2015年4月14日 (火)

「『ご自由にお取りください』ラーメン店でネギを大量に食べたら『出禁』」問題の法的説明のありかたについて

4月11日の弁護士ドットコムで、「自由に取っていいと書かれているネギを大量に食べたことを理由に、(客の)入店を断ることはできるのだろうか」という問題が出され、これに対して、中村憲昭弁護士が「法律的には、客の方が正しい」と回答している。

だが、この回答は「法律的には、間違い」だと思う。

なぜなら、ラーメン店の店主は、店舗に対する施設管理権を持っており、この権利に基づいて、誰を入店させるか否かを、選別する権利があるからだ。

選別の基準はなくてよい。極端な話、性別を基準にしても良いし、国籍・人種・宗教・年齢でもよい。「同業者っぽく見えるから」でもよいし、「タバコの臭いがするから」でもよい。「西から来た客は入れねえ」でも「俺のラーメンは維新の会には食わせねえ」でも差し支えない。今日の基準と、明日の基準が矛盾していてもかまわない。要は、施設管理権者の自由ということだ。

だから、ネギを大量に食べたから、という理由で出入り禁止にしても、法律的には合法だ。正確にいいかえるなら、どんな理由で出入り禁止にしても合法であり、ネギを大量に食べたからという理由も例外ではない、ということになる。したがって、冒頭の問題に対する回答は、「法律的には、店の方が正しい」ということになる。

もとより、この理屈は、ラーメン店に限られない。民間施設であれば、基本的に妥当する。これに対して、市役所等、一般市民が差別を受けず利用する権利がある施設は別だし、民間施設でも、例えば鉄道については、鉄道営業法6条により、旅客や貨物の不当な利用拒否を禁止しているし、医師法19条は、正当な理由のない診察拒否を禁じている。このように、民間施設でも、公益性・公共性が求められるものについては、法律上出入禁止措置が制限されることがある。だが、市井のラーメン店に、このような制限はない。

「店主に出入禁止を課す権利があるか?」という問題は、裏を返せば、「客に入店の権利があるか?」という問題となる。いいかえれば、「店主が拒否しても、入店する権利が法律上保障されているか?」という問題であり、さらにいいかえれば「不当に入店を拒否された客を国家は救済しなければならないか?」という問題となる。中村弁護士の見解に従えば、客は、店主が拒否しても、入店する権利があることになる。したがって、(ネギを大量に食べたという)不当な理由による入店拒否に対し、裁判所に訴えて、慰謝料等の損害賠償金の支払を請求できることになるし、強制的に入店し、ラーメンを食べることもできることになる。

だが、そのような自由は、現行法上認められない。なぜなら、そのラーメン店は、客にとって、他人のものだからだ。いいかえれば、「客に入店の権利がある」との前提で議論を展開した時点で、中村弁護士は法律的に間違っていたことになる。我が国は資本主義国家なのだから、その資本(ラーメン店)をどう使うかは、資本家(の意を受けた店主)の自由であり、一方の客に、その自由はない。

ドットコムのサイトを見ると、「自由にお取りくださいと書いてある以上、ネギをいくら食べても自由じゃないか」という書き込みもある。でもね、問題をよく読んでほしい。問いは「客の入店を断ることはできるか」であって、「ネギの代金を別途請求していいか」ではないし、「ネギの食い過ぎを理由に食事途中で追い出していいか」でもない。張り紙を根拠に、ネギを大量に食べて良いか否かという問題と、出入り禁止の可否の問題は別である。

もちろん、法律的に合法であるとしても、道義的な当否は別問題だし、客を選ぶラーメン店が経営的に成り立つか否かは、もっと別の問題だ。しかし、法律のルールと道徳のルールはレベルの違う問題であり、経済的な成功失敗はさらに別だから、これを混同しないのが法律家のつとめだと思う。また、この種の問題を説明するときに、合法違法の問題と、道義的是非の問題とを明確に区分しながら論じる、ということも、法律家としては大事なことだと思う。

中村弁護士の解説は、たかがラーメンとネギの問題ではあるけれども、法律家としてなすべき区別ができていない点に引っかかったので、書いておくことにした。

とはいえ、「まず店主の面接をパスしないと入店できないラーメン店」って、案外流行るかも。

 

 

 

 

 

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2014年7月 2日 (水)

「月5万円の法律事務所」を考えてみませんか?

