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2017年10月23日 (月)

自動運転自動車の「運転免許試験制度」について

あちこちに書いていることだが、自動運転自動車が普及する際には、自動運転自動車の「運転免許試験制度」が導入されるべきであるし、導入されることは必至であると考える。この試験は人間ではなく、自動運転自動車そのものが受験するものだ。

そして、この「運転免許試験制度」は、自動運転自動車が事故を起こした場合のメーカーの責任や、被害者の救済制度と、一体のものとして導入される必要がある。

以下、その概要を記しておこう。

テスラが象徴的に示すとおり、自動運転技術の発達は、電気自動車の発達と表裏一体で進行することになる。電気自動車はガソリン自動車に比べて部品点数が少ないから、中国・台湾やインドその他新興国でも、競争力のあるものが作られる。また、ソフトウェア技術は成熟や伝播が早い。そのため、自動運転技術が実用レベルに達すると、新興国製の安い自動運転自動車が輸入され、わが国の公道を走ることになるだろう。

だが、そのことは、道路交通の安全に対する脅威になりうる。「韓国製の自動運転車はわがまま」「中国製は横柄」「インド製は冬に弱い」とかいうことになると、買って乗っている人は自己責任としても、他のドライバーや歩行者としては迷惑極まりない。そこで、国内外すべての自動運転自動車について、最低限度の道路交通法規の遵守能力や安全運転能力を有するかどうかを公的に認証するための試験制度が導入される必要がある。この試験は、車種ごとに、警察庁又は国土交通省によって行われ、テストロードを走行する「実技試験」と、試験監督役のコンピューターと自動運転自動車のコンピューターを直接接続し、サイバー空間におけるあらゆるシチュエーションでの反応速度や判断の妥当性をテストする「バーチャル試験」との二種類によって行われることになるだろう。

この「運転免許試験制度」は、道路利用者の安全を確保するだけでなく、メーカーにとっても大きく二つのメリットがある。

一つは、国内メーカーに限られることだが、この試験制度が一種の輸入障壁として機能し、国内自動車産業を保護する側面を有することだ。また、「運転免許試験」は最低レベルの安全性を保障するものにすぎないので、先進国の自動車メーカーは、より高いレベルの安全性を実用化して、競争力を高めることになるだろう。

もう一つは、試験に合格した自動運転自動車が事故を起こしても、メーカーは原則として免責されるというメリットである。

自動運転自動車にはドライバーがいないから、現行法上、事故の責任はメーカーに対して問われることになる。人間の運転手であれば当然刑事民事責任を問われるような事故を自動運転自動車が起こした場合、現行法上、メーカーやプログラマー等は刑事民事の責任を免れない。しかし、メーカー側が刑事民事の責任を問われることになれば、メーカーは萎縮し、自動運転自動車の製造意欲を失うだろう。自動運転自動車は交通事故を8割以上減少させるといわれているのに、2割の事故の法的責任をメーカーに問うことによって、メーカーを萎縮させ、8割の事故減少が実現しないのでは、本末転倒だ。したがって、事故を減少させるためには、自動運転自動車が事故を起こしても、メーカー側は法的責任を免れるように制度設計する必要がある。

但し、何でもかんでも免責させることはできない。そこで、「運転免許試験」に合格した自動運転自動車であることを条件に、原則として、免責特権を与えることになる。例外としては、試験に合格したとしても、事故を起こしうるプログラム上の欠陥を知っていたのに、適切な期間内に修正措置をとらなかったような場合には、法的責任を負うことになる。

一方、事故を起こした自動運転自動車のメーカーを免責させるとすると、被害者の救済をどうやって図るのか、という問題が発生する。そうでなくても、被害者が「人工知能の過失」を立証することは、極めて困難であり、不可能であることも多い。そのため被害者が泣き寝入りすることになれば、「自動運転自動車に轢かれた方が損」という評価が定着することになる。そうなれば、社会は自動運転自動車を受け容れないから、せっかく開発しても、自動運転自動車が普及することはない。

そこで、自動運転自動車の事故については、原則無過失で損害補償を行う強制保険制度を創設する必要がある。保険料を支出するのは、法的責任を免れるメーカーと、当該自動運転自動車を運用して利益を得るオーナーということになろう。もとより保険会社も、危険な自動車について保険契約を締結することはできないから、「運転免許試験」に合格した自動運転自動車であることが、保険契約締結の条件になるだろう。

もっとも、わが国は、「強制・事実上無過失責任・低額」の自賠責保険と、「任意・過失責任・高額」の任意保険の二階建ての保険制度をとっている。自動運転自動車について「強制・原則無過失・高額」の保険制度を導入する場合、現行保険制度(強制+任意)は片方あれば足り、両方はいらないということになるだろう。自動運転自動車の普及に伴う事故減少(=損害保険市場の縮小)とあいまって、損害保険業界は、大変革を迫られることになるだろう。

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