき、同業者が発売しようとする電動アシスト機能付き6人乗りベビーカーが道路交通法の定める「小児用の車」に該当するのか、「軽車両」に該当するかの問い合わせがあったので、平成29年9月7日当該ベビーカーについては上記通達の基準を満たさず軽車両該当するから、車道を通行しなければならないと回答した。

ところが、「ネット上ではすべての電動ベビーカーが車道などを通行しなければならないとの誤解が広がりベビーカー車道を通行するなど危険すぎるなどと批判が広がった」。そこで、経産省が「説明が不足しており、誤解を招いた」と謝罪した、という経緯である。

つまり、経産省としては、電動アシスト付ベビーカーが軽車両にあたるか否かの基準は、平成27年1月28日の経産省の公表によって、すでに明らかであり、今回はその基準に当てはまるか否かだけの判断だったのに、既に発表していた基準を国民の皆様が知らなかったので、誤解を招いた、ということのようである。

この経緯をめぐる報道は、経産省の謝罪によって一件落着、という雰囲気だが、とんでもないことだ。この経緯は、何重もの意味で間違っている。

第1に、電動アシスト付ベビーカーが軽車両にあたるか否かの判断基準は、通達であって、法令ではないから、警視庁の見解にすぎず、国民を拘束しない。「小児用の車」であるか「軽車両」であるかを最終的に判断するのは裁判所であって、警察ではない(憲法81条)。もとより、裁判所の判断がでるまでの間、警察が独自の見解で法令を解釈し運用することはできるが、そうであれば、その旨明確にするべきである。

第2に、このとき公表された経産省の見解は、通達ですらない(から当然国民を拘束しない)うえ、警視庁の判断基準を引用しつつ、「…等の条件を満たした場合は、『小児用の車』に該当」するとして、判断基準を全部書かかずに省略し、警視庁通達へのリンクも張っていない。これでは、基準の用をなさない。しかも、今回問題となったベビーカーのどこが判断基準の何に違反するのか、一切記載されていない。これでは、前例にも何にもならない。何が「グレーゾーン解消」なんだか、さっぱり分からない。

第3に、警視庁の通達は、身体障害者用の(電動)車いす(道路交通法2条1項11号の3)に関する道路交通法施行規則1条の4の規定を、ほぼそのまま電動アシスト付ベビーカーに移植したようであるが、車椅子は成長した人一人が乗るものであるのに対して、電動アシスト付ベビーカーは複数の幼児を乗せ、しかも必ず外部に人が付き添っているという違いがあるにもかかわらず、例えばそのサイズの基準(長さ120㎝、幅70㎝、高さ109㎝)が同一でなければならない理由が不明である。

第4に、これが一番ひどい間違いであるが、その理由が何であれ、ベビーカーに車道を走らせてはいけない。ベビーカー全部の問題でないからよかったとか、本件ベビーカーだけの問題だからOKだとか、という問題ではない。ベビーカーである以上は、歩道があるのに、車道を通行させてはならないのだ。さして説得力も、法的拘束力も無い平成27年1月27日の通達と、それによって車道を移動させられる6人の幼児(と一人の保母さん)の命と、いったいどちらが大事なのか。

もし、今回問題となった電動アシスト付ベビーカーが、何らかの理由でわが国の歩道を移動させることができないというなら、「車道ならOK」という見解を出すべきではなく、歩道車道を問わず公道での使用を禁止すべきである。逆に、保母さんの負担を減らし、園児の安全な外出の機会を増やすため、電動アシスト付ベビーカーの普及を広く認めるというなら、平成27年1月の通達をさっさと改廃するべきである。

要するに、今回の問題で、第1番目の優先順位は、幼児と保母さんの生命である。法的拘束力の無い通達や先例の重要性など、二の次だ。経産省の今回の対応は、「他の電動アシスト付ベビーカー一般に適用されるものではないからよかった!」という問題ではない。どんなベビーカーであろうが、ベビーカーに車道を移動しなさいと命じるようなら「日本死ね」という問題なのである。

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コメント

サイズの基準(長さ120㎝、幅70㎝、高さ109㎝)というのは、車いすの基準です
その基準があるからさまざまな施設の扉やスロープなどの備品のサイズが決まってきているのですから
その枠にベビーカーを含めるな!と言う方が横暴じゃないでしょうか?
また、歩道を走らせてはいけないと言うのなら歩道車道を問わず公道での使用を禁止すべきである
とのことですが
子供を乗せていない状態であっても車両を移動させる必要が生じるのですから
その時に人の手で動かさず、貨物車等で運搬しろと言うことでしょうか?
それも極端だと思います
要は基準を超えたらリアカー・人力車なのですから、使用者が購入・導入時に相応の知識を学ぶべきだと思います。
そういう機会を設ける方が先じゃないでしょうか?
どんなベビーカーであろうが、ではなく枠を超えた超ベビーカーなのですから
その枠が不満だと言うのなら、基準となっている車いすから見直さないと、と提案するべきでしょう
弁護士なのに流行ったからという安直な考えで死ねという言葉を使うような方には無理かもしれませんが

投稿: | 2017年9月20日 (水) 20時04分

法曹家らしい、人命人権を第一義的に捕らえた、文章ですね。昨今、商売する上での私的不審者カテゴリーの人を私的制裁で、公開することへのハードルは下がる一方です。かつて、ロッキード事件の時の政権へもその矛先を向けた法曹家たちは、今では、三権分立はおろか、立法府をオモネルような雰囲気に、市井の市民としては、暗澹たる思いです。

明治立憲以前のような私刑を許すには、現大衆の思考の緩さは、あまりにも無謀と言えましょう。

>要するに、今回の問題で、第1番目の優先順位は、幼児と保母さんの生命である。

これに対しての大衆諸氏の回答の次元に暗澹たる思いが致します。

投稿: やっこさん | 2017年9月21日 (木) 15時40分

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