大阪弁護士会の月報6月号に、標記の文章が掲載されたので転載します。末尾に書いてあるとおり、参加したいと思われる若手弁護士のご連絡をお待ちしています。ただ性質上、大阪弁護士会員に限られます。

*****************************************

弁護士業務改革委員会第7部会では、「月5万円の法律事務所」を企画したいと考えており、興味ある会員の参加を募集します。

「月5万円」とは、なかなか刺激的だと思います。その必要性と可能性をご説明しましょう。

弁護士はこの10年で倍増しましたが、民事事件数は、過払事件の枯渇に伴い、急速に減少しています。収入が減る以上、生き残る術は、経費節減しかありません。経費の大半を占めるのは、家賃と人件費です。これらを徹底的に切り詰めたオフィスを構想する必要があります。

「アドレスフリー」というオフィス形態があります。これは、専用の机がなく、空いている席で執務する形態です。弁護士は、事務所を留守にする時間の長い職業です。留守の間、執務スペースはカラ家賃を払っています。30人の弁護士が、15の机を共有すれば、事務所の家賃は大いに節約できるはずです。また、IT化を推し進めれば、事務員は不要です。会費や電話代を合計して、固定経費を月10万円に収めれば、30万円の売上で、十分生活できます。

5月初旬、グランフロント大阪にあるインキュベーションオフィスを見学しました。最先端のビルだけあって、天井が高くて明るく、開放的な雰囲気です。ITベンチャーを中心に約70人の会員が、50脚以下の机を共有しているとのことでしたが、見学した時にはその半分も埋まっていませんでした。什器はカラフルで機能的なものが多く、IKEAか中古家具店で購入したとのこと。36524時間使用可能で、打ち合わせスペースやセミナールーム、複合機や電子レンジ、私書箱とロッカー、電源やWI-FI等が無料。電話の取次やお茶だしはなく、会員は自分のPCと携帯電話ですべての仕事をこなし、使用料は月額38000円。つまり、月額5万円の法律事務所は、決して不可能ではないのです。単純計算すれば、坪1万円なら、30人で100坪借りておつりが来る、ということになります。

アドレスフリーには他の利点もあります。それは、利用者同士の相談や雑談が、互いのスキルを高め、精神の安定をもたらすことです。見学したインキュベーションオフィスでも、会員同士で打合せを行う様子が普通に見られましたし、意気投合し共同して独立した例もあるとのこと。ブラック事務所や、インターネットカフェのような事務所に一人でいるよりは、精神衛生に良いはずです。

もちろん、問題もあります。たとえば、書面はすべてデータ化してクラウドに置き、原本は自宅に保管し、タブレットとノートPCで出廷することになりますが、それで事務処理が可能か、検証する必要があります。また、本は電子書籍か、「自炊」することになります。顧客のプライバシー確保も問題になります。

法制度上の問題もあります。たとえば、このようなオフィスを事務所住所として登録することは可能でしょうか。見学したインキュベーションオフィスは、法人の住所地として登記することを認めていましたが、法律事務所の場合、規制を受ける可能性があります。このほか、セキュリティの維持や、チャイニーズ・ウォールのあり方なども、検討を要する課題です。

このような問題点を洗い出し、解決の道筋を探ることが、この企画の当面の目的です。業界全体が地殻変動を迎え、良くも悪くも根本的な変革が求められているいま、何が悪しき旧弊かを見極め、変えていきたいのです。

この企画を進めるには、若手弁護士の参加が不可欠です。もし実現しなくても、固定経費を徹底的に切り詰めたオフィスの構想は、必ず役に立つはずです。参加希望のご連絡をお待ちしています。

弁護士業務改革委員会第7部会

副委員長 弁護士 小林正啓(44期)

kobayam@gold.ocn.ne.jp

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年7月 4日 (水)

