2009年1月14日 (水)

不動産譲渡所得税について

筆者が破産管財人として不動産を売却した場合,不動産の譲渡所得税を払ったことがない。バブル崩壊で不動産価格が下がり,譲渡益が無いからかと漠然と思っていたが,先祖伝来の土地で,売却すれば本来莫大な譲渡所得税が課せられる場合でも,譲渡所得税を払ったことがない。また,抵当権を実行されて不動産を失う場合には,譲渡所得税を払う必要はないとよく聞く。だが,これらの認識は正しいのか,根拠は何かとなると,知らない弁護士も多い。少なくとも筆者は知らなかった。調べてみると,こういうことである。

まず,所得税法9条10号は,所得税を課さない場合として,「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における国税通則法第二条第十号(定義)に規定する強制換価手続による資産の譲渡による所得その他これに類するものとして政令で定める所得(第三十三条第二項第一号(譲渡所得に含まれない所得)の規定に該当するものを除く。)」と規定している。ここに「強制換価手続」とは,「強制換価手続 滞納処分(その例による処分を含む。),強制執行,担保権の実行としての競売,企業担保権の実行手続及び破産手続」をいう(国税通則法第2条第10号)。

これによると,一見,抵当権の実行や破産の場合には,所得税が課せられないように見える。しかし条文をよく読むと,所得税が課されないのは,「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」であることが前提だ。すなわち,抵当権を実行されて担保不動産を失った場合であっても,債務者に資力があって,残りの債務を弁済できるときは,原則どおり,譲渡所得税が課せられる。だから,「抵当権実行の場合には譲渡所得税はかからない」という認識は間違いだ。ただ,実際の大多数の例は,債務者に余力が無い場合なので,現実には,譲渡所得税が課せられなかっただけのことである。

同様に,破産の場合であっても,破産財団が増えすぎて100パーセント配当を超えてしまった場合には,譲渡所得税の支払義務が発生する。ただ,これも,現実には100パーセント配当を超えることがほとんど無かっただけである。

ちなみに,所得税法9条10号は,「政令に定める場合」には譲渡所得税が課されないと認めている。この政令とは,所得税法施行令26条である。これによると,実際競売や破産手続を行わなくても,競売等が避けられない状況で任意売却し,かつ,売却代金を全額返済に充てた場合には,譲渡所得税がかからない場合がある。もっとも,税理士に聞いたところ,税務署がこの条項の適用を認めることは余り無いそうだ。(小林)

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2008年10月11日 (土)

「ゆとりローン」破綻回避の秘策?

1011日のTBS系「報道特集NEXT 日本襲う空前の大不況 住宅ローンを返せない人々」で,田丸美寿々キャスターが,マイホームのローンを帳消しにする「秘策」を伝授する不動産業者を紹介していた。

番組によると,その「秘策」というのはこうである。

3500万円のローンをかかえているが,マイホームの市場価格は2200万円しかないため,マイホームを手放しても債務がなくならず,頭を抱えている債務者がいるとする。債務者は,不動産業者に2200万円でマイホームを売却し,代金全額を銀行に返済する。一方不動産業者は,このマイホームを2500万円で,債務者の親戚に転売するのだ。もちろん,多くの親戚は新たにローンを組んでこのマイホームを購入することになる。

12_2 そうすると,元々の債務者は,親戚からこのマイホームを賃借することになる。そこで債務者は,この親戚に家賃を払い,親戚は家賃をローンの返済に充てるわけだ。そして不動産業者は,2200万円で購入したマイホームを,2500万円で転売するわけだから,300万円の儲けになる(もっとも,短期譲渡所得税の負担はあるが)。

「ちょっと待ってくれ。その債務者は,3500万円のローンを負っていたのに,マイホームは2200万円でしか売れなかったわけだから,1300万円のローンが残っているだろう。結局債務者が支払わなければならない金額は同じではないのか?」という疑問を持たれたと思う。実際そのとおりである。しかしそこに「秘策」の「秘策」たるゆえんがある。

3500万円の債権を担保するため,マイホームに抵当権をつけていた銀行には,マイホームが2200万円で売却されることによって,担保のない1300万円の債権が残る。しかし,この債権を持っていても回収の見込みがない。そこで,銀行は債権回収会社(サービサー)に,二束三文でこの債権を売ってしまい,損金として処理する。二束三文とは高くて10万円,私の経験では1000円ということもある。こうやって債権を譲り受けた回収会社としては,債務者に対して1300万円を支払えと請求するわけだが,実際のところ,とても安く譲り受けているので,交渉次第では,100万円で和解できることもある。そうなれば,債務者としては,1300万円だった債務が100万円で帳消しになるうえ,破産してマイホームを失うこともない。法的には所有権は親戚にあるわけだが,以前と変わらず住み続けられるので一挙両得,というわけである。

確かに,一見,魔法のような「秘策」である。しかし,弁護士から見ると,このやり方には,かなり問題がある。

おそらく最大の問題は,この「秘策」は要するに,その親戚に,多大なリスクと負担を負わせるという点だ。この債務者は「家賃」の名目で親戚が新たに背負うローンを支払うわけだが,この「家賃」の支払が滞れば,親戚は身銭を切ってローンの支払いを続ける羽目に陥る。まして,万一この債務者が結局破産した場合,この親戚は「資産隠し」に協力したと疑われ,否認訴訟の被告になる訴訟リスクを負う。また,この親戚は,不動産業者からこのマイホームを2500万円で購入するわけだが,その時点でこのマイホームの市場価値は2200万円だし,銀行は2200万円の物件に対しては1500万円くらいしか貸し付けないから,結局1000万円の身銭を切る必要がある。

