「『ご自由にお取りください』ラーメン店でネギを大量に食べたら『出禁』」問題の法的説明のありかたについて
4月11日の弁護士ドットコムで、「自由に取っていいと書かれているネギを大量に食べたことを理由に、(客の)入店を断ることはできるのだろうか」という問題が出され、これに対して、中村憲昭弁護士が「法律的には、客の方が正しい」と回答している。
だが、この回答は「法律的には、間違い」だと思う。
なぜなら、ラーメン店の店主は、店舗に対する施設管理権を持っており、この権利に基づいて、誰を入店させるか否かを、選別する権利があるからだ。
選別の基準はなくてよい。極端な話、性別を基準にしても良いし、国籍・人種・宗教・年齢でもよい。「同業者っぽく見えるから」でもよいし、「タバコの臭いがするから」でもよい。「西から来た客は入れねえ」でも「俺のラーメンは維新の会には食わせねえ」でも差し支えない。今日の基準と、明日の基準が矛盾していてもかまわない。要は、施設管理権者の自由ということだ。
だから、ネギを大量に食べたから、という理由で出入り禁止にしても、法律的には合法だ。正確にいいかえるなら、どんな理由で出入り禁止にしても合法であり、ネギを大量に食べたからという理由も例外ではない、ということになる。したがって、冒頭の問題に対する回答は、「法律的には、店の方が正しい」ということになる。
もとより、この理屈は、ラーメン店に限られない。民間施設であれば、基本的に妥当する。これに対して、市役所等、一般市民が差別を受けず利用する権利がある施設は別だし、民間施設でも、例えば鉄道については、鉄道営業法6条により、旅客や貨物の不当な利用拒否を禁止しているし、医師法19条は、正当な理由のない診察拒否を禁じている。このように、民間施設でも、公益性・公共性が求められるものについては、法律上出入禁止措置が制限されることがある。だが、市井のラーメン店に、このような制限はない。
「店主に出入禁止を課す権利があるか?」という問題は、裏を返せば、「客に入店の権利があるか?」という問題となる。いいかえれば、「店主が拒否しても、入店する権利が法律上保障されているか?」という問題であり、さらにいいかえれば「不当に入店を拒否された客を国家は救済しなければならないか?」という問題となる。中村弁護士の見解に従えば、客は、店主が拒否しても、入店する権利があることになる。したがって、(ネギを大量に食べたという)不当な理由による入店拒否に対し、裁判所に訴えて、慰謝料等の損害賠償金の支払を請求できることになるし、強制的に入店し、ラーメンを食べることもできることになる。
だが、そのような自由は、現行法上認められない。なぜなら、そのラーメン店は、客にとって、他人のものだからだ。いいかえれば、「客に入店の権利がある」との前提で議論を展開した時点で、中村弁護士は法律的に間違っていたことになる。我が国は資本主義国家なのだから、その資本(ラーメン店)をどう使うかは、資本家(の意を受けた店主)の自由であり、一方の客に、その自由はない。
ドットコムのサイトを見ると、「自由にお取りくださいと書いてある以上、ネギをいくら食べても自由じゃないか」という書き込みもある。でもね、問題をよく読んでほしい。問いは「客の入店を断ることはできるか」であって、「ネギの代金を別途請求していいか」ではないし、「ネギの食い過ぎを理由に食事途中で追い出していいか」でもない。張り紙を根拠に、ネギを大量に食べて良いか否かという問題と、出入り禁止の可否の問題は別である。
もちろん、法律的に合法であるとしても、道義的な当否は別問題だし、客を選ぶラーメン店が経営的に成り立つか否かは、もっと別の問題だ。しかし、法律のルールと道徳のルールはレベルの違う問題であり、経済的な成功失敗はさらに別だから、これを混同しないのが法律家のつとめだと思う。また、この種の問題を説明するときに、合法違法の問題と、道義的是非の問題とを明確に区分しながら論じる、ということも、法律家としては大事なことだと思う。
中村弁護士の解説は、たかがラーメンとネギの問題ではあるけれども、法律家としてなすべき区別ができていない点に引っかかったので、書いておくことにした。
とはいえ、「まず店主の面接をパスしないと入店できないラーメン店」って、案外流行るかも。
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