株主総会定足数排除の定款について

先日の株主総会終了後の茶飲み話で話題となったネタ。

会社法は、株主総会の定足数を、「議決権を行使することができる株主の過半数」と定めている(3091項)。しかし、同条項には「定款に別段の定めがある場合を除き」とあるから、定款に定めれば、この定足数要件を排除できる。では、会社法の定める定足数要件を排除したいとき、定款にどう定めればよいか。

どのサイトを見ても、ひな形の文章は同一だ。

「株主総会の決議は、法令又は定款に別段の定めがある場合のほか、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって決する」とある。

この文言に、取締役の一人が疑問を述べた。「この定款には、『法令に別段の定め』がある場合は法令が優先すると書いてある。すると、会社法の規定があれば、それが優先することになる。だが、会社法3091項には、『定款に別段の定めがある場合を除き』と書いてあるから、定款が優先する。これでは、どちらが優先するのか、分からないじゃないか」

この取締役の疑問は、実にもっともだと思う。確かに、詳細は省くが、解釈論を駆使すれば、定款の規定は、会社法3091項を排除する趣旨と読むことができる。しかし、株主総会の定足数要件は、「基本中の基本」のルールだ。交通法規でいうなら「車は左側通行」や「赤は止まれ」に匹敵する。このような基本的なルールは、一義的に明確でなければならない。ごく平均的な日本語能力を持つ者が理解できなかったり、解釈論を持ち込まなければ正しい答えが出なかったりというのは、基本的ルールのあり方として、根本的に間違っていると思う。

問題の定款の規定は、例えば、こう定めたら良い。「株主総会の決議は、会社法3091項の規定にかかわらず、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって決する」。こう定めれば、解釈の余地は一切なく、会社法の規定を排除できる。

あるいは、「株主総会の決議は、会社法の規定にかかわらず、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって決する」でもよい。

こう定めれば、もし会社法改正により条文の位置がずれても、定款変更をしないで済む。一方、特別決議に関する定足数の定めは強行法規であって、当然に定款より優先するから、不都合は起きない。

「株主総会の決議は、法令又は定款に別段の定めがある場合のほか、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって決する」という定款の定めは、どのサイト、どの会社でも同一のようだ。そうだとすると、この定めは、特定のひな形を倣っているのだろう。だが、このひな形は、解釈の余地を残す点で、かなりデキが悪い。

こんなデキの悪いひな形を作った方も作った方だが、定款作成時、何の疑問も差し挟まなかった弁護士たちも、何をチェックしていたのだろう。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年4月26日 (木)

大阪弁護士会のお金は余っている

大阪弁護士会法律相談センターの赤字は年々増加しているが、弁護士会全体の会計は黒字だった。(「だった」というのは、23年度に初めて、赤字に転落すると言われているから)

とはいえ、非営利団体である弁護士会の会計が黒字というのは、不正確だろう。「お金が余っていた」という方が正確かもしれない。

平成22年度のキャッシュフローを見ると、大阪弁護士会の総収入は約165000万円。うち91500万円余が会費で、65300万円余が負担金会費(法律相談センター負担金会費のほか、破産管財人報酬、国選弁護報酬等の負担金も含む)である。

一方、総支出は102000万円余。大半が職員の人件費(推定で55000万円)と、会館の維持管理費及びローンの返済(15000万円)である。

総収入と総支出を差し引きすると、71600万円ほど余る。だが、法律相談事業(36000万円余)、法律扶助事業(約2300万円)等の特別会計の赤字に食われ、最終的には約31900万円余っていた。

ところで、大阪弁護士会最大の借金は平成18年に完成した会館のローンだが、その残高約23億円については、これと同額の引当金が積み終わっている。従って、2億円とも言われる違約金を支払えば、繰り上げ返済が可能だ(23年度に一部繰り上げ返済済み)。2億円といえば安くないが、今支払い続けている利息が年6000万円と聞けば、どう考えても、一括弁済の方が得だろう。