これだけのリスクを親戚に負わせる「秘策」に300万円の価値があるのだろうか?かなり疑問といわざるを得ない。

この300万円の儲けは,実質的には「秘策」を伝授したコンサルタント料と,銀行と担保抹消の交渉を行った対価ということなのだろう。そのほかに,将来の債権回収会社との交渉代金も含まれているのかもしれない。しかし,そうだとすると,このやり方は,弁護士以外の者の交渉業務を禁止する弁護士法72条に違反する可能性がとても高い。

それならどうするべきか。一肌脱いでくれる親戚がいるなら,もっと良いやり方がある。ローンの支払いを停止すればよい。

ローンの支払いを停止すれば,銀行はマイホームを競売にかける。競売にかけられたからといって,誰かが競落するまでは,その家に居続けてかまわない。そして,競売される価格は,市場価格よりかなり低いから,2200万円のマイホームなら,せいぜい2000万円だろう。そこで,その親戚が2200万円で入札すれば,ほぼ確実に落札することができる。その後は上の事例と同じである。債権回収会社と交渉して債務を減らせばよい。事情によっては自己破産を選択するべき場合もあろうし,弁護士に依頼した方が良い場合もあろうが,これらの場合でも,300万円のコストがかかることはあり得ない。例えば当事務所なら,弁護士費用が事情により30万円から50万円,実費(管財型破産事件となる場合)が多くて30万円というところだし,これは当事務所が特段に安いというわけではない。なお,破産をすると直ちにマイホームを明け渡さなければならないとお考えなら,それは誤解である。最近では多くの裁判所において,明らかなオーバーローン(不動産の時価よりローン残高が多いこと)の場合,マイホームを明け渡す必要がないという取扱がなされている。

このやり方のリスクとしては,その親戚が入札価格をケチると,マイホームを落札できない可能性があるということ,競売代金は現金決済なので,一瞬のことだが,銀行からお金を借りるときにそのマイホームを担保に入れることができない(別の担保を入れるか,それとも無担保で借りるかしないといけない)という点くらいである。注;下記コメントでご指摘があったとおり,この記述は間違いでした。一定の条件の下で,競落物件を担保に入れてお金を借りることができます。お詫びして訂正致します。)でも,親戚に一肌脱いでもらうのだから,このくらいは覚悟しても良いと思う。

米国のサブプライムローン問題に端を発した世界同時不況は,ゆとりローン返済期間が経過した若い家族を直撃するといわれている。そうなったとき,というより,そうなる前に,是非弁護士に相談してほしい。相談費用が心配なら,事前に電話して確認すればよい。305000円が相場だし,初回の相談なら無料という弁護士も多い(当事務所も無料です)。それでも弁護士の敷居が高いなら,多くの弁護士会では,無料相談をしているから,そちらに行ってほしい。大事なことは,業者に頼む前に,弁護士の意見を聞いてほしいということだ。(小林)

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2008年2月12日 (火)

頼んではいけない弁護士

消費者金融(サラ金)から紹介された多重債務者の債務整理で報酬を得るなどして、大阪府警は大阪弁護士会所属の弁護士二人を逮捕した。報道によると、うち1名は容疑を否認しているという。以下、逮捕事実が存在することを前提とした記述であることをお断りしておく。

逮捕された弁護士は1人が48歳、1人が61歳で、いずれも働き盛りの年齢であるが、生活に困ってヤバイ仕事に手を出したのか、それとも脇が甘くてこうなったのか、そのあたりは分からない。

このような弁護士を提携弁護士という。提携弁護士とは、サラ金などから債務整理事件の紹介を受け、このサラ金から報酬や紹介料を受け取る弁護士のことであり、その数は決して少なくないと言われている。弁護士法の72条は、弁護士でない者が弁護士の業務を行うことや、弁護士紹介を業として行うことを禁止しており、27条は、このような弁護士周旋業者から弁護士が事件の紹介を受けたり、名義を貸したりすることを禁止している。このようなことが禁止される理由は、弁護士が事件周旋業者から仕事を受けるようになると、依頼者の利益のために仕事をしなくなる危険があるからだ。

もし、債務整理をする場合、提携弁護士に依頼してしまうと、業者に骨までしゃぶられることになりかねないから、注意しなければならない。各弁護士会も、提携弁護士を市民に紹介したりしないよう配慮しているはずであるが、漏れが無いとも限らない。

それでは、どのような弁護士が頼んではいけない提携弁護士か。

まず、金融業者から債務の一本化などを勧められたとき、その業者から弁護士を紹介されたら、その弁護士は提携弁護士と見て間違いない。次に、提携弁護士は、業者から薄利で多数の債務整理事件をやらされているから、多くの事務員を(場合によっては業者から派遣された事務員を)使っているし、自分では事件をほとんど処理しない。大阪の普通の法律事務所は、弁護士1人あたりの事務員数は1~2名である。弁護士1人あたり5人以上の事務局がいる事務所は、債務整理を専門にしている可能性が高い。もちろん、債務整理を専門にしているからといって、提携弁護士であるとは限らないし、依頼者の利益を図ってくれないとも限らないが、提携弁護士でないにせよ、事件を全部事務員任せにする弁護士には依頼しない方がよい。最後に、生活に困っている提携弁護士は、事務員を雇う金もなく、多量の事件を全部自分で処理しようとするから、仕事が遅れがちになる。依頼してから2週間経っても債権者からの督促が全然止まらないときは、弁護士会の「市民相談窓口」という部署に相談されることをおすすめする。(小林)

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