会館のローンを返済してしまえば、毎年57000万円ほどのお金が余ることになる。破産管財人報酬の負担金を全部廃止しても、おつりが来る金額だ。

さらに想像をたくましくして、法律相談事業や扶助事業を廃止してしまえば、どうなるのだろう。

大阪弁護士会の職員数は約120名。会員数において倍以上の東京弁護士会より多い。職員の半数が法律相談事業に関わっている。法律相談事業や扶助事業を廃止し、職員を半減すれば、会費負担額を半額にしても、弁護士会の運営は十分可能である。

もちろん、法律相談事業等を廃止すれば、弁護士会での法律相談をきっかけとする事件受任もなくなるから、その分弁護士報酬が減ることになる。したがって、法律相談事業等を廃止するか否かは、会費負担の減少と、弁護士報酬の減少との比較にかかっていることになる。

もう一つ、この問題に法テラスが絡むことになる。(続く)

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年4月 6日 (金)

弁護士と顧客満足(CS)

大坂弁護士会最大級の派閥である友新会が「利用者の視点で弁護士・弁護士会のあり方を考える~真の顧客満足とは何か~」というシンポジウムを開き、その有様を会誌に掲載した。

ゲストはもと大阪家庭裁判所所長の林醇氏と、北野病院病院長の藤井信吾氏。林氏は「大阪家庭裁判所CS向上プロジェクト」を発足させ、家事調停における「顧客満足」を追求した。家事調停とは主に離婚と相続だが、調停成立率が低く、当事者が満足を得られていないのではないかという問題意識のもと、裁判官や調停員らにより構成するワーキングチームを作り、CSの向上を目指した。

藤井信吾氏はもと産婦人科医。年間1000分娩ある病院の医長から病院経営の手腕を発揮し、赤字病院を次々黒字化した。患者を断らない、病院スタッフの責任感と奉仕の精神を醸成する、接客に必要な言葉遣いの徹底など、あらゆる面で病院のCS向上を図っている。

対する弁護士からは、藪野恒明現大阪弁護士会長ら。弁護士側からは、弁護士大増員時代を踏まえ、依頼者の視点に立った業務のあり方について、様々な意見が出されたが、ゲストの二人に比べ、焦点がぼやけてしまった印象がある。林もと大阪家庭裁判所所長からは、「調停などをやっておりますと、実は弁護士さんがいなければ簡単に成立するのに、弁護士さんがついているためにいろいろと難しいことを言われて成立しないということが非常によくあります。そのことが本当に依頼者のためになっているのか」とか、藤井院長からは、「医療というのは、本当に命がけで、我々は体を削ってやっているんです。だけど…裁判に負けたからといって、負けた側の弁護士さんというのはどういうふうな形でパニッシュメントをうけているのか。ただ報酬がもらえないだけ。これはやはり甘い世界だと思うんです。極めて甘い世界で仕事を依頼されているということは、そこに何か甘えがあるんじゃないか」などと、かなり厳しい苦言も放たれているが、弁護士側からは反論もなく、やや肩すかしであった。

とはいえ、「客を待たせて平気」な施設の二大巨頭だった裁判所や病院が、一部かもしれないが顧客満足を追求しているという事実は、素直に受け止めるべきだと思うし、翻って弁護士にとっての顧客満足とは何かは考えなければならない。

弁護士と、裁判官や医師の仕事には相違点も多いが共通点もある。たとえば、しばしば、ものすごく筋の悪い事件(症状の患者)を引き受けなければならない、という点だ。離婚しようがしまいが、絶対に幸福になれない夫婦、難病で、およそ助かる見込みのない患者を引き受けたとき、裁判官や医師は、どうやって「顧客満足」を追求するのだろうか。

そこには、弁護士のあるべき姿に対するヒントが含まれているような気もする。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2012年3月26日 (月)

AIJ事件に群がる弁護士

321日の日本経済新聞朝刊は、「ある大手法律事務所はAIJの被害にあった総合型年金基金などに一斉に『委任同意書』を送った。この法律事務所の弁護士が資産返還や損害賠償などで必要な折衝・交渉の代理人を務めると申し入れる内容。関係者によれば、20日までに30以上の企業年金がこの法律事務所への委任への同意書を返送したという。同法律事務所は損害賠償請求などの集団訴訟を視野にAIJなどと折衝・交渉を進めるとみられる」と報じた。

「委任同意書」とは聞き慣れない言葉だが、要は「当事務所に依頼してください」という勧誘だろう。この「大手法律事務所」は、何らかの方法でAIJの顧客名簿を入手し、しらみつぶしに営業をかけているようだ。

「アンビュランス・チェイサー(Ambulance chaser)」という言葉がある。直訳すれば「救急車追跡人」だが、意味するところは、事故(=人の不幸)を商売の種にする悪徳弁護士である。アンビュランス・チェイサーに問題があるのなら、この「大手法律事務所」の営業のやり方はどうなのだろう。

日弁連は、「弁護士の業務広告に関する規程」を定めており、その6条は、「弁護士は、特定の事件の当事者及び利害関係者で面識のない者に対して、郵便又はその他これらの者を名宛人として直接到達する方法で、当該事件の依頼を勧誘する広告をしてはならない。ただし、公益上の必要があるとして所属弁護士会の承認を得た場合についてはこの限りでない」と定めている。これは、わが国の弁護士による「アンビュランス・チェイサー」行為を禁止する規程だ。AIJの事件で被害を受けた年金基金は、「特定の事件の当事者」にあたるから、この「大手法律事務所」が、面識のない年金基金に対して「委任同意書を送った」行為が、「当該事件の依頼を勧誘する広告」に当たる場合には、「公益上の必要があるとして所属弁護士会の承認を得た」のでなければ、同規定違反となる。

この「大手法律事務所」はどこなのだろうと思って、FBで聞いてみたら、「お友達」から、直メールを含め、複数の法律事務所名を教えていただいた。何のことはない、東京の大手法律事務所は、AIJ事件の顧客争奪戦を繰り広げているのだ。

そうなると、冒頭の新聞記事も怪しくなってくる。これは、記事自体が、実質的に広告である可能性が高い。しかし、この法律事務所の行為が、万一、日弁連の規程に違反する場合は、この新聞記事も品位を問われることになる。

弁護士ではない一般市民は、このような弁護士の行動をどう見ているのだろう。ちなみに、FB上のコメントでは、「これこそ司法改革の求めた姿」と絶賛する弁護士の声が複数あった。もちろん皮肉だけどね。

それはさておき、AIJ事件に関し、法律事務所への委任を検討している年金基金には、契約条項をきちんとチェックするようアドバイスしておく。あとで、より好条件の弁護士に乗り換えても、違約条項に縛られて報酬をがっぽり取られないよう、気をつけられたい。

"Did you hear about the lawyer hurt in an accident?"
  "An ambulance stopped suddenly."

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年3月20日 (火)

情けなくてうさんくさい提言をする弁護士たち

「一人一票の国民投票で首相候補を選ぶ会」の意見広告が、319日付日本経済新聞に載った。

メンバーは伊藤真久保利英明黒田健二升永英(五十音順)各弁護士ら。一票の格差の是正を訴えているメンバーと同一のようだ。

意見広告の中身は、やや分かりにくいが、ポイントは、「憲法を改正せずに、首相公選制を実現しよう」という点にある。

少し敷衍すると、こういうことのようだ。

①国民の7割以上が、首相公選制に賛成しています。
②しかし、憲法改正して首相公選制にするのは大変です。
③でも、憲法を改正せずに、首相公選制を実現する方法があります。
④それは、首相公選制を政権公約する政党に投票して、両院の過半数を取らせる、というものです。

⑤そうすれば、その政党が、首相公選制を定める「国民投票法」を制定してくれます。

⑥これで、日本は、変わります

この広告を、どう思われるだろうか。

私は、この提言を、とても情けないと思うし、うさんくさいとも思う。

情けなく思うのは、「憲法改正をせずに、法改正によって、実質的に憲法を変更しよう」という、「こすっからい」やり口だ。

首相公選制にしたいなら、堂々と憲法を改正したらよい。本当に国民の7割が首相公選制を望んでいるなら、できるはずだ。

おおもとの法制度に手をつけず、下位法規の改正で上位法規を骨抜きにするというのは、官僚の得意技だが、いやしくも弁護士が提唱すべきことではない。日本人のプリンシプルのなさを如実に反映した提案ともいえるが、そんな弥縫策を続ける限り、日本は、絶対に、変わらない

しかも、この提案には、法解釈上の疑義が山盛りだ。

「首相公選制を政権公約する政党」に両院で過半数を取らせたとして、公約の実現をどう保証するのか、国民投票法に基づいて選ばれた首相と国会との関係(例えば内閣不信任や解散権)はどうなるのか、このやり方で、広告通り首相の任期4年が保証されるのか、その他諸々の疑問がある。つまるところ、憲法が定める権力分立体制・議院内閣制と、法律で定める首相公選制との整合が全く考えられていない。

もっともうさんくさいのは、「国民投票法の制定」と「首相公選制を政権公約する政党」への投票がワンセットになっている点だ。いうまでもなく、立法は衆参両院が多数決によって行うものであり、特定の政権政党が行うものではない。現に、多くの法案は、複数の政党の賛成によって成立している。だから、首相公選制度を立法するには、それに賛成する議員が両院で過半数ずついればよく、政権政党単独で両院の過半数を占める必要は全く無い。

ところが、この意見広告は、どこか一つの政党が、「首相公選制を政権公約」し、その政党が単独過半数を取ることを前提としている。つまり、この広告は、実は首相公選制を目的とするものではなく、その公約を掲げ(ようとしてい)る「特定の政党」の応援を目的としていることになる。

広告の右側には、3つの政党名が記載されている。民主党・自民党は、第一党第二党だからよしとして、第三党でも何でもない「みんなの党」が、残りの一つに掲げられている。他の政党は名前すらない。なぜここに「みんなの党」が出てくるのか。同党と、「選ぶ会」の関係はどうなっているのか。うさんくさくて鼻が曲がりそうである。

私は、首相公選なら大いに結構と考えているし、一人一票も大いに賛成だし、みんなの党も嫌いではない。

だが、こういう、こすっからくてうさんくさいやり方は大嫌いである。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年3月 8日 (木)

オウム齋藤元信者による犯人蔵匿罪の解説

オウム真理教(もと?)信者で特別指名手配されていた平田信(まこと)容疑者(46)をかくまったとして犯人蔵匿(ぞうとく)罪に問われた教団元信徒斎藤明美被告(49)に対する初公判が6日、東京地裁で開かれ、同被告は起訴事実を認め、検察は懲役2年を求刑して結審した。

犯人蔵匿罪に関する私の知識は司法試験受験時(1989年)以来全く更新されていないが、本件に即して、この罪について解説すると、次の通りである。

犯人蔵匿罪(刑法103条)は、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者…を蔵匿し、又は隠避させた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する」と規定する。

平田容疑者は「罰金以上の刑にあたる罪を犯した者」に該当するわけだが、厳密には容疑者に過ぎず、無罪になる可能性があるから、「罪を犯した者」とは言えないのではないか、とも考えられる。だが、この罪は国家の刑事司法作用の保護を目的としているので、結果的に無罪になったとしても、本条の「罪を犯した者」にはあたり、犯人蔵匿罪が成立するとされている。

もっとも、罪を犯していても、公訴時効成立等によって、処罰される客観的可能性がなくなっていれば、守るべき国家刑事司法作用は存在しないから、犯人蔵匿罪も成立しない。平田容疑者は国松長官襲撃事件でも容疑者とされていたようだが、これについては公訴時効が成立しているので、犯人蔵匿罪は成立しない。

一方、特別手配の根拠となった「島田裕巳宅爆弾事件」や「公証人役場事務長逮捕監禁致死事件」では、一見公訴時効が成立しているようにみえるが、その主犯とされる中川智正井上嘉浩各死刑囚への公訴提起により公訴時効が一時停止したため、その効果は平田容疑者にも及ぶ(刑事訴訟法2542項)。

「蔵匿」とは「官憲の発見・逮捕をまぬかれるべき場所を提供してかくまうこと」をいう。平田・斎藤両名は当初、東北地方を放浪し、その後東大阪市に落ち着いたようだが、放浪の際は、「隠避」は成立しえても、「蔵匿」とは言えないかもしれない。

ところで、本件は17年にわたり隠れていたわけだが、それでも時効は成立しないのだろうか。「蔵匿」は刑法学上、「継続犯」に分類される。継続犯は、法益(本件の場合は、国家の刑事司法作用)が妨げられている限り、犯罪は成立し続けるとされ、その一連の行為が終了して初めて、公訴時効が進行し始める、と一般に理解されている。だから検察は17年前の事実に遡って公訴を提起したのだろうし、弁護側も特に争わなかったようだ。だが、本当にそう考えるべきかについては、議論があってしかるべきだと思う。

犯人蔵匿罪については、他の犯罪にはあまり見られない、特別な条項が適用される。それは、「犯人…の親族が、犯人…の利益のために、犯人蔵匿罪…を犯したときは、その刑を免除することができる」(刑法105条)という条文だ。昭和22年以前は、「罰セズ」となっており、例えば妻が夫を匿っても犯罪にならないとされていたが、改正後は、親族でも蔵匿罪が成立し、ただ免除されうるものとなった。

さて、平田容疑者と斎藤被告だが、内縁関係にあったとみてよいだろう。「内縁の妻」は戸籍上配偶者ではないが、様々な法律適用場面において、妻に準じる地位を実務上認められている。そこで、弁護側としては、妻に準じるべきであるとして、刑の免除に近い酌量を求めたのではないかと想像する。

斎藤被告は、自ら警察署に出頭して逮捕されたのだが、これは刑法上「自首」にあたる可能性がある。刑法上の自首(42条)は、犯罪が発覚しても誰の犯行か分からない場合の出頭に適用されうるからだ(この部分、下記コメントのご指摘により訂正しました)

裁判所がなぜ東京地裁なのかについては、よく分からない。刑事訴訟法上は、「裁判所の土地管轄は、犯罪地又は被告人の住所、居所若しくは現在地による」(2条)とあるが、犯罪地は東京でないはずだ。斎藤被告の住民票上の住所が東京だったのかもしれない。斎藤被告は東京都の拘置所にいるだろうが、警察が連れて行けばどこでも「現在地」にあたるわけではないだろう。

犯人蔵匿罪の刑は、2年以下の懲役である。検察側は、上限一杯の2年を求刑したようだ。これはオウム事件という、日本史上まれにミル重大犯罪の係累だが、上述した時効の問題や、斎藤被告が内縁の妻であることを考慮すれば、本件は執行猶予判決が相当の事案であるように思われる。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2012年2月29日 (水)

2月29日生まれの彼女には,閏年でない年の何月何日にプレゼントを渡すべきか?

この問題についての法律解釈は,次のとおりとなる。

まず,年齢計算に関する法律,という明治35年に制定された法律があり,この1条には,「年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス」とある。これにより,年齢は,何時何分生まれかを一切問わず,生まれた日を第1日目として数え始めることになる。

次に,この法律の2条が準用する民法143条によると,1年間という期間は,「起算日に応当する日の前日に満了する。ただし,応答する日がないときは,その月の末日に満了する」とある。

つまり,例えば4月1日から1年間を起算するときは,翌年の3月31日の満了をもって一年経ちますよ,というわけだ。まあ,当たり前ですね。

ここからが少しややこしい。4月1日生まれの人は,翌年の3月31日の深夜12時に一つ年を取る。これは同時に4月1日の午前0時だが,法律上は,あくまで3月31日に一つ年を取るのだ。

2月29日生まれの人は,この条文により,応当する日である2月29日がその翌年には無いので,その月の末日,つまり2月28日深夜12時をもって一つ年を取る,ということになる。

以上のとおり,法律上は生まれた日の前日に一つ年を取るのだが,普通,年を取った日の翌日(つまり,生まれた日)に誕生祝いをするのが一般的だ。すると,2月29日生まれの人が一つ年を取るのは,2月28日深夜12時だが,誕生祝いをするのは,3月1日ということになる。

従って問題についての答えは,プレゼントを渡すべき日は3月1日ということになる。

これが法律解釈としては正しいはずだが,感情的にはどうもしっくりこない。だって,2月29日と3月1日の両方が誕生日になる人は,2月生まれか3月生まれか分からなくなって,占いなどでも困るだろう。どちらかといえば,2月28日にプレゼントを渡した方がいいような気がする。3月1日説は,誕生日を忘れてしまって彼女に責められたときの言い訳に取っておこう。(2008年2月29日の記事再録)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年2月20日 (月)

「原子力損害賠償紛争解決センター」と善意の愚行

原子力損害賠償紛争解決センターでの事件処理が進まない。217日の毎日新聞によると、9月の受け付け開始から215日までの申立件数948件のうち、解決したのは5件、つまり0.5%だ。記事は、遅れの原因として、「これまでの手続きでは、東電側の消極的な姿勢が際立っていた一方、前例のない原発事故で和解を導くのに慎重にならざるをえないセンター側の事情」を挙げている。どんな理由があるにせよ、このセンターは、原発事故被害者に対する救済機関としては、失格の烙印を免れない。

本当に愚かなことだと思う。少なくとも弁護士の立場から見た場合、あまりの愚かさに、言葉もない。

私は原発事故直後から、日弁連の偉いさんに向かって、「1億円でコンピューターを買え」と言い続けたが無視された。東電に対する損害賠償請求権をもつ者は、少なく見ても数十万人に達する。この人たちが個別に訴訟を起こせば、巨大な東京地裁の庁舎をもう一つ建てても追いつかない非常事態だ。だから日弁連は、裁判所と協力して、数十万人以上の原告を複数のグループに分類し、訴訟を円滑に管理する責任があった。そのためには高価なコンピューターを購入する必要がある。そのうえで、全ての事件に、最高の弁護士と法律家、原子力発電や安全工学に関する世界最高水準の学者を投入し、可能な限り早期に、東京電力の過失の有無と因果関係の及ぶ範囲を確定させるのだ。巨額の費用が必要だが、2011年春から夏の関東・南東北の街頭に宇都宮会長以下の弁護士が立ち、東京電力に対する訴訟支援金の募金活動を行えば、数億円以上の金が、あっという間に集まっただろう。

繰り返すが、私の提案は、完全に無視された。その代わり日弁連が行ったのは、原子力損害賠償紛争解決センターの設置だった。

裁判以外に、迅速を旨とする救済機関を設けること自体には、私も反対ではない。たとえるなら、交通事故訴訟と自賠責保険の関係だ。訴訟はどうしても時間がかかるから、当面の支援を裁判外機関に委ねることは、被害者救済の視点から重要である。

この場合、救済機関に課せられた最も重大な使命は迅速性だ。端的に言えば、被害者であることと被害内容について、一応の証明があれば現金を支払い、後は、誰にいくら支払ったのかを記録すれば、それで十分である。過不足があれば、裁判所に解決させればよい。紛争の最終解決はあくまで裁判所主体で行うのが、法の支配というものだろう。

だが、役人と弁護士が作ったのは、裁判所のような緻密で慎重な紛争解決機関だった。その結果が、半年でたった0.5%の解決率だ。緻密な制度を作った結果、被害者救済がおざなりになった。馬鹿げた皮肉である。役人は、あえて救済範囲を狭めようとしているのかもしれないが(それなら是非はともかく、目的と手段は一貫している)、弁護士はそうではあるまい。そうだとするなら、原子力損害賠償紛争解決センター設立に関わった弁護士は愚かだ。ものすごく馬鹿である。しかも、善意に基づく愚行だから始末に負えない。

語弊をおそれず言うなら、今回の原発事故は、司法すなわち裁判所と日弁連が、その存在意義を国民に知らしめる、おそらく最後のチャンスだった。裁判所の及び腰と、日弁連幹部の愚かさが、このチャンスをみすみす見逃したのである